大麦アレルギーの特徴と、血液検査の有用性について。

大麦アレルギーについての情報が、なかなかないです。
pubmedで「Barley Allergy」と検索してみても、ほとんどHITしません。
大麦アレルギーについて分かっていることは、ほとんどありません!

私がアレルギー外来で遭遇する大麦アレルギーは、「小麦アレルギーがあるので、大麦も食べないようにと主治医に言われました。麦茶も飲ませていません」というパターンです。
このパターンは、いろいろなケースに分かれます。

  1. 小麦も大麦もアレルギーであるケース。
  2. 小麦アレルギーはあるが、大麦アレルギーはないケース。
  3. 小麦も大麦もアレルギーでないケース。

多いのは②でしょう。
小麦アレルギーの子どもは、ほとんどの場合大麦を食べても平気です。

③も意外にいます。
③の割合は地域によって変わるのでしょうが、私はよく遭遇します。
血液検査で小麦を除去されていますが、負荷試験を重ねてみると、うどん200gまで増やしても問題がないようなケースです。
もともと小麦アレルギーではなかったのか、それとも経過中に治ったのかは分かりません。
いずれにせよ、大麦どころか、小麦アレルギーも確認できないケースが多いです。

①はそれほど多くありません。
でも、いないわけではありません。
重症小麦アレルギーの子どもに大麦負荷試験をしてみると、陽性となるケースは確かに経験します。

今日は、大麦アレルギーについて書きます。

大麦アレルギーを血液検査で見つけられるか?

本日紹介する論文はこちら。
Clinical and Laboratory Findings of Barley Allergy in Korean Children: a Single Hospital Based Retrospective Study. J Korean Med Sci. 2020; 35: e23.

韓国からの報告ですね。
さっそく読んでいきましょう。

序文

大麦は、小麦やオート麦、ライ麦と同じイネ科です。
大麦は人間に広く食されており、世界的にウイスキーやビールなどのアルコール飲料の原料としても利用されています。
また、シチュー、スープ、パン、ビスケットなどにも使用されています。
韓国では、麦ごはん、麦茶として消費されているほか、さまざまな伝統的なパン、クッキー、シリアルとして食べられています。

大麦アレルギーに関するいくつかの症例報告が発表されていますが、これらの症例のほとんどは、大麦粉によって誘発される「パン職人喘息」や、ビールによるアレルギーに焦点が当てられています。
韓国の小児および青年における、2014年から2015年の大規模多施設研究では、大麦が即時型食物アレルギーの原因の0.2%を占めていました。
大麦アレルギーは小麦やそばアレルギーに比べて発症率は低いが、韓国では乳幼児の大麦アレルギーは珍しくなく、臨床症状も比較的重篤です。
しかし、大麦アレルギーの症例報告はこれまでに数件のみで、小児で重度のアナフィラキシー反応が観察された大麦アレルギーの症例は2例しか報告されていません。
大麦の特異的IgEについて詳細に分析されている論文は数件のみです。
現状、大麦の特異的IgEと臨床症状との関連は評価されていません。

そこで本研究では、韓国の大麦アレルギー児の臨床的特徴、特異的IgEの診断値、小麦との共感作について明らかにします。

方法

2008年3月から2018年2月までの間に、韓国水原市安城医療センター小児科で大麦特異的IgE測定を受けた大麦を摂取したことがある42人の児を本研究に登録しました。

大麦アレルギー群20人(年齢中央値1歳)と、大麦アレルギーではない(大麦耐性)群22人(年齢中央値3歳)が研究対象となりました。

結果

大麦アレルギー群の全員と、大麦耐性群22人中20人が、大麦以外の食物アレルギー(大部分が穀類アレルギーとのこと)を持ってました。
大麦アレルギー群の75%と、大麦耐性群の18.2%が、小麦アレルギーを持っていました。

総IgE値の中央値は、大麦アレルギー群で241kUA/L、大麦耐性群で204kUA/Lであり、両群間に有意差はありませんでした。
大麦特異的IgEの中央値は、大麦アレルギー群で13.90kUA/L(0.14-101.00kUA/L)、大麦耐性群で0.30kUA/L(0.01-24.40kUA/L)で、有意差がありました。

大麦アレルギー群が経験した症状は、皮膚症状が90.0%、呼吸器症状が40.0%でした。
大麦アレルギー群の20人中7人(35%)が初回大麦摂取時にアナフィラキシーを発症しました。
アナフィラキシーショックはありませんでした。

大麦アレルギー群の80.0%が大麦摂取後60分以内に症状を経験しました。
5分未満が10%、5-30分が40%、30-60分が30%でした。
120分後に症状が出た児や、症状の発症時間が分からない児が4人いました。

全員が初めて大麦を摂取したときに症状が出ました。
麦ごはんが55%、麦茶が15%、麦パンまたは麦クッキーが15%でした。
麦茶でアナフィラキシーを起こした人はいませんでした。

大麦特異的IgEレベルの最適カットオフ値は1.24 kUA/Lで、感度は85.0%、特異度は86.4%でした。
特異度を100%とする大麦特異的IgEレベルは24.4kUA/Lでした

大麦アレルギー群では大麦特異的IgE抗体と小麦特異的IgEとは相関しました。

ディスカッション

本研究の臨床大麦アレルギー患者の年齢中央値は1歳でした。
韓国では、乳幼児が麦茶や大麦を含む離乳食をよく与えられているためでしょう。

今回の大麦アレルギー群のアナフィラキシーの割合は35.0%でした。
韓国の子どもの小麦のアナフィラキシー率は43.5%、そばのアナフィラキシー率は67.3%であり、大麦アレルギーとは異なっていました。
成人20人のビールアレルギーに関する先行研究では、じんましんが最も一般的な臨床症状であり、アナフィラキシーは5%の患者に報告されました。
ビールに比べて、乳幼児の大麦アレルギーで重症が多かったのは、食品の加工方法によってアレルゲン性が変化したためかもしれません。

症状の発現時間については、参加者全員(正確な発現時間がわからない4名を除く)が60分以内に症状を発現し、10.0%が5分以内に症状を発現していました。
この結果は、IgEを介した食物アレルギー反応のほとんどが食物摂取後2時間以内に起こるという先行研究の結果と一致しています。

大麦摂取後にアナフィラキシーを経験した小児の2つのケースレポートでは、大麦特異的IgEレベルはそれぞれ35.2 kUA/Lおよび1.47 kUA/Lでした。
成人のビールアレルギーに関する症例報告では、大麦特異的IgEの値は0.64~6.0kUA/Lでした。
本研究では、大麦アレルギー群の大麦特異的IgEの中央値は大麦耐性群よりもかなり高く、最適なカットオフは1.24 kUA/L(感度85.0%、特異度86.4%)、特異度100%となるカットオフは24.4 kUA/Lでした。
これらの結果は、大麦アレルギーの臨床歴があり、大麦sIgE値が1.24kUA/L以上であれば、経口フードチャレンジテストを行わなくても臨床的な大麦アレルギーを診断できる可能性があることを示唆しています。

小麦アレルギー患者の数は、大麦アレルギー群の方が大麦耐症群よりも多く(75.0%対18.2%)、大麦アレルギー群では大麦特異的IgEと小麦特異的IgEは正の相関を示しました。
したがって、大麦アレルギーの患者は、初めて小麦を摂取する際には注意が必要です。

本研究は、患者の自己申告で大麦アレルギーと診断しており、食物経口負荷試験は実施していません。
この限界を最小限に抑えるために、本研究では、経験豊富なアレルギー専門医が診断し、大麦特異的IgE値が0.10kUA/L以上の患者のみを対象としました。

結論として、韓国の子どもにとって大麦は重要なアレルゲンです。
本研究では、大麦アレルギーの臨床的特徴を示し、臨床的大麦アレルギーに対する最適な大麦特異的IgEのカットオフを示しました。
臨床的には、大麦と小麦の間には交差反応性または共感作性がしばしば観察されます。
これらの結果は、大麦アレルギーの予測や小児の食事指導に役立つ可能性がありますが、集団における大麦アレルギーの有病率や他の穀物との交差反応を調べるためにはさらなる研究が必要です。

私の感想

気になるところはいくつかあります。

  1. 負荷試験をせずに大麦アレルギーと診断してしまった。
  2. 血液検査で大麦の感作がなかった症例は大麦アレルギー群から除外してしまった。
  3. 大麦寛解群の基準が微妙。
  4. 初めて食べたときに症状というけど、麦茶はOKだった子どもはいるのでは?
  5. 「大麦アレルギーの患者は、初めて小麦を摂取する際には注意が必要」という記載に違和感。

1の「負荷試験なし」というのはかなり気になります。。
大麦アレルギー群の中には、実は大麦アレルギーではなかった子どもが含まれているように思います。
大麦アレルギーが珍しいからこそ、診断ははっきりさせて欲しかったです。

2のように、検査陰性を除外するのは、意図的な患者選別です。
選択バイアスを大きくしています。
これでは大麦特異的IgEの感度が信用できません。

3の「大麦寛解群の基準」は、大麦特異的IgE測定を受けたけれど大麦摂取できるということなんでしょう。
でも、どうして彼らは大麦アレルギー検査を受けたのでしょうか。
親やきょうだいが大麦アレルギーだったから?
大麦寛解群に小麦アレルギー患者が18.2%含まれており、一般的な小麦アレルギーの有病率よりも高いですから、なんらかの偏りはあります。
主治医が検査項目を間違えたってことではないのでしょう。

個人的には、小麦アレルギーがあるけど、大麦アレルギーはなかった児との比較が欲しかったです。
大麦アレルギーは小麦アレルギーのごく一部に合併するという気がしているので。
以前、ほむほむ先生が紹介された論文に、「重症の小麦アレルギーの小児15人中、1人がオーツ麦でアレルギー症状があった」というのがあります。
Children with wheat allergy usually tolerate oats. Pediatr Allergy Immunol. 2019; 30: 855-857.
小麦に重篤な症状があっても、オーツ麦はほとんどが摂取できる (pediatric-allergy.com)
これの大麦版が欲しいです。

4については、日本では初めて摂取した麦は、おそらく麦茶だと思うんです。
麦ごはんや麦パンなどで症状が出た人たちは、本当に初めての大麦摂取だったんでしょうか。
麦茶をトライする前に、麦ごはんを食べたのでしょうか。
このあたりが、感覚的に理解できませんでした。

5は、韓国と日本の食文化の違いによるものなのでしょうね。
日本だと、まず食べるのは小麦です。
だから記載は逆になるべきで、「小麦アレルギーの患者は、初めて大麦を摂取する際には注意が必要」となるなら納得しやすいです。
そのため、本研究の大麦アレルギー患者の25%が、小麦アレルギーを持っていないことが意外です。
1と重なりますが、本当に大麦アレルギーだったのでしょうか?

以上から、研究の質は高くないと感じました。
カットオフについては参考程度と考え、診断にはやはり負荷試験が必要と考えるべきでしょう。
それでも、大麦アレルギーを報告した貴重な論文だと思いました。

大麦アレルギーのアナフィラキシー率が小麦やソバよりも低い理由は、麦茶があるからだと私は思いました。
麦茶でのアナフィラキシーが今回なかったことを考えると、この少量摂取が安全性を高めたと私は推測します。

ビールアレルギーとの比較はなんともいえないですね。
ビールは大麦だけでできているわけではありませんし。

まとめ

  • 大麦アレルギーの症状は摂取から5分未満が10%、5-30分が40%、30-60分30%だった。
  • 大麦アレルギーを予測する最適なカットオフは1.24 kUA/L(感度85.0%、特異度86.4%)、特異度100%となるカットオフは24.4 kUA/Lだった。
  • カットオフについては参考程度に考えるべき。やはり診断のゴールドスタンダードは経口負荷試験だと私は思う。

Source: 笑顔が好き。

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