VIP患者だからといって良質な医療が受けられるわけではない

社会的に、経済的に地位のある患者さんは、病院の中でも特別対応されることが多いように思います。

しかし、このような偉い患者さんが、必ずしも良い医療を受けることができているというわけでもないようです。

実例をあげながら、ご紹介したいと思います。

特別対応される患者さんの要件

誰にでも名前の知れている著名人や、経済界や政界で名の知れている要人の場合には、病院内でも特別対応される場合が多いでしょうか。

入院する部屋は個室であることがほとんどですし、検査や治療の日程についても優遇されることが多いでしょうか。

確かにお偉い方が患者となってやってきた場合には、それ相応の役職の医師が対応する必要がありますね。

診療科のトップである部長医師であったり、大学病院であれば教授だったりするわけです。

ただし、役職の高い医師が患者を診察することが、必ずしもプラスに働かないのが辛いところです。

社会的地位がアダとなった2例

グダグダな手術となった政治家の胃がん患者

ある50代の男性政治家は、早期胃がんということで私の勤務していた病院に紹介となりました。

この政治家は病院の外科部長と懇意にしているらしく、長年の付き合いもあって胃がんの手術も外科部長が担当することになりました。

ところがどこの病院でもそうですが、一定規模の病院の部長となると臨床から遠のいていることは珍しくありません。

病院経営や研究、学会発表など、普段の臨床業務を部下に任せて、自分は悠々自適なんて場合もあるのです。

特に腕一本で技術力が全ての外科医などは、偉すぎる部長よりも、中堅どころの臨床バリバリの先生の方が手術がうまかったりすることも多々あります。

この外科部長も同様に、普段は手術室に姿を見せることはなく、悠々自適の勤務をしているのでした。

誰もが「部長先生が手術して大丈夫かなぁ。。。」と思いつつ、政治家の手術を外科部長が担当することになりました。

伝え聞くところによると外科部長が執刀したその手術は、手術時間は長いわ、出血量は多いわ、危うく間違った血管を切りそうになるわ、で大変だったようです。

幸い助手には仕事のできる40代の外科の先生がついていたそうで、その外科の先生の”指導”のもとに、外科部長はなんとか手術をすすめていったとのこと。

病院の中で地位がある、偉いからといって必ずしも手術がうまいわけではありません。

普通の患者さんとして病院を受診していれば、脂ののった手術のうまい先生の執刀を受けることができていたのかも知れないのです・・・。

ガイドライン無視の治療をされていた70代の男性

ある70代の男性医師は、地域の大病院の理事長先生でした。

そんな理事長先生も年齢を重ねるについて内臓疾患を発症し、某大学病院に紹介されることになりました。

誰もが知る病院の理事長ですから、もちろん診察に当たるのは診療科のトップである教授となります。

ただし、これが理事長先生にとっては不幸でした。

大学病院の教授なんぞ、研究や教育で日々忙しく、病院の中でコツコツ臨床業務を行なっている暇なんかありません。

教科書を書いたり教えたりするのは得意ですが、実際に病院で患者を診察することはほとんどなく、臨床的な能力は衰えていることが少なくありません。

理事長先生を診察した教授も例に漏れず、処方されている薬やオーダーされている検査が全くの的外れだったのです。

患者の検査結果は良くなることはなく、かといって悪くなることもなく、横ばいのまま経過していました。

医局員の誰からみても間違った治療がなされていたわけですが、もちろん誰も意見することはできません。

教授に「あなたの治療は間違ってます」なんていおうものなら、明日から僻地の病院に飛ばされても文句は言えない、そんな状況なのです。

ところがある日、教授の外来日にたまたま教授が不在で、講師のA先生が担当することになりました。

流石に医局内での立ち回り方が良くわかっている講師のA先生。なんと初対面にも関わらず処方をガラッと変えてしまいました。

処方を変更した結果、理事長先生の経過も良好に経過していたようです。

その後、教授は「外来が忙しいから」との理由で理事長先生の外来主治医から身を引いたのです。

自分のやっていることが間違っていると悟ったからなのか、患者さんからの信頼を失ったと思ったのか、変わり身の早さには驚きですね。

偉くなることは良いことか?

というわけで、社会的に偉くなることが、必ずしも良い医療を受けることができるというわけではありません。

もちろん個室に入ったりとか、手術までの待機時間が短くなったり、職員の対応がやさしかったりと、本質的な部分以外ではより良い待遇を受けることができるかもしれません。

しかし肝心の医療行為においては、偉すぎて臨床業務から離れている医師が行うかもしれず、必ずしも一流の、最前線の治療を受けることができるとも限らないのです。

病院にやってくる社長などのVIP患者たち。対応は変わるが治療は変わらない

2017.01.20

Source: 医者夫婦が語る日々のこと、医療のこと

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