第57回 【糖尿病学の進歩】の感想-4 GLP-1受容体作動薬の仕組み

健康法

【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

『2型糖尿病の薬物療法のUPDATE』の4本目の講演はGLP-1受容体作動薬でした.

2SY-5-4 GLP-1受容体作動薬

GLP-1受容体作動薬(以下 GLP-1RA)は,経口薬でなく注射薬ということもあって(★),日本ではさっぱり人気がありません.しかし 作用の強力さにおいては ひけはとりません.

(★) 最近 経口薬も発売されました.ただその服用法は多少面倒です.

『受容体』って?

受容体とはレセプター Receptorです. 細胞が外側に向けた受け入れ口です.

そもそも細胞は,細胞膜によって外界とは完全に遮断されています.そして細胞膜自体は 脂質とコレステロールからなっています.コレステロールが膜中に存在するのは形を保つためです.コレステロールがなかったら,細胞膜はただの油膜であり,流れてしまいます.

そして 細胞膜は基本的には 何も通過させません. 変な物質が自由に細胞の中に入ってきたら危険だからです.

特に細胞膜は,大きなもの,電荷を帯びたものは絶対に通過できません.よってブドウ糖やアミノ酸などの栄養物質は通過できません.また カリウム(K+)やナトリウム(Na+)も人体には必須のミネラルですが,やはり電荷を帯びているので通過できません. 細胞膜を自由に通過できるのは小さくて電荷を持たないもの,例えばガス状の窒素や酸素など,ごく例外的なものだけです.

それでは,細胞膜は どうやって外部から栄養素やミネラルを取り込んでいるのでしょうか?
それが 輸送体(Transporter)とチャネル(Chanel)です.

輸送体は 特定の物質を見分けて取り込み,自分自身の中を通過させて細胞の中に送り込みます. 糖尿病の方ならご存じ グルコース輸送体(Glut = Glucose Transporter)はその一つです.

そして チャネルは電荷を持つものだけに通路を開いて通過させるゲートです. 興味深いのはイオンチャネルで,ナトリウム(Na+)イオンはカリウム(K+)より小さいのに,カリウムチャネルを通過できず,ナトリウムチャネルしか通過できません.つまりここでも厳密に選別されているのです.

以上は,細胞膜の外から中へ,物質移動,つまりモノを取り込む方法でした. ただそれだけでなく,細胞は外から(モノではなく)情報だけを取り込む(信号伝達)こともあります. そしてこの信号伝達を担うのが受容体です.
受容体は よくこういう模式図で表されますが;

輸送体やチャネルの模式図と違って,出口のない袋小路になっている点にご注目ください. 受容体はモノを運ぶためではなく,そこに特定の物質がとりつくだけで機能を発揮するのです. そうです,インスリン受容体が代表的な例です. インスリンは,細胞の中に入り込んでインスリン自身が何かの仕事をするのではなく,ただ『血糖値を下げる動作を始めてください』という要求を伝えるだけです.

受容体に対象の物質が取りつくと,細胞の内側では 連鎖反応的におおわらわの騒動が始まります. 受容体の内側に配置されている伝令専門の蛋白質(G蛋白質)が動き出し,細胞内での物質合成や,更なる信号伝達(情報伝達カスケード)が始まります.火災報知信号を受信した消防署のようなものですね.

細胞が受容体から信号を受け取った後の動作については,この解説がもっともわかりやすいでしょう.

受容体と細胞内情報伝達系(1)|細胞の基本機能 | 看護roo![カンゴルー]

さて,ここまででやっと受容体にたどりつきました. 長い枕でしたが,ここからが本題です.

GLP-1受容体作動薬とは

この記事で,インクレチン(GIPやGLP-1)は食後 直ちに腸管から分泌されて,膵臓β細胞のインスリン分泌を増強する作用があると書きました. GLP-1もインクレチンの一種です.

GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は,膵臓β細胞の表面に存在する GLP-1受容体に働きかける薬です. といっても,サボっている受容体にハッパをかけるとか,そんな生ぬるい作用ではありません. GLP-1RAの動作は,同じくインクレチン作用を増強するDPP-4阻害薬と比較してみたほうが よくわかります.

話を簡略化して,1つのβ細胞には GIP受容体と GLP-1受容体がそれぞれ5個あるとして,腸管からはGIP,GLP-1がそれぞれ2個分泌されるとします. これらが受容体に到達してβ細胞を刺激するとインスリン分泌が促進されます(! マーク).

ところが,GIPやGLP-1は分泌されても,DPP-4酵素によって ものの数分で分解されてしまい,役目を果たせないものもあります.

どうしてそんな余計なことをするのだ,と思われるかもしれませんが,人体内部では役目を果たした生理活性物質(ホルモン)は,さっさと片付けてしまわないと収拾がつかなくなるからです.

消化管に食物が流れ出してきたら,その瞬間だけ チクンと膵臓β細胞を刺激してインスリンを増産させる. そしてその後は速やかにインクレチンを消してしまう,これが正常な人体で想定している手順です.

しかし,糖尿病ではインスリンの分泌が弱くかつ遅れ気味なので,それに合わせてDPP-4酵素によるインクレチン処分は手控えさせねばなりません.それがDPP-4阻害薬です.

これで 全員 めでたく受容体に到達できました. しかし,これでは 分泌された GIPやGLP-1のロスがなくなったというだけであり,そもそも GIPやGLP-1が少なかったら あまりβ細胞刺激効果は強くありません.

そこで GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は,こうするのです.

GLP-1RAは,組織細胞表面にあるGLP-1の受容体に直接働きかけて,本物のGLP-1が来たかのように錯覚させます.この場合,実際に体内で分泌・循環している本物のGIP,GLP-1の量とは無関係に受容体を刺激できるわけです.そしてDPP-4が何をしていようがお構いなしです.GLP-1RAはDPP-4では分解されないからです.

GLP-1RAの作用がなぜ強力なのかは この図でおわかりいただけるでしょう.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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