毎月かぜをひきます。いつ「子どもの免疫不全」を疑いますか?

乳幼児は1年に平均6-8回、風邪をひく。

小児の咳嗽診療ガイドライン2020 p108-109

子どもはよく風邪をひきます。
典型的な風邪の経過は、2-3日続く発熱と、2週間続く咳や鼻汁です。

風邪が時々であれば、パパもママもそれほど心配しないでしょう。
ですが、たとえば毎月のようにかぜをひくと「毎月かぜをひくなんておかしい。何か怖い病気なんじゃないですか?」と不安になられる人もいるのではないでしょうか。

今回は、どういうときに「子どもの免疫不全」を考えるのかについて書きます。

原発性免疫不全症は意外と多いかもしれない

原発性免疫不全症はわが国では1240人登録されており、その頻度は10万人に2.3人とされます1)
ですが、本当は1000人に1人の頻度だとする報告もあり2)、その頻度は意外と多いのかもしれません。

報告が多い免疫不全症は?

わが国の2011年の報告で症例数が多いのは、B細胞の分化障害により低または無ガンマグロブリン血症に至るBTK欠損症や、好中球の殺菌能が低下する慢性肉芽腫症、IgGサブクラスが1つ以上低下するIgGサブクラス欠損症、血小板減少とIgM低下に至るWiskott-Aldrich症候群でです1)
さらに高IgE血症、選択的IgA欠損症、重症複合免疫不全症、重症先天性好中球減少症、家族性地中海熱が続きます1)

正確な頻度が分からない理由は?

重症複合免疫不全症は20万人に1人の頻度とされていましたが、新生児スクリーニングの結果、8千~5万人に1人であることが分かりました3)。重症複合免疫不全症の多くが診断されないまま感染症で死亡していると考えられます。重症複合免疫不全症に限らず、原発性免疫不全症は診断がついていない症例が多い可能性があります。

どういうときに「子どもの免疫不全」を疑いますか?

原発性免疫不全症を疑う目安として、国際的にJeffrey Modell Foundationの10 Warning Signs of Primary Immunodeficiencyが用いられています4)
厚生労働省の原発性免疫不全症に関する調査研究班が、上記を「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」と翻訳していますので5)、日本小児科学会雑誌の総説と併せて紹介します6)

この10の徴候のうち2つ以上該当する場合、プライマリケア医は小児科専門医に繋ぎます4)

乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる

重症複合免疫不全症が疑われる状況であり、造血幹細胞移植の適応がある。
診断にはリンパ球サブセット解析で、T細胞の欠損がないか確認することが重要である。

1年に2回以上肺炎に罹患する

細菌性肺炎を繰り返す場合、BTK欠損症が疑われる。
ウイルス性肺炎やニューモシスティス肺炎が重症化する場合は複合免疫不全症が疑われる。

気管支拡張症を発症する

気管支拡張症は慢性の気道感染症によって生じる。膿疱性線維症を除いた気管支拡張症の17%が原発性免疫不全症と関連した7)

髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症に2回以上罹患する

細菌感染症に罹患しやすく、重症化しやすい場合、BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。
慢性肉芽腫症ではブドウ球菌、緑膿菌、セラチア、大腸菌、カンジダ、アスペルギルス、抗酸菌に易感染性を呈する。

抗菌薬を服用しても2か月以上感染症が治癒しない

有効な抗菌薬でも反応が乏しい場合、BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。

重症副鼻腔炎を繰り返す

BTK欠損症やIgGサブクラス異常症の有無を検討する。

1年に4回以上、中耳炎に罹患する

BTK欠損症やIgGサブクラス異常症の有無を検討する。

1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる

複合免疫不全症ではヒトパピローマウイルスの皮膚への感染が制御できず、広範な疣贅が起こることがある。

BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EB ウイルスによる重症血球貧食症候群に罹患したことがある

複合免疫不全や慢性肉芽腫症の可能性がある。

家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある

原発性免疫不全症の多くは遺伝性である。そのため、10 Warning Signsの中でもっとも重要な項目である。

動画で学びたい場合

ここまでの情報を文字で追うのが大変な場合は、あまねくらぶの音声ガイドがあります。
正直、動画でみても固有名詞の難しさは変わらないのですが、リラックスしながら眺めてくだされば幸いです。

上記の動画に登場する「集団生活でかぜの頻度が上がる」という「団結の力」に関する論文は、またあらためて紹介したいですね。

実際に精査するタイミング

10の徴候のうち2つ以上に該当すれば、感染症の種類(フォーカスと病原体)や治療反応性、易感染性以外の徴候(皮疹や顔貌、骨、関節)、家族歴を確認した上で、白血球数、白血球分画、血小板数、血清IgG値、リンパ球サブセット、リンパ球幼弱化試験などを調べることになります6)

2つ該当したからといって、免疫不全というわけではありません

たとえば1歳児がRSウイルス肺炎になった数か月後に、ヒトメタニューモウイルス肺炎になったという事例はそれほど珍しくありません。また、中耳炎は2歳までに91.1%がかかる非常にありふれた疾患で8)、同胞の存在や集団保育は、中耳炎を反復させます9)。これらが同時に起きた場合、「肺炎や中耳炎を繰り返すので、原発性免疫不全症を疑ってリンパ球サブセット解析をします」とすべきなのでしょうか。

私の印象としては、やはり原発性免疫不全症における感染症の経過は、一般的な経過とは違って「なかなか治らない」とか「合併症が多彩」とか何か気がかりな点があるものです。この例においては、RSウイルス肺炎は発熱4-5日、呼吸器症状は2週間程度で改善し、中耳炎は無治療または抗菌薬投与で改善するのであれば、原発性免疫不全症とは考えにくいと思います。

「何度も風邪を繰り返す」というのは、10の徴候に含まれません。
心配する保護者に対して、私は「かぜを何度も繰り返して心配ですね。でも一つ一つの経過は問題ありませんから、免疫不全症ではないのですよ。安心してください」と説明しています。

注意点:PFAPA

今回は「免疫不全」について注目しました。
子どもが毎月のように高熱を繰り返す場合、PFAPAという疾患の可能性については留意しておかなければなりません。

PFAPAについては、こちらに書きました。

PFAPA症候群と他の遺伝性自己炎症症候群を鑑別するスコア。

2018年5月15日

PFAPAにステロイド。発熱間隔が短縮するエビデンスは?

2021年1月9日

まとめ

風邪をどれだけ頻回であっても、通常の風邪の経過で治り、発育に問題がなければ、原発性免疫不全症とは考えにくいです。

参考文献

1) Nationwide survey of patients with primary immunodeficiency diseases in Japan. J Clin Immunol. 2011 Dec;31(6):968-76.

2) Primary immunodeficiencies: a field in its infancy. Science. 2007 Aug 3;317(5838):617-9.

3) Newborn screening for severe combined immunodeficiency in 11 screening programs in the United States. JAMA. 2014 Aug 20;312(7):729-38.

4) Jeffrey Modell Foundation: 10 Warning Signs of Primary Immunodeficiency.

5) 簡単症状チェックシート

6) 感染症と原発性免疫不全症 日本小児科学会雑誌 121巻10号 p1654-1661 2017

7) The etiologies of non-CF bronchiectasis in childhood: a systematic review of 989 subjects. BMC Pediatr. 2014 Dec 10;14:4.

8) Otitis media in 2253 Pittsburgh-area infants: prevalence and risk factors during the first two years of life. Pediatrics 99:318‒333, 1997

9) どうして子どもは中耳炎になりやすいのか? 小児感染免疫 2014 Vol.26 No.4 p503-6

Source: 笑顔が好き。

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