基礎食はどうなった?
食品交換表の第1版から第4版までは,糖尿病患者が主治医から1日の摂取カロリーを指示されたら(例えば 1,600kcal/日というように),1,200kcalまでは 基本的な必須栄養は必ず摂れるように「基礎食」として摂り,それ以上の分については患者の自由でよい(=「付加食」)としていました.
しかし,これは第5版で廃止されました.「基礎食」「付加食」という言葉すら消えています.
第5版の単位配分
では,第5版では基礎食が本当になくなったのかどうか見てみましょう.
第5版においては,炭水化物・蛋白質・脂質のカロリー比率が明示的に示されているわけではありません.
また 現在の第7版と異なり,BMI=22から標準体重を規定し,それに基づいてカロリーを設定するということも書かれていません. 食品交換表は 患者向けなので,カロリー設定の仕組みについては患者は理解しなくてもよい,ただ主治医から言われた通りにすればよい,というスタンスだったからです.
ただし 栄養素の比率は示されていませんが,食品交換表の 各表の単位を振り分ける例が,設定カロリー=1,200~1,800 kcalの食事例別に示されていました.
1,200~1,800kcal/日の例が示されています(第5版 p.20~21).
ところが 1,200kcal/日の例を見てください.これは 第1~第4版の「基礎食」と同じカロリーです.
そこで,第1版と第5版の 1,200kcalの場合の単位配分を比較すると,この通りです.
両者はまったく同じです.多少『減塩』に配慮して調味料を減らしたぐらいの差です.
第1~第4版の「基礎食」と第5版の「1,200kcal」単位配分設定はほぼ同じなので,当然それらの栄養素比率はこうなります.
わずかに違いがあるのは,食品交換表の基礎データである「日本食品標準成分表」において,時代が違うと 同じ食品でもわずかに栄養素含有率が変わるからです.
こうしてみると,第5版の 1,200kcal設定は,第4版までの 1,200kcal 基礎食と同じであることがわかります.
したがって,1日に最低でも 蛋白質 =60g, 脂質=40gは必須摂取量であるという考えは踏襲されています.
ただし,よほどのことがなければ 1日に1,200kcal だけという,あまりにも低カロリーを指示されることは なかったのではないでしょうか.
各カロリーでの栄養素比率
それでは,他のカロリー設定ではどうでしょうか? 各設定での栄養素比率はこうです.
1,200kcalだけが炭水化物=50%,脂質=29%であり,それ以外は 炭水化物=60%,脂質~25%付近にみごとに揃えられたことがわかります.
(蛋白質比率は最初から20%です)
これ以降,基本的には『糖尿病の食事療法では 炭水化物/脂質/蛋白質 = 60/25以下/20以下』に完全に固定されることになりました.
ただし,1,200kcal食だけは,第4版までとの整合性を保つ必要から,炭水化物=50%とせざるをえなかったようです.
「基礎食」「付加食」をやめた理由
それにしても『第5版の1,200kcal食』=『第1~第4版の「基礎食」』であるなら,どうして 第5版でもそう表現しなかったのでしょうか?そうした場合,何か都合の悪いことでもあったのでしょうか?
その答えは,第5版の各カロリー設定食が,もしも「基礎食」+「付加食」という形式で表示されていたら どうなるかをみれば理解できます.
おわかりでしょうか? 第5版で,もしも「付加食」を例示していたら,その付加食はほとんど
『基礎食以外はメシだけを食え,他のものは食べるな!』
となってしまうのです.つまり,それまでは「基礎食」は【必須栄養を満遍なくとれる】としてきたわけですから,
「基礎食」は「バランスのとれた健康食」,「付加食」は ほとんど炭水化物だけという「バランスの悪い不健康食」そのものになります.
だからこそ,第5版では,「基礎食」「付加食」という言葉自体を抹殺するしかなかったのでしょう.
ガタン!!
この連載記事の冒頭で,『日本の糖尿病食事療法は,どこでどうして脱輪してしまったのか?』と書きましたが,
まさにこの第5版がガードレールを突き破った瞬間なのだと考えています.
なぜ,こうなってしまったのでしょうか?
第5版を編集した人は,当時 どんな考えでこうしたのでしょうか?
[11]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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