死を前にした方のユーモアに救われた。

医療機関

今日も複雑な気持ちだ。

救いたいのに救われたのは僕の方。

死を前にした方のユーモアに救われた。

 

 

もうワシは死んでるんや。帰ってくれ。

 

彼は言う。彼の言葉を聞き、言葉も出ないが、

先日習った反復、沈黙、を思い出し、やってみる。

 

もう死んでるんですね。帰って欲しいんですね。

 

そうやもう死んでるんや。帰ってくれ。

 

その後、沈黙が結構長く続く。

5分くらいしたら、寝息が聞こえてくる。

 

ご一緒した訪問看護ST.所長さんが、今度は声をかける。

 

お風呂いかがですか?

 

この家には、お湯も水もないんや。帰ってくれ。

 

お水もなくてお湯もなくて、今日は帰って欲しいんですね。

 

その後、沈黙が結構長く続く。

5分くらいしたら、また、寝息が聞こえてくる。

 

 

僕と訪問看護ST.所長と、なりふり構わず、

知りうる限りのあの手この手で、彼の苦しみを探す。

声かけの後、一生懸命に声を荒らげたにも関わらず、

しばらくの沈黙があって、そして、穏やかに眠り始められる。

 

 

いよいよ終末期になってきているので、

訪問看護指示も、特別訪問看護指示を追加し、

奥さんと書類等の契約をし直したりしている間、

隣の寝室で、彼は穏やかに眠られている。

 

帰りがけ彼にお声をかける。

 

忘れ物取りに戻って来ました。僕、もうすぐ帰りますから。

帰る前に、ちょろっと、もう死んでるか確認して良いでしょうか?

 

徐ろに聴診器を往診バックより取り出し、

胸の音を聴かせてほしいとお願いすると、

 

アンタ、医者やったらしいな。

 

そう言って今までになかった笑顔で、頷かれる。

 

もう死んでるっておっしゃられましたけど、

心臓の音も肺の音も、とっても綺麗です。

まだ死んでないと思うんですけど。

 

反復に反して、あえて彼にまだ生きていると伝えてみた。

 

そうかそうか、まだ生きてるんか、ワシは。

もう死んどる思うとったわ。ありがとな。

 

さっきまで、あんなにもすごい剣幕だった彼は、

今度は優しく「ありがとな。」って、言ってくれた。

 

 

玄関まで見送ってくれた奥さんが、

彼の笑顔の声を聞き、ホッとされていた。

 

僕らに出来ることはきっとまだある。

 

 

同窓の大先輩医師に病理や解剖の相談の電話をした。

きっと、日本の多くの医師達も苦しんでいる。前へ。

良かったら聴いてください。

 

 

 

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Source: 兵庫県三田市の在宅療養支援診療所「たなかホームケアクリニック」

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