第5回総合アレルギー講習会の感想。

2018年12月15日-16日、第5回総合アレルギー講習会に行ってきました。

第3回から私は参加していて、今回で3回目です。
今回は初めての大阪会場での参加です(いつもは横浜でした)。

会場が近かったので、10月のアレルギーセミナーのように新幹線ではなく、普通に在来線で行けました。
前回のセミナーの感想はこちらです。

第54回日本アレルギー学会専門医認定教育セミナーの感想

2018.10.28

今回は、第5回総合アレルギー講習会で学んだこと(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、食物アレルギー、アナフィラキシー)を書きます。
そして最後に、講習会でほむほむ先生に出会えたので、そのことにも少しだけ書きます。

アトピー性皮膚炎

生物学的製剤が導入されたことで、アレルギーを機序から理解する風潮になっています。以前よりも、IgEやIL-4が果たす役割をしっかり理解しなければ、重症アレルギーの治療ができないためでしょう。

加えて、汗に関する講義と、アドヒアランスに関する講義が興味深かったです。

重症化に対して、目に見えない湿疹をしっかり治すプロアクティブ療法と、TARCを目安にしたタイトコントロールに賛同します。いっぽうで「治しきる自信がないのなら手を付けずに専門家に相談してほしい」というのは、地域医療をしている者からすると難しさを感じました。

アトピー性皮膚炎の痒みについて

痒みは本来、生体防御反応である。
例:毛虫が腕についた→痒い→掻く→毛虫を追い払える

しかし、生体防御反応としての役割を超え、痒みはアトピー性皮膚炎の悪化因子となっている。

アトピー悪循環スパイラル①
掻く→TSLP、IL-33、IL-25が放出→Th2細胞が活性化→IL-4、I-L31が放出→痒くなる→掻く

アトピー悪循環スパイラル②
掻く→バリア機能破壊→異物が皮膚内に侵入→炎症が起きる→痒くなる→掻く

アトピー性皮膚炎の免疫学的理解とデュピルマブ

掻くことで、自然免疫系が賦活される。
例:掻く→皮膚からメラーニン(TSLP、IL-33、IL-25が放出)→Th2細胞が活性化→IL-4、IL-5、IL-13、IL-31が放出。

IL-4はヒスタミン感受性が上がる。さらにIL-4自体も痒みを起こす。
IL-31も痒みを引き起こす。

デュピルマブはIL-4/13受容体抗体である。
IL-4の作用をブロックすることで、痒みにすごく効く。
アトピー性皮膚炎に投与すると、80%で症状半減に至る。痒みも60%カット。

汗について

汗はアトピー性皮膚炎の悪化因子である。
いっぽうで、アトピー性皮膚炎患者は健常人に比べ汗をあまりかかない。

アトピー性皮膚炎患者の汗にはグルコースが多い。
皮膚炎の改善とともに、グルコース濃度が減る。
Sweat glucose and GLUT2 expression in atopic dermatitis: Implication for clinical manifestation and treatment.(PLoS One. 2018 Apr 20;13(4):e0195960.)

アトピー性皮膚炎患者の汗腺はもろく、汗が真皮内に漏出している。
Claudin-3 Loss Causes Leakage of Sweat from the Sweat Gland to Contribute to the Pathogenesis of Atopic Dermatitis.(J Invest Dermatol. 2018 Jun;138(6):1279-1287.)

つまり、アトピー性皮膚炎患者の汗の質は悪く、しかも真皮内に放出されるので、汗がアトピー性皮膚炎の悪化因子となる。
しかし、指導の方向性としては、汗はかいてもいい!と強調すべきである。
むしろ積極的にかいたほうがいい。

汗をかいた後、下記を行える範囲で行う。

  1. シャワー浴
  2. 水道水で皮膚症状のあるところを洗う
  3. おしぼりで悪化しやすいところを拭く
  4. 着替える

汗の対策を指導すると、患者満足度が高い。

重症アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法とタイトコントロール

湿疹が出るたびにステロイドを塗るのをリアクティブ療法という。
これはアトピー性皮膚炎治療の基本ではあるが、なかなかステロイドから離脱できない場合はプロアクティブ療法に切り替えるといい。

プロアクティブ療法とは、湿疹がないところに対してステロイドやタクロリムスを塗ることである。
目に見えないところの湿疹を治療をしている。

プロアクティブ療法では、湿疹がないときでも週に2回程度ステロイドを塗る。
一見正常に見えるが、実は炎症が潜んでいる皮膚に対して治療を行っている。
例えば同じ場所ばかり湿疹が出る場合、まだ皮下の白血球の記憶が残っていると考える。
プロアクティブ療法を継続し、記憶がなくなるまで待つ。

目に見えない湿疹に治療するので、塗る場所を絵に書いて指導することも大切。

プロアクティブでもリアクティブでもステロイドの使用量に差がないという報告あり。

たっぷり塗る。薄く擦り込むのはダメ。
成人の重症(皮膚の30%に湿疹)のケースでは、週に21本のステロイド外用薬が必要になる。
ステロイドは増悪時1日2回、落ち着けば1日1回。

非専門医の先生による不十分な治療で難治化・重症化している症例が目立つ。
重症アトピー性皮膚炎と思われるケースでも、しっかり塗る、プロアクティブ療法をする、で治ることが多い。
治せる自信がないのなら、手を付けずに専門医に送って欲しいという意見もあった。

アドヒアランス

患者さんは予想以上に塗っていない。
下記にアドヒアランス対策を挙げる。

  1. 皮膚がよくなれば、一緒に喜ぶ
  2. 専門医、指導医を取る
  3. 治療目標を共有する
  4. よくなったらどうなるか、という希望を考える

ゴールを定めるとアドヒアランスは維持しやすい。
保湿をやめることがゴールではない。
歯磨きと一緒で、保湿は基本
ガイドラインでは「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態」とある。
この状態に達しない場合は「症状が軽微で日常生活に支障をきたすような急な悪化が起こらない状態」とある。

安定を維持できれば寛解が期待されると中原先生は付け加えている。

気管支喘息

小児の喘息死は2017年についに0人になりました。入院患者数も減少しています。発作予防のステロイド吸入が奏功している結果なのでしょう。次の医療として、講習会ではステロイド以外の予防についての知見が目立ちました。

重症例に対しては気管支喘息に対しても生物学的製剤が導入され、IgEを主体としたアトピー型喘息と、IL-5を主体とした非アトピー型喘息の理解に関する講義が目立ちました。

非アトピー型喘息はRSウイルスとの関連が知られ、今後の自然歴が注目されています。自然歴を知るという意味では、成人喘息についても一定の知識が必要だとあらためて感じました。

ステロイド吸入以外の喘息予防

非アトピー型喘息としては、RSウイルスの関与が知られる。
パリビズマブ(RSウイルスに対する抗体)で喘息の自然歴がどう変わるか、要するに成人喘息は減るのかどうか、現在研究中である。
現時点で分かっているのは、1年間パリビズマブをすると、6歳時点で再発性喘鳴の頻度は31.6%→15.3%に減ったということだ。
しかし、アトピー型喘息の割合は変わらなかった。
今後、11歳で再評価する予定。
Palivizumab Prophylaxis in Preterm Infants and Subsequent Recurrent Wheezing. Six-Year Follow-up Study.(Am J Respir Crit Care Med. 2017 Jul 1;196(1):29-38.)

非アトピー型喘息は診断的治療を1か月して改善しない場合は、副鼻腔炎や胃食道逆流症の除外が必要。

重症のアレルギー性鼻炎は喘息発作の危険度を3.88倍にする。
SLIT(ハウスダストの舌下免疫療法)が喘息発作の予防として有効な可能性がある。

喘息でステロイド吸入が有効ということは、やはり局所的なアレルギー反応を見ているのである。
アレルギーで重要なのは抗原除去である。
ダニが原因なら、ダニをいかに除去するかも考えるように。
ダニ不透過性寝具の使用で急性増悪が41.5%→29.3%に低下した。
Preventing Severe Asthma Exacerbations in Children. A Randomized Trial of Mite-Impermeable Bedcovers.(Am J Respir Crit Care Med. 2017 Jul 15;196(2):150-158.)

喘息にプールが有効かどうかは現在では不明。
プールそのものが悪いのではなく、塩素が問題なのかもしれない。
少なくても運動は呼吸機能を改善させる。
ただし、無理にプールを奨める根拠は存在しない。
Swimming attendance during childhood and development of asthma: Meta-analysis.(Pediatr Int. 2017 May;59(5):614-621.)

花粉も受動喫煙も喘息の急性増悪のリスクとなる。
Outdoor pollen is a trigger of child and adolescent asthma emergency department presentations: A systematic review and meta-analysis.(Allergy. 2018 Aug;73(8):1632-1641.)
Grandmaternal smoking increases asthma risk in grandchildren: A nationwide Swedish cohort.(Clin Exp Allergy. 2018 Feb;48(2):167-174.)

成人ではLAMA(抗コリン薬)の吸入が見直されている。
チオトロピウム吸入は気管支拡張作用と気道分泌抑制作用に優れ、ICS/LABAで痰が固くなるような場合にLAMAが有用であることあり。
成人では2018年のガイドライン改訂で、LAMAはステップ3からがステップ2からに変更となった。

気管支喘息の免疫学的理解とオマリズマブ・メポリズマブ

アレルギーの基本はTh2系である。
Th2系、いわゆる好酸球系は、さらに獲得免疫系と自然免疫系に分かれる。

獲得免疫系:抗原が侵入し、樹状細胞がキャッチ。Th2細胞からIL-4が放出され、その影響でB細胞はIgEを放出する。IgEは肥満細胞に結合し、そこに抗原がやってきて架橋すると、ヒスタミンが放出される。また、Th2細胞はIL-5とIL-13も放出する。これらは好酸球を呼びよせ、ヒスタミン反応から遅れること数時間で好酸球性炎症を引き起こす。

自然免疫系:上皮に刺激が加わると、その時点でIL-33、IL-25、TSLP(いわゆるアラーミン)が放出される。これらは2型自然リンパ球(ILC2)に作用し、IL-5とIL-13を放出する。これらは好酸球を呼びよせ、ヒスタミン反応から遅れること数時間で好酸球性炎症を引き起こす。

獲得免疫系主体であれば、IgEが関与するので、オマリズマブが奏効する。
いっぽうで、自然免疫系主体であれば、IgEが関与しないので、抗IL5抗体メポリズマブが奏効する。

メポリズマブは抗IL5抗体で、年1.47回だった喘息発作回数を0.83回に減らせた。
Mepolizumab treatment in patients with severe eosinophilic asthma.(N Engl J Med. 2014 Sep 25;371(13):1198-207.)

急性増悪時の対応

喘息の急性増悪時の治療は、長期管理の見直しまで含める。

3歳未満のwheezeは、まず鼻吸引をしてみる。
意外と鼻吸引で改善することあり。
ちなみに私もまずは上気道閉塞の原因を解除するために、鼻吸引をしてから再評価している。

ステロイドの内服と点滴は効果が同等である。
点滴だとアレルギー症状が出るリスクがあるので、30分以上かけて投与すること。
投与期間が7日以内であれば、漸減不要である。

イソプロテレノール持続吸入をすると、喀痰が溜まってくる。
一定時間ごとに排痰、体位変換、体動を促す。

食物アレルギー

普段から意識的に勉強している分野ではあるのだが、得られた研究データをどう臨床応用するかに悩む分野でもある。臨床の実際を耳にすることができた。

PETIT スタディをどう臨床にいかすか

生後6か月の時点で卵白RAST1以上で、「1歳まで待とうね」と言いたくなるような患者さんほど早期摂取が有効だった。

生後6か月から卵黄1/3、9か月から卵白1.1gという手法は論文通りだが、この通りでなくてもよい。
夏目先生は「卵黄はご自由に。卵白は米粒1粒大から始めて、1粒ずつ増やせば安心でしょ?」と言っている。
ちなみに米5-10粒くらいの卵白で0.2g。

ちなみに私は卵黄から開始して、生後9か月から卵黄つなぎにしている。
基本的にPETITスタディ通りだが、回数は「週2-3回でも効果があります」と言っている。
実際に効果を強く感じている。

アレルギー検査(採血検査、皮膚検査、経口負荷試験)

何でもかんでも網羅的に検査してはいけない。
問診で被疑アレルゲンを絞る。
再現性がない場合は原因食物ではない可能性が高いが、運動誘発アナフィラキシーは除く。

まだ食べたことがない抗原に対しては、検査をしないほうがよさそう。
ピーナッツも卵も、食べる前に検査をしないほうが、食べてもらえやすく、結果的にアレルギー発症が減っている。

皮膚検査(プリックテスト)の3日前には抗ヒスタミン薬off。
LTRAや短期間のステロイドは影響しない。

経口負荷試験を加熱で行うか、非加熱で行うかについては、閾値が低いところでは加熱食材のほうが安全なようだが、量が多くなると加熱・非加熱あまり関係ない。
Minimal impact of extensive heating of hen’s egg and cow’s milk in a food matrix on threshold dose-distribution curves.(Allergy. 2017 Nov;72(11):1816-1819.)

新しい研究

PACIスタディを成育、相模原で行っている。

生後7-13週で湿疹がある児に、リンデロンで積極的に治療するか、アルメタで標準的な治療をするかで、生後7か月での卵アレルギーの有無を知る。

アナフィラキシー

エピペンの重要性が再確認されました。一度でもアナフィラキシーを起こしたら持たせておくほうが良さそうです。 運動誘発アナフィラキシーは皆さんが難渋されている印象でした。

エピペンについて

アドレナリン筋注後、顔面が蒼白になることがあるが、よくある副作用である。
岡藤先生は「薬が効いている証拠」と説明することもある。

岡藤先生はエピペンを10kgから、伊藤先生は14kgから処方している。
10kg未満では骨髄注射になるリスクあり。

二相性反応は最大11%。
エピペンを2本持たせることも考慮される。

運動誘発アナフィラキシーについて

運動誘発アナフィラキシーは、歩行だけ、シャワーだけという軽微な負荷でもアナフィラキシーになりえ、その頻度は意外に多い。

特殊型というには頻度が多い。
さらには、通常の即時型との境界が不明瞭。
次回のガイドラインで特殊型の区分をどうするか検討がある。

運動誘発アナフィラキシーを強く疑ったが、運動負荷試験をしても、アスピリン追加運動負荷試験をしても陰性の場合がよくある。
エピペンを持たせて1年経過観察するという意見あり。

講習会で出会えた人たち

総合アレルギー講習会はいわゆる学会とは異なり、教育カリキュラムとしての側面が強いです。
実習もあります。

そのため、腎臓が専門だった先生や、新生児が専門だった先生が、「普段の外来診療のためにアレルギーも勉強しておこう」という想いで参加されていました。
おかげで、「こんなところで会うなんて!」という不思議な出会いもありました。

私がブログをしていることで、今回お話できた先生も何人かいました。
ほむほむ先生もその一人で、実はお会いするのは初めてでしたが、小児科医らしい暖かいオーラで、すばらしい臨床医なのだろうと感じました。
尊敬するメンターに出会え、良い刺激を受けました。

Source: 笑顔が好き。

コメント

タイトルとURLをコピーしました