このアイキャッチ画像は、日本小児科医会様のポスターです。
日本小児科医会様には、こちらのポスターもあります。
当院でも待合室に貼っていた時期がありました。
なかなか衝撃的で、メッセージ性の高いポスターです。
このポスターは、「危機感を煽って啓発しよう」という意図で作成されたのだと思います。
その意図は十分に理解できますし、賛同もするのです。
するのですが……やはり、スマホやテレビなどのデジタルデバイスへの怖さばかりを強調しすぎています。
なんだか、フェアじゃない気持ちになります。
デジタルデバイスには悪い面だけではなく、きっと良い面もあるはず。
両方知ることで、正しくデジタルデバイスと向き合えるはず。
今日は、デジタルデバイスと子どもの発達について考えます。
デジタルデバイスが子どに与える影響
テレビは私が子どもの頃からありました。
今はインターネット、スマホ、ゲームなど、いわゆるデジタルデバイスが増えました。
子どもが小さいときから、これらに触れる機会が増えました。
デジタルデバイスが子どもに与える影響はいろいろ考えられます。
例えば睡眠とか、例えば子どもの発達とか。
睡眠に与える影響についてはいずれ書きます。
今回は、デジタルデバイスが子どもの発達にどのような影響を与えるかについてです。
Pediatrics誌がまとめています。
Digital Screen Media and Cognitive Development. Pediatrics 2017; 140 (Supplement 2): S57-S61.
さっそく読んでみましょう。
デジタルデバイスの使用と理解
平均的には生後6ヶ月頃からテレビの画面を見るようになります。
2歳までの子どもは、テレビの内容を理解できていません。
5歳までに、継続的にテレビを見るようになり、様々なコンテンツを理解する能力が高まっていきます。
根拠がないにも関わらず、2歳までの子どもたちは、ビデオからの学習が実際の遊びを通じた学習と比べて少ないこと言われています。
ですが、ビデオ学習の欠点は、繰り返し見ることや、ビデオ体験を実際に体験して見せることで改善するでしょう。
デジタルデバイスが乳幼児期の認知発達に与える影響
乳幼児(2歳半までの子ども)に対するテレビの影響は、テレビ見ている時間と、番組内容に関連しています。
2歳未満の子供の場合、認知発達の面では、特に言葉の力と、複雑な問題を成し遂げる力に関して否定的な報告があります。
ですが、これは主に大人向けの番組を視聴しているためです。
2歳未満の子どもは大人な向け番組にほとんど関心がなく、理解力も低いため、子どもの視点から見るとバックグラウンドテレビ(ただついているだけで、意味がないテレビ)と考えることができます。
バックグラウンドテレビは、テレビをつけていないときに比べて、生後12ヶ月や24ヶ月の子どもの持続的なおもちゃ遊びを妨げますし、親子の交流の質と量を低下させます。
そして、親が子どもに話しかける言葉の質と量を低下させます。
子ども向けのテレビ番組については、子どもの認知発達に悪い影響は与えないとする研究もあれば、子どもの年齢や番組の質によっては否定的な影響があるとする研究もあり、エビデンスはさまざまです。
子ども向けのテレビ番組では、親が乳幼児に話すことが少なくなる一方で、視聴中も視聴直後も子どもの語彙が豊富になる傾向があります。
乳幼児期のインタラクティブ・スクリーン・メディア(画面をタッチして遊べるゲームのようなもの)の影響については、幼児(24~36ヶ月)はテレビよりも画面をタッチして遊べるゲームの方が学習しやすいという証拠がいくつかあります。
しかし、親がスマホを使用すると、子どもと親の関わり合いが大幅に減少することが示されています。
したがって、親がテレビとスマホの両方に使ってしまうと、子どもの認知能力、特に言葉の力と複雑な問題を成し遂げる力を低下させてしまう可能性があります。
デジタルデバイスが未就学児・高齢児の認知発達に与える影響
2歳半頃までには、子供は年齢に合った子供向けのテレビ番組を理解し、学習することができるようになりますが、より複雑なテレビ番組を理解するには少なくとも12歳頃にまで成長しなければなりません。
理解できるようになると、テレビは子供の知識に影響を与え始めます。
この影響は、良い面と悪い面の両方があります。
良い面では、「セサミストリート」のような子ども向け教育テレビ番組は、語彙、言葉を読む力、社会的行動、学術的知識にプラスの影響を与えることが分かっています。
教育テレビの視聴は、学校への進学準備や高校までの学業成績の向上と関連しています。
教育用テレビが認知発達にプラスの影響を与えることは、多くの研究からほとんど疑問の余地はありません。
しかし小学生になると、子どもたちが見るテレビのほとんどは娯楽番組です。
6歳くらいから、子どもは大人向けの娯楽番組を見る量が増えていきます。
大人向け娯楽番組の視聴がプラスなのかマイナスなのかについての研究はほとんどありませんが、暴力的なコンテンツが反社会的・攻撃的な行動に影響を与えるという明確な証拠があります。
暴力的なコンテンツの視聴が学業成績に悪い影響を与えることの説明になるかもしれません。
テレビが子どもに悪い影響を与える理由は、視聴に費やす時間が、読書などの貴重な認知活動を奪う可能性があるというものです。
子どもがテレビを見ると、読書の機会が少なくなるということを示すいくつかのエビデンスがあります。
テレビが幼児の複雑な問題を成し遂げる力、特に集中を持続させる能力に悪影響を与えるのではないかという強く懸念されています。
これについては、影響がないという論文と、悪影響があるという論文の両方が混在しています。
現時点では、この問題は未解決であり、影響は子どもの年齢、視聴した番組の種類などに依存している可能性が高いでしょう。
ゲームが学習に与える影響を調べた研究があります。
テレビと同様に、暴力的なコンピュータゲームが反社会的・攻撃的な行動に影響を与えるという証拠もあります。
SubrahmanyamとRenukaryaは「ゲームに関する研究は、学習と教育に対して期待外れの結果をもたらした」と結論付けています。
対照的に、別の研究では、ゲームをプレイすることで認知スキルが短期的に増加することが明らかになっています。
集中力や視覚処理能力、象徴的な表現力や空間的な表現力、さらには、複雑な問題を成し遂げる力や視覚的空間作業記憶にも効果があることが報告されています。
特定の認知スキルに対する効果はプレイしたゲームの種類によって異なります。
技術や練習を必要としない電子ゲームをプレイしても効果が得られるという証拠はありません。
他にも、ゲーム終了直後だけではなく、しばらくしてからも認知能力が向上していたとする報告もあります。
ゲームによって、優れた注意力、処理能力、表現能力が長く続く可能性があります。
欠点は、研究の一部が中高生を対象に行われていることです。
このような認知的効果が小さな子どもにも及ぶかどうかについては、ほとんど不明です。
デジタルデバイスの良い面まとめ
- 2歳未満であっても、子ども向け教育番組であれば、語彙が増す。
- 2歳以上になれば、子どもの理解力が増すにつれ、子ども向け教育テレビ番組は、語彙、言葉を読む力、社会的行動、学術的知識にプラスの影響を与える。
- ゲームで集中力や視覚処理能力、表現力、複雑な問題を成し遂げる力や視覚的空間作業記憶に良い効果がある。
デジタルデバイスの悪い面まとめ
- 2歳未満に大人向け娯楽番組は悪影響がある。子どもの持続的なおもちゃ遊びを妨げ、親子の交流の質と量を低下させる。
- 親がスマホを使うと、子どもと親の関わり合いが大幅に減少する。
- 暴力的なコンテンツが反社会的・攻撃的な行動に影響を与える。
- 子どもがテレビを見ると、読書の機会が少なくなる。
小児科医会の5つの提言
論文を読んだうえで、小児科医会の5つの提言を考えてみましょう。
- 2歳までのテレビ・ビデオの視聴は控えましょう。
- 授乳中、食事中のテレビ・ビデオのの視聴は控えましょう。
- すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
- 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう。
- 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールを作りましょう。
私はこの提言に、おおむね賛成です。
3は根拠が乏しいので、賛成というわけではないですが、一つの目安、一つの考え方としてはよいと思います。
良いと思ったのは2と5です。
子どもはテレビやゲームに夢中になりますが、子どもにだけ我慢をさせるのではなく、親自身もテレビやスマホにルールを持つべきです。
スマホが直接的に子どもに悪影響を与えるというよりかは、スマホが親子の交流時間を減らしてしまうことが問題なのだと感じました。
子どもがいくら積み木やブロックや人形など、いわゆるアナログな遊びをしていたとしても、その横で大人がずーっとスマホを見ていて子どもに話しかけないでいたら、子どもの発達に悪影響を及ぼします。
「子どものメディア漬けが問題」というより、「メディア漬けになっている大人たちによる子育てが問題」なんだと思います。
テレビ、スマホ、ゲームには良い面と悪い面がありますが、まだ分かっていないことも多いです。
まずは「休日に外に遊びに出かけるときだけはスマホを使わない、ゲームは持っていかない」のような、小さなルールでもいいのではないかなと私は思います。
Source: 笑顔が好き。
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