【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
実際の口演の順序とは前後しますが,昨日の記事とも関連するので,この発表を紹介します.
現在日本で販売されている現行のリブレ1[※]の測定精度を検証する面白い実験が報告されていました.
[※]現在日本で販売されているのはリブレの初代製品です. 欧米では既に 新製品のリブレ2が販売されてます.
リブレの精度
糖尿病治療の歴史においてCGMは,インスリンの発見(1921年)以来の画期的な出来事だと思っています. 糖尿病の患者自身が自分の血糖値変動を確認できるようになったからです.
昔は 血圧とは『病院に行ってお医者様に測ってもらうもの』でした.しかし,家庭用の簡便な血圧測定器が普及すると,現在では『家庭血圧』を病院での測定値よりも優先して判断することになっています.これは 家庭血圧の方が 脳血管・心血管疾患の発症率とよく対応していることが証明されたからです.
患者が自分の行動・自分の食事と血糖値変動の関係とを,その場でリアルタイムに確認できるようになった点で,CGMの功績は大きいと思います.現在の血圧計と同程度にCGMが各家庭に普及すれば,日本の糖尿病はもっと減るのではないかと,ぞるばは思っています.
しかし,そこで問題になるのがリブレの測定精度です. 実際にリブレを使っている多くの人は;
この値は変だっ!
と叫びたくなったことも一度や二度ではないでしょう.
たしかに『エラーグリッド評価では,おおむね実用レベルである』と言われても, リブレの表示が200で,SMBGが150だったら納得できませんよね.
そこで,こういう実験が報告されていました.
2-100-4 FreeStyleリブレにおける体温および外気温の影響
同じブドウ糖水溶液を用いて,異なる体温,及び異なる外気温の場合,リブレの表示値がどうなるかを調べたものです.臨床検査技師ならではの発想ですね.
この図の通り,ブドウ糖の水溶液を採血管に密閉し,リブレセンサー針を刺しています. この状態で恒温水槽に入れて,実際にありえる体温(35.5,36.5,37.5℃)に変化させています.
またセンサー部には,15℃又は40℃の水の入った袋を接触させて外気温を模しています.
ブドウ糖溶液は変えていないのですから,温度の影響が一切ないのであれば,いつも同じ値を表示するはずです.
体温の影響
ところが外気温=室温=25℃の一定状態で,ブドウ糖水溶液の温度(つまり体温)を変化させたところ,リブレの表示値はこうなりました.
35.5℃:227 mg/dl
36.5℃:241.6 mg/dl
37.5℃:254 mg/dl
疑似的な実験ですが,低体温の時/平熱の時/発熱している時は,体温が高いほど測定値も高く出てしまう傾向があることがわかります.
この結果について,報告者は,リブレもSMBGと同様にブドウ糖に反応する酵素を用いているだろうから,温度変化により酵素の反応活性が上がったからではないかと述べていました.
もちろん,それはセンサー部に内臓されたコンピュータで温度補正しているはずなのですが,それでもこれ位が補正の限界ということなのでしょう.
外気温の影響
そして,外気温の変化=センサー部だけの温度を変化させた場合はこうなりました.
15 ℃:322 mg/dl (CV=6.62%)
25 ℃:243 mg/dl (CV=0.97%)
40 ℃:313 mg/dl (CV=25.58%)
センサー部の温度が常温の場合は きわめて変動係数(CV)は小さいのですが, 常温より大きく離れると,低くても高くても測定値は不安定になって ばらけてしまう(=変動係数 CVが大きくなる)ようです.実際にはセンサー部は肌に密着しているので 常に体表温に近いはずで,夏でも冬でもこれほど極端な温度になることはないでしょう.したがって センサー部がこのような極端な温度になることは想定していないようです.
これを読んでおられる方で,今 リブレを装着している人はいませんか? センサー部だけに氷を当てるとどうなるか見てみませんか? (ただしセンサーがおかしくなっても,ぞるばは責任をとれませんw)
なお,会場から質問も出ていましたが,正確に100mg/dlのブドウ糖水溶液を作って,リブレに測定させても 100mg/dlに近い値は出ません.実際の間質液の糖濃度と,同じ人体の静脈血漿血糖値とは全然違うので,多くの実測データの平均から割り出した補正係数をかけているからです.リブレの表示値は,実測値そのままではなくて,静脈血の血糖値に近くなるよう内臓コンピュータが補正した数字を表示しています.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
コメント