久山町の 40~79歳の住民で,糖尿病ではない人を平均9年間追跡して,この期間に糖尿病が発症した人と発症しなかった人との間には どれくらい肝機能指標に違いがあるのかを調べた研究です.
前回記事の通り,GGTとALTでは,正常範囲内であっても,これらの数値が高くなるにつれ 糖尿病の発症率が高まることが明らかになりました.
これは データの信頼性も勘案すれば,世界で初めての報告でした. 海外の文献,特に欧米文献では 『糖尿病』=『肥満』であり,肥満の結果として現れる脂肪肝の目安として肝機能には着目していましたが,それは明らかな指標異常(=基準値オーバー)でした.この久山町研究のように,ごく正常な範囲の値であっても,数値上昇と共に糖尿病発症率が目に見えて高くなるとは思われていなかったので,驚きをもって受け止められました.
どこが境界値か
肝機能数値が(正常範囲内でも)高まると,それだけ糖尿病発症率が高まる
であるのなら,どれくらいの数値から警戒すべきなのでしょうか. ALT, AST,GGTは肝臓の機能を反映する酵素ですが,ゼロになるわけはありません. 健全な肝臓であっても,肝細胞の新陳代謝は常に行われており,当然 古い肝細胞は分解されて,その時同時にこれらの酵素も血中に排出されるからです.
その境界値(Cut-Off)を推定するため,前回記事の 各指標別の糖尿病発症率から,年齢調整,飲酒/喫煙習慣などの危険因子を調整したうえで,各指標別に ROCを算出しています.
ROCについてはこの記事を参照してください.
ROC 算出結果
報告では,GGT,ALT,AST別に ROCが計算されていますが,ASTについては(四分位間であまり明確な傾向がみられなかったことを反映して)よい感度が見られませんでした.
もっとも高い 感度と特異度が得られたのは ALTの場合でした. ROCはこうなっています.
ALTの境界値を 13とした場合に,もっとも高い感度(Sensitivity)=63.4と 特異度(Specifity)=65.9 が得られました. すなわちALTが13を越えると,糖尿病発症率が上がり始める,というわけです.
これには 驚かれる人も多いのではないでしょうか. ALT=13と言えば,正常値のど真ん中というよりも むしろ低めの値なのですから.
[6]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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