信頼あっての「かかりつけ」

内科医

 意外なことですが日本は人口あたりの医師数が先進国の中でも少なく,逆に病院の数や年間の受診回数はダントツでトップクラスです.これは,1人の医師が診る患者数が他国に比べて驚くほど多いということを意味するわけで,我が国の医師の過重労働の大きな要因となっています.

 日本の医療は,世界に誇れる国民皆保険制度と,医療従事者の身を削るような献身的な働きによって支えられてきたと言っても過言ではありません.
 しかし,世界に類を見ない超高齢化社会の到来による医療のニーズのますますの高まり,患者サイドの権利意識の高まり,さらに何よりも今まで野放し状態だった大病院志向が,医療現場をあまりにも疲弊させてしまってきたことは周知の通りです.

 そこで国が力を入れだしたのが,かかりつけ医制度です.風邪などの軽傷の疾患や高血圧などの慢性疾患の管理,簡単な外傷,医療相談,在宅医療,介護支援など,医療や介護に関することはまずゲートキーパーとしての「かかりつけ医」で対処し,必要に応じて設備の整った病院に紹介するという仕組みです.かかりつけという言葉自体は以前からあり別に目新しいものではありませんが,これを諸外国における家庭医やGP(General physician)のようによりはっきりと定義付けようというものです.

 今回の診療報酬改定でもますますその方向が明確になり,在宅医療を始めかかりつけ医としての機能を果たせば報酬が増える仕組みがますます強化されています.また国も諸外国のGPや家庭医の制度に倣って,幅広い診療を担う総合診療専門医を専門医制度の中に創設しました.

 しかし,私は,こういった制度が無節操な大病院志向に歯止めをかけるのに役立つのはともかくとして,かかりつけ医というものを,他の専門医と同様に何か特殊な資格として位置づけることにやや違和感を覚えます.

 そもそもかかりつけ医というのは何か意図的に作るものではないのではないかと思うからです.

 最初は風邪でかかったけれども,専門の病気はもちろん,高血圧でも糖尿病でも幅広くみてくれる,運動や栄養やサプリなど健康に関することはもちろん,自分はもちろん家族の介護のことまで相談に乗ってくれる,はたまたプライベートの話など雑談も出来る,そして逆にこちらが教えられることもある,そんな風にして信頼関係が醸成されていく過程で,少しずつかかりつけ医として患者さんに認められていくのではないでしょうか?

 親身になって話しもろくに聞いてくれない医師が,いきなり,なにがしの資格を取ったからといって,今日から私があなたのかかりつけ医でござい,と言ったところで両者の間に信頼関係がなければ机上の空論なわけです.

 もちろん,そのためには我々医師も不断の勉強が欠かせませんし,どちらかといえば医学以外にもいろいろなことに興味を持ったり勉強したり,そして何よりも色々な人生経験を積んで人間力を磨いた方がいい.

 医学部を出たての二十代後半くらいの独身の医師が,たとえ決められた研修か何かを受けて資格の上では認められたとしても,それだけで患者さんが,自分のかかりつけ医として認めるかどうかというのは別の話しだと思うわけです.

 私はといえば,もともと外科医であったことも奏功してけっこう守備範囲が広く,ありふれた内科的疾患はもちろん,簡単な外傷あるいは整形外科的処置や手術もこなしていますし,英語が通じるので外国人も多く訪れます.また,よほどの特殊な例は別として,自分の専門外であっても取り敢えず受けつけるというスタンスを取っているので,それこそあらゆる症状の方が訪れますが,もちろん手に負えない場合は,今まで様々な手段で培ってきた人脈を利用して,適切なところへ紹介しています.

 「どこへ受診したらいいかわからないので,とりあえず先生に診てもらおうと思いました」と言われたり,「いい先生だから」とのことで家族も連れてきてくれたりすると嬉しいものです.

 いずれにせよ,これだけの情報化社会,医師も選ばれる時代になっています.
 そういう意味では我々も気を引き締めて仕事をしないと,かかりつけ医として選ばれないどころか,医師としてさえも淘汰されてしまうような時代になったことは間違いありません.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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