「学童野球のさまざまな構造を改善しなければ、たとえ大谷選手やプロ野球、甲子園の盛り上がりを見ても、子どもたちは野球をしたがらないのではないか。今でもパワハラまがいの強い言動で指導していたり、土日は朝から晩まで練習したり、親御さんがお茶当番をしたりと、学童野球には旧態依然とした部分があります。そしてなにより深刻なのは、多数の故障者の存在です」上田氏は、慶應高校野球部の監督を1991年から2015年まで務め、春夏あわせて計4回、チームを甲子園に導いている。そのうちベスト8進出は2回。名将と謳われる人物だ。
「監督を退任した後、スポーツドクターの話を聞く機会があり、驚きました。『神奈川県では、毎年20人以上の小学生が、肩や肘を手術している。なかには、トミー・ジョン手術を受ける子もいる』と言うんです。主な原因は指導者の知識不足に加えて、試合数と投球数の過多。そこで、少年期のスポーツ障害を予防するための組織として、2017年に『神奈川学童野球指導者セミナー』を立ち上げたんです」
『うちは年間230試合やりますよ』かくして上田氏は各地の学童野球チームを視察して回り、その中でさらに危機感を強くしていったという。
「かつて2000チームがひしめいていた神奈川県内の学童野球は、いまや500チームに激減。その一方で、ローカル大会は驚くほど多く開催されています。企業が地元への社会貢献を考える際、学童野球大会の開催は好まれる手法なんですよ。球場を借りてメダルと優勝旗を作るだけで、知名度も上がるし、なんとなく好感度も上がりますからね。こうしてチームや選手数が減るなかで試合数は増え続けているため、故障者が相次いでいます。なにしろ1日に朝昼夕と、それぞれ違う大会の3試合を行うチームもあるほど。『うちは年間230試合やりますよ』と胸を張る指導者さえいました」
全日本軟式野球連盟は、2019年に「練習試合を含めて、年間100試合以内」と学童野球のガイドラインを定めている。つまり、これを上回る試合数を組んでいるチームが常態化していたということだろう。ちなみに、月曜以外は稼働しているプロ野球は140試合ほど。学童野球の試合は主に土日・祝日に組まれることを考えると、年間100試合をこなすだけでも大変だ。
「美味しいお酒が飲めるんですよ」
「選手を守る観点から、それぞれの大会で投球制限ルールはあります。球数だとか、何イニング投げてはいけないとか。しかしこれには抜け穴があり、大会が異なれば1日3試合を連投することも可能なのです。さらに、投手だけではなく捕手の負担も見過ごせません。学童野球では四球で出たランナーが二盗、三盗を決め、エラーで得点というパターンが多く、それにつれて捕手が投げる機会も相当数に上るからです。1試合目、2試合目を完投した投手が3試合目は捕手として出場するというケースもゴロゴロあります」(上田氏)
指導者たちは、なぜこんなにも無茶な試合を組むのか。
「試合に勝つと子どもたちも喜ぶし、指導者もその日は美味しいお酒が飲めるんですよ。だからどんどん公式戦にエントリーしてしまう。だけど、負けたら終わりのトーナメントでは、上手な子が出続けるしかありません。その陰には、ずっと試合に出られない子がベンチにいるわけですから、勝利の味のために他のものを置き去りにしているんです。我々大人が子どもたちに教えるべきは、野球の楽しさであり、第一に願うべきは、その気持ちを持ってできるだけ長く野球をやってほしいということでしょう」(上田氏)
「大谷翔平効果で少年野球の入団希望者が急増している」って本当? 取材して分かった少年野球の“深刻な現実”「一番の問題はケガ」(沼澤典史)「年々、減少傾向なのは間違いなく、選手数が増加したと感じた年は残念ながらありませんね。2010年には96チーム2477人の登録がありましたが、今年は65チーム(前年比7減)で、選手数は1294人(同137減)」
だが、指導者の意識が改革され、新しいプレイヤーがやってきたとしても、まだ難問は残る。上田氏によれば、選手の保護者たちには、両極端の声があるという。
「野球の楽しさを伝えようとする指導者に、反発する親がいるんですよ。『うちの子は小学生からバンバン試合をやらせて、中学ではシニアかボーイズに入れて、最終的には横浜高校に行かせたい』という親。
かたや、『とにかく楽しく野球をして、ニコニコしながら帰ってきてほしい』という親もいて、同じチームで二極化していることも多い。
選手を全員出場させた監督に『今日はあの子を起用したから負けた』と詰め寄る親もいるようです」
試合の勝ち負けしか観ない親、、、
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Source: 身体軸ラボ シーズン2
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