スウェーデンのAhlqvist博士の提案した『2型糖尿病は4つの異なる病気に分類できる』という主張に対して,大別して2つの異議・異論が出されました.
異論1は
英国のDennis教授をはじめとする臨床医学専門家は,2型糖尿病の症状は多彩であり,ひとりひとり異なった病態を呈するのだから,4種の分類で単純化するのではなく,発症年齢や,BMI,HbA1cの推移をみて,適宜対症療法していくのがベストだと主張しました.
しかし,それに対して Ahlqvist博士は,Dennis博士の論拠は,臨床試験の『きれいな統計的結論を出すために選び抜かれた均一な患者集団』のデータであり,そこでは重症患者が最初から排除されている,それではもっとも重要な『糖尿病患者が重度の合併症に進行するのを予想して最適の治療戦略をたてること』ができないと反論しました. 実際 Ahlqvist博士の分類で,糖尿病腎症リスクの高いSIRD(=重度インスリン抵抗性糖尿病)に分類される患者は,Dennis博士自身のデータを見ても,最初からインスリン抵抗性治療薬で投薬したグループが効果的だったのです.
Dennis博士はこの反論を認めざるをえませんでした(それでも,従来の対症治療も重要だと述べていますが).
異論2は
世界の糖尿病臨床医から出されたもう一つの異論は,『Ahlqvist博士の言う【4種の2型糖尿病】は,実は糖尿病の進行の各段階を見ているにすぎず,時間がたてば ある分類の患者が別の分類に移っていくのではないか』というものでした.
しかし,これもドイツのZaharia博士の研究により否定されました.糖尿病の初期段階で あるタイプに分類された患者の多くは,5年経過してもやはりそのタイプだったからです.
最重要ポイント
ところで ドイツのZaharia博士の論文は,もう一つ重要な事実を明らかにしていました. Ahlqvist博士は,ただ単に2型糖尿病を統計的にグループ分けすることに意義を見出したのではなく(日本ではそう誤解している専門家もいますが),
グループによっては,重篤な合併症に至るリスクが大きいのだから,そうならないよう グループごとに早期に適切な治療を行うことが重要だ
これがAhlqvist博士のもっとも強調したい主張だったのです.
合併症懸念が裏付けられた
上記のZaharia博士は,ドイツの登録型 糖尿病 観察研究 The German Diabetes Study (GDS)のデータを用いて,Ahlqvist博士の分類が正しいことを裏付けたのですが;
それだけでなく,Ahlqvist博士の『グループごとに合併症のリスクがまるで違う』ことも証明したのです.実はこの方がはるかに重大な意味を持っています.
GDSとは,ドイツの複数の医療機関の長期共同研究で,新規に糖尿病と診断された登録された患者を対象に,登録時点 および5年ごとに20年後まで詳細な検査を行って,病状や合併症の発生を追跡する観察研究です. もちろん観察だけでなく,すべての登録患者は それぞれの受診医療機関でベストと思われる治療が継続されます.
そこでこの結果をご覧ください.
これは衝撃的です,ドイツの高度な医療機関で治療を受けていたにもかかわらず,Ahlqvist分類で SIRD(=重度インスリン抵抗性糖尿病)に属するグループは,他のグループに比べて 糖尿病腎症の進行がはるかに速かったのです.
このデータは
Ahlqvist分類により,糖尿病の初期段階で合併症を予言できる
ことを実証しています.
スウェーデンでもドイツでも,『4種類の2型糖尿病』は違う病気であり,合併症リスクも証明されました.
では,この4種のパターンが存在する原因は何なのでしょうか?
[14]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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