確率的にいえば、 「感染者と濃厚接触しても感染する事は十中八九ない」
藤井 ちなみに、感染してしまった場合における「致死率」についてはどうでしょう?
藤井 なるほど、濃厚接触者にすら誰一人感染させていない感染者、っていうのが、5人中4人、80%もいるっていうことですね。一人が何人に伝えているかにもよりますが、インフルエンザよりも、感染しにくい傾向がありそうですね。
藤井 でも、それも、スプレッダーが濃厚接触者全員に感染させるわけではないですよね。他者に感染させた実績のある五人の内の一人の感染者においても、その濃厚接触者全員に感染させたわけじゃないですよね。だから、目の前に感染者がいたとして、その人と濃厚接触したとしても、その人に感染させられる確率って、最大で20%ですが、実際のところ数パーセントから一割程度、っていうことなんでしょうね。逆にいうと、感染者と濃厚接触したとしても、確率論的にいうなら十中八九うつらない、ということですね。
宮沢 データからはそうなりますね。まあ規制はしているとはいえ、自粛はしているとはいえ、それでもある程度の生活を皆が続けていて、この程度の広がりだとすれば、今の警戒レベルを続ける限り、それほど急速に感染していくとは思いがたいですね。
でももちろん、一部の人は潜在的にものすごいかかっているのではという説もあって、私もそれを危惧していたんですけれども、PCR検査をやってる地方衛生研究所の方々の話を聞くと、「いや、それはないんじゃないか」とのこと。というのは、要はPCR検査、RT─PCR検査をするときに疑い例だけをセレクトしていますよね。
藤井 事前確率の高い人(=新型コロナ感染可能性が高い人)たちですよね。
宮沢 そうです。この人は多分感染しているんじゃないかっていう人にやっているのにもかかわらず、それでも陰性が多いようです。要するにもし一般市民に広がっているのだとしたら全体の検査数は少なくても、感染者が増えてくるわけです。ところが今のところ、それが見られないということは、少なくとも現時点では一般にもそれほど急激には広まっていないようです。日本においてはですね。もちろん、イタリアとかは分からないです。イタリアの検査結果の統計が正しいとすれば、イタリアでは一部の都市で感染爆発が起きています。
イベント「自粛」の、ウイルス抑え込み効果は未知数である
藤井 いま特にイタリアやイランがすごく広がっていますけど、これと日本との違いってどこにおありだと考えられますか?
宮沢 分からないですけど、まず、国民性の違いがあるのかなと。
藤井 よくいわれるのは握手だとかほおずりだとかがイタリア人が多いと。しかも、イタリアの大きな特徴が皆、大家族で暮らしてて、複数世帯が一緒のケースも多いっていうところがあるようです。だから、家族の中に年配の方が必ずいて、家族同士いつも一緒に時間を濃密に過ごすので、町中で感染した若者が家に帰ってきて、家庭内で年配の方に感染させるケースが多く、それで急速に重篤になって死亡する高齢者が増えたんじゃないかといわれてます。実際、イタリアで亡くなった方の94%が60歳以上ですから、そういう説明は合点がいく説明ですね。
宮沢 あと、これは不確定情報なのですが、現在感染が爆発的に広がっているのは特殊事情があったのかもしれません。というのも、サッカーのチャンピオンリーグの試合、アタランタ対バレンシアの一戦が、ミラノで開催されたのです。その時に、アタランタのホームタウンであるベルガモから、3万5000人が、スペインのバレンシアから2500人も訪れていたというのです。その日は、アタランタが勝利したのですが、サポーターが地元のレストランや酒場で盛り上がった。そして、二週間後、感染者が急増したというのです。現在、イタリアで感染拡大が起こっているのは、ベルガモがあるロンバルディアです。また、バレンシアもスペインの感染拡大の中心地になっています。当時はまだウイルスについては警戒はしていなかったので、運悪く感染が一気に拡大した可能性はあります。ただ、これはあとで検証する必要はあるかと思います。
藤井 そういったことがあったのですね。
宮沢 で、日本でそんなに増えていないのは政策、自粛のおかげだということも言っている人もいるんですけど、実は自粛自体の効果がどれだけあるかというのもよく分からなくて。
多分政府の方は自粛したことによって抑えられている、(封じ込めに)成功したと言いたいのでしょうけど、まだ、今のところ分からない。例えばもし自粛していて感染率が下がるのであれば他の感染症の流行も下がるはずですよねえ。
藤井 ああ、なるほど。
宮沢 感染様式が同じインフルエンザと同じ対策をとっているわけですから。それで「インフルエンザも急激に感染が下がっているんじゃないの?」っていう人もいる。けれども統計を見るとインフルエンザは確かに例年よりも低いんですけれども、この低さは去年早く感染が始まったので比較的早く収束していてこれは自粛の効果といえるかどうかは分からない。自粛をする前と後で、感染者の数の増加の傾きが自粛前後で今のところ特に変わっていない、っていうことを指摘する先生もいる。
ということで日本人は普通にいつも通りに、手洗いやうがいなどで防御して、ソーシャルディスタンスに留意していれば、この程度しか広がらないんじゃないかなとも思います。
藤井 おそらく日本人は世界で一番手を洗う民族ですよね。
宮沢 でしょうねえ。私も帰宅したら手を洗ってアルコール消毒して即、お風呂に入ります。自粛のせいでというのは、自粛の寄与率がどれだけあるのかは私にもちょっと分かりませんね。
藤井 なるほど、自粛自粛、って言ってる割に、感染抑え込みの効果は、さしてないかもしれない、ということですね。実際、政府の専門家会議でも、「大規模イベントの自粛要請……が……(どれだけの)効果を上げたかについては定かではありません」とはっきり言ってますしね。
宮沢 実際、普通に考えて、例えば静かに音楽を聴くとか、みんなが集まって映画を見るとか、それでも感染リスクが高いとはちょっと考えにくいですよね。
藤井 あの、集団感染が起きる三条件(⑴換気の悪い密閉空間、⑵人が密集、⑶近距離での会話や発声)が一つでも欠損すると相当リスクは下がるでしょうねえ。
宮沢 でしょうねえ。
藤井 特に、飛沫が飛ばなければほぼリスクは〇ですよね。もちろん、接触感染にも気をつけてさえいれば、ということですが。
宮沢 そうですね、要は飛沫を予防するということと、入場する時に手をしっかり洗うことと、企画者がその辺の「てすり」とかをきちんと消毒すれば、ほぼほぼ問題はなかろうと。
藤井 原理的に感染するルートはあり得ない。
宮沢 そうですよね。私たちは感染症をやっていてこうすれば感染しないって分かっているから、これでいいよねっていうのはあるんですけれども……。
藤井 にもかかわらず、欧米はものすごく社会活動を禁止し始めています。欧米各国は、まず、1000人規模のイベントや500人規模、100人規模のイベントの開催を禁止し始めましたが、その後どんどんエスカレートして、イタリアやイギリス、スペイン、フランスでは、程度の差こそあれ、基本的に外出禁止になりました。アメリカの半分くらいの州で外出禁止になっています。日本でも、小池東京都知事が、東京五輪の延期が決まったらすぐに「首都封鎖」なんていうことを口にし始めました。こういう対応はどう思われますか?
宮沢 私には、完全に狼狽しているとしか思えないですよねえ……。でもそれに対して、というか、そういうことが起きたときに、例えばアメリカだったら、アメリカの研究者がなぜ異議を唱えないのかというのが不思議に思います。外出禁止にする前に、各自の行動規範、手洗い励行、マスク、大声を出さないなどでも、かなり感染は予防できるはずです。
藤井 アメリカの感染症センターの方々が、かなり早い時期にパンデミックを警告したところ、トランプ大統領がその声を完全に封じ込めたとか聞きました(『表現者クライテリオン』90号参照)。
宮沢 例えば、アメリカでは大学の研究室が閉鎖されましたが、私にはちょっと想像できないですよね。私たちは感染症をやっていて、こうすれば感染しないって分かっているから、「閉鎖」なんてやることの意味なんてないんじゃないかと思うわけですけれども……。まあ、感染症にリテラシィのない研究者もいるかもしれませんが、行動規範のガイドラインを明確に示せば、閉鎖することもないのではと思います。
小中高校の休校も、選抜高校野球の中止も、 非科学的な「過剰自粛」であった
藤井 安倍さんが2月下旬に小中高校の休校を要請されましたが、これについてはどう思われますか?
宮沢 正直なところは私はびっくりしました。社会にそれだけの決意を知らせるという意味ではありだったのではと思ったんですが、科学的にはね、全く正しくないですよね。感染者はまだ全然いないのに止めちゃうし、子供が感染して亡くなるとか重症化する例はほとんどない。ただ、お年寄りに感染するという例もあるけれど、それも家庭内でなんとかできる話じゃないですか。
藤井 安倍さんはあの時、「何よりも子供たちの健康、安全が第一である。学校において子供たちへの集団感染という事態は、何としても防がなければならない。そうした思いで決断をしたところであります。」と言ってるんですが、これ、メチャクチャな話ですよね……?
宮沢 そうですね。ただ、お年寄りに伝えるのが危険だからこのくらいやらないと、ということを言う人は出てきてますが……。
藤井 子供たちの「健康」や「安全」は、関係ないですよね。
宮沢 まあウイルス研究者の多くは、これはちょっと、あんまりなんじゃないかと……。
藤井 ところで、冒頭でも紹介した京都大学のレジリエンスユニットの提案書では、過剰自粛をやることへの国民的な経済的被害というものがあって、自粛をすればするほどウイルス感染の展開という点ではいいのかもしれないけれども、経済が毀損すると自殺者が急増し、トータルとしての国民の健康被害を考えると、過剰自粛はかえって被害を悪化させる、だから、自粛には、国民の健康の点だけ考えてもどこかに最適が水準がある、という提案をまとめました。宮沢先生にも様々にご指導いただいてまとめたものですが、今の日本や世界各国の状況というのは、その最適な水準を超えた「過剰」な状況にあるのではないかと思われますか……?
宮沢 そうですね。もちろん、例えば30人で集まるとそこに感染者が1人いるかもしれない。
藤井 例えば中国くらいに日本で感染が広がっていたとしても、その確率は0.1%程度ですね。
宮沢 しかし、いたとしてもその人から広がる可能性は5人に1人(の割合)ですよね。さらにマスクをするとかアルコール消毒するとかで全然対応できるはずで、それを考えつつ集会をやるならやればいいわけです。
藤井 しかも、そうやって針の穴を何本も通すようにして感染しても、重篤化するリスクは、若年層の場合は、千人の内数人程度の確率。それらを全部考えれば、交通事故で重傷の怪我を負う方の確率が高いくらいですね。
宮沢 またもう一つ、いくら注意しても何らかの経路で感染してしまうこともある。
藤井 電車やエレベータで感染することもあるし、スーパーで買い物して商品に触れるだけで感染することもある。ずっと家にいても、ちょっと出かけた家族がウイルスを持って帰ってくるかもしれない。過剰にイベントだけ閉鎖したって、どれくらい効果があるか分からない、っていう話ですね。
宮沢 とりわけ人が集まってもオープンな空間で、静かにしていたら、リスクは非常に低いから、いいんじゃないのっていうのが僕の意見ですね。もし、それが心配なら、都内の通勤電車はどうなるのでしょうか? 専門家会議でも、通勤電車での感染の確率はかなり低いという結論だったのではないでしょうか? 通勤電車は密室ですから、オープンな空間では、よりリスクは低いと私は思います。
藤井 あと、今朝の新聞で、公共事業をこれから経済対策でやるだろうけど、公共事業をたくさんやると現場が増えるので感染を拡大してしまうリスクが増えるから公共事業をやってはいかん、という慶應大学の経済学部の土居丈朗先生の記事があったんですが、この意見はどう思われます?
宮沢 いや、そんなことしたら日本は終わってしまうんじゃないですか。みんな家で閉じこもってなさいっていうのと同じですよね。
この前の選抜の高校野球の中止に関しても私には全くよく分からなかったです。危ないっていうんだけれども、9人+9人+ベンチの人たちだけれども、その中に感染者がいるのかといわれたら0%ではないとしても限りなくそれに近い。しかも、あの広いオープンな甲子園球場では仮に感染者がいたとしても感染リスクはさらに低い。そういったときに、何を根拠に……と思います。「移動中とか宿舎で移ったらどうすんの」とか言うんですけれども、それを言い出したらすべてそうじゃないですか。
藤井 高校野球を止めた期間、高校生たちがずっと家に引き籠もって、外から帰ってきたお父さんやお母さんたちとも接触しないならいざ知らず、そうでなければ、高校野球大会の間に家庭内や出先で感染するリスクだってありますものね。「高校生を守るためにイベントを中止する」って言うなら、その高校生を自宅で完全隔離するくらいの取り組みをしておかないと、ツジツマが合わない。
宮沢 そうです。だから結局は、高校生を守るっていうより、誰か一人でも出たら高校野球のせいになっちゃうからということで止めているだけだとしか言いようがない。
でも面白かったのが、「宮沢さん何とかしてください、この自粛ムードを止めてください、この過剰自粛のせいでお客さんが全然来なくて困ってるんです」って言う人がいて、その人と話してて、その中で「甲子園ひどいよね」って言うと、その人、「いやいや、それは当然でしょ」と言うわけです。それは自粛してもらわないといけないって。
藤井 そうなんですか!?
宮沢 自分のことに関しては自粛解いてくれって言うんだけれども、人に対しては自粛しろと言うんですよね。
藤井 なんかもう、メチャクチャですよね。
(後半は本誌で)
この対談の後半は、『表現者クライテリオン』5月号(以下のリンクから予約受付中)でお読みください。
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Source: 身体軸ラボ シーズン2
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