ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[4]

健康法

前回は,ケトン体は,脂肪酸を切り分けた アセチルCoAを原料として作られるという話でした. ただし,その製造場所は肝臓の細胞の中のミトコンドリアの中(より正確には ミトコンドリアの内膜の中のマトリクス)です.そして消費される場所は,各臓器の細胞の中のミトコンドリアです.

したがって,実際にケトン体が各組織でエネルギー燃料として使われるためには,製造場所から消費場所まで運搬されなければいけません.

灯油はガソリンスタンドのタンクに大量に貯蔵されていますが,それを各家庭に売り歩くスタンドのおじさんがいるからこそ 玄関前に灯油が届くのです.

まず,ケトン体は ミトコンドリアの外に出なければいけません. そして さらに細胞の外に出なければいけません. ここまできてやっと血管にたどり着くので,そこから全身に回り,目的の臓器の細胞に入り,さらにその中のミトコンドリアの内部に到達して,そこのTCA回路『燃焼』されます.

そこで 製造元である肝臓細胞ミトコンドリアの内部から消費場所である各組織までの経路を考えてみますと;

ミトンコドリア内膜内(マトリクス)
 →[ミトコンドリア内膜]
  →[ミトコンドリア外膜]
   →[肝細胞膜]
    →血液で全身に循環
     →[対象臓器細胞膜]
      →[対象臓器ミトコンドリア外膜]
       →[ミトコンドリア内膜]
        →とうちゃこ

と,実に6回も細胞膜又はミトコンドリア膜を通過する必要があります.

細胞膜とは一般に下図のような構造(脂質二重層)ですが,実際はもっと複雑[※]なようです.

[※] 脱線しますが,この図のように細胞膜にはコレステロールの存在が不可欠です.コレステロールが膜の形態を維持しているからです. コレステロールがないと,細胞膜はそれこそ単なる『油膜』であり形をなしません. コレステロールは『低ければ低いほど良い; The Lower, the better』と言っている人は細胞膜など なくてもかまわないと思っているのでしょう.

図の通り 細胞膜のほとんどを占める脂質二重層は【油】の膜です.ここをフリーで通り抜けられるのは窒素,酸素などの気体分子くらいです.それ以外のほとんどの物質・イオンは,膜のところどころにあるチャネル又はトランスポータというそれぞれ自分専用の通用口を経由しないと細胞膜を通してもらえません. 『水も漏らさぬ』という言葉がありますが,細胞膜は脂質ですから水さえ通さないのです. 水専用のトランスポータ(=アクアポリン) だけが唯一の入り口です.

糖尿病の方ならよくご存じの通り,ブドウ糖が細胞の中に取り込まれるには 細胞膜表面のグルコース専用のトランスポーター(GLUT)が必要です.しかも場合によっては,まずインスリンが細胞表面のインスリン受容体にとりつき,細胞内がその刺激に応答して,やっとグルコーストランスポータ(GLUT4)がしぶしぶ細胞膜表面に顔を出します.ブドウ糖の各組織細胞への配送は 決してスムーズに行われるわけではありません.

ケトン体は これだけ警戒厳重な細胞膜を6回通り抜けねばならないのです.
しかし,ここで水にも油にも親和性が高いケトン体の特質が生かされます. ケトン体は,ほぼすべての細胞の表面にある モノカルボン酸トランスポータ(= MonoCarboxylate Transporter; MCT)を使って 細胞膜をスイスイと通過できます.

この『ケトン体は各組織細胞にスムーズに配送され,取り込まれる』という特徴は,後にケトン体の代謝(=消費)の面で 重要になってきますので,ご記憶の程を.

[5]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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