フィクションのお話。
とある高齢の男性患者さんが入院された。
病状は思わしくはないが、できる限りの治療を行う。
本人、同居の奥様に治療方針についての説明を行い治療を開始したが、残念ながら病状は悪化。
そのような経過をとる可能性も十分に説明しており、奥様には納得していただいているはずだった。
そんなときに、今まで病院へ姿を見せなかった家族がやってくる。
開口一番「自分は何も聞いていない」。
「治療方針が間違っていたんじゃないか」、「医療ミスがあったんじゃないか」などこちらを問い詰める。
こんなケースは誰しも経験することだと思う。
カリフォルニアの親戚とは?
今まで来たことがなかった家族が突然クレームを言ってくるということは、アメリカでもよくあることらしい。
医師の心得集「ドクターズルール」にも記載がある。
ルール156
重症または末期患者では、遠方からくる親戚の者に気を付けなさい。彼らはしばしばトラブルの元になる。
ろくに見舞いにも来なかったくせに、いよいよ容態が危なくなった段階で出てきて騒ぎ立てる家族というのは日本だけではないようだ。
そんな家族のことをアメリカでは「カリフォルニアの親戚」と呼ぶそうだ。
カリフォルニアの親戚、という言葉がある。患者や毎日のように付き添っている家族とは人間関係をとりやすい。
ところが、遠くからたまにしかやってこない親戚は空気が読めず、いきなり対決モード。居丈高になって「おまえら、ちゃんとしてるんだろうな、訴えるぞ!」とがなり立てるのである。
こういう状況はよくあるので、予想して可能な限り手を打っておく必要があるが、なかなか難しい。
こんなに有名な話であれば大学で教えておいてほしい。
クレーマーの心理
以前紹介した精神科医・春日武彦先生も、そんな家族に遭遇したことがあるそうだ。
ある入院患者の慢性硬膜下血腫が判明したときの話。
家族へ電話を入れると、一族郎党がぞろぞろとやって来た。
妙に威張った態度でスタッフを睨みつける。患者の安否よりも、なぜ慢性硬膜下血腫になったのかとそのことばかりを問い詰めてくる。
いくら説明しても承知せず、感情にまかせた非難を家族たちは次々に口にする。
春日先生はこのような家族の心理の裏には、患者を病院まかせにしている後ろめたさが隠れていると考察されている。
かれら家族は患者を「病院まかせ」にしている後ろめたさに対して「攻撃は最大の防御」を実践し、おまけに日頃から蓄積していたストレスやら鬱憤の「捌け口」として言いたい放題を行っているように感じられた。
見舞いにも来なかった負い目があり、医療者に強く当たることで面目を保とうとしている。
なるほど…という感じである。わからないでもない。
迷惑な話だが、こう考えればこちらの留飲も多少は下がるというものだ。
Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア
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