第64回日本糖尿病学会の感想[22] 『グルカゴンの反乱』のその後-8

健康法

対策はあるのか

『糖尿病における血糖値コントロールの問題は,インスリンの不足・インスリンの効き目(=インスリン抵抗性)だけを単純に考えていればいいというものではなくて,グルカゴンの存在と挙動を抜きにしては説明できないのではないか』 そういう主張が年々強まっています.

せっかくインスリンが血糖値を下げようとしているのに,あろうことかグルカゴン分泌も同時に増加してインスリンの邪魔をするらしい, そうであれば

グルカゴンの作用を阻害すればいいではないか

これは当然の発想です.

そうえいば SGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬も,望ましくない動作をする輸送体や酵素の働きをブロックする仕組みです.それならグルカゴン阻害薬でも作って,グルカゴンの粗暴なふるまいを押さえてやればいいように思えます.

そこで,実際にそれを目的とした薬物が開発されていました. はい,過去形です.

グルカゴン受容体アンタゴニスト

アゴニスト(Agonist) とは,ホルモンなどの受容体を刺激して,あたかも本物のホルモンが受容体に到達したかのようにみせかける,いわば『受容体を騙す』薬物のことです.
これに対して アンタゴニスト(Antagonist = Anti-Agonist)とは,ホルモンなどに先回りして その受容体をふさいでしまい,ホルモンなどが機能を発揮できないようにしてしまう薬物です.

本筋としては,グルカゴンの発生源に働きかけて,グルカゴン分泌そのものを減らせればいいのですが,なにしろグルカゴンを分泌する膵臓α細胞は,β細胞と混在しているので,α細胞だけにうまく到達させる薬物と言うのは難しいからでしょう.

しかし,グルカゴンの受容体は広く人体に,とりわけ グルカゴンの増加に応じて 糖新生でバンバン血糖を送り出す肝臓に存在しますから,この肝臓のグルカゴン受容体を麻痺させてしまえば,インスリンはつつがなく仕事ができることになります.

こういう経過でイーライ・リリー Eli Lilly社がグルカゴン受容体アンタゴニストLY2409021 を開発しました.

この薬の効果は目覚ましいものでした,服用開始後 3~6ヶ月でHbA1cを1%近く下げることができました.

代表的なDPP-4阻害薬であるシタグリプチン(商品名:ジャヌビア,グラクティブなど)を上回る効果です.インスリン分泌とは全く独立のメカニズムで血糖値を下げることに成功したのです.とすれば従来の糖尿病薬と併用すれば強力なコンビとなるはずです.

しかし,残念なことに この薬は治験の途中段階で急遽中止されてしまいました.

中止せざるをえなくなった理由が,この文献で報告されています.

投与からわずか3ヶ月ほどで,目に見えて脂肪肝が増加するという重大な副作用が明らかになったからです.

問題はそれだけではありませんでした. 肝機能指標であるALTも投与開始後 すぐに悪化することが判明しました.

更に 血圧も(収縮期,拡張期とも)無視できない上昇が認められました.

もうズダボロです.文献ソースが見出せなかったのでグラフには示しませんでしたが,中性脂肪とLDLも投与後顕著に上昇したようです. つまり人体全体にわたる不調が発生したのです.

暴れ者のグルカゴンの動きを封じ込めたら,たしかに血糖値は下がりました.なのに,どうしてこうなったのでしょうか?

[23]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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