日本でもロタリックスとロタテックはどちらも有効。

2020年10月から、ロタウイルスワクチンが無償化するというニュースを読みました。
「ロタウイルス」乳児向けワクチン 原則無料の定期接種に(NHK WEB NEWS)

ロタウイルスワクチンはわが国ではロタリックスとロタテックがありますが、どちらを選んでもその費用は約3万円です。
値段がネックとなって、すべての人にお薦めできるワクチンではありませんでした。
ロタウイルスワクチンはぜひ定期接種化してほしいと以前に記事を書きました。

ロタウイルスをどう防ぐ?ワクチンの費用対効果。

2017.01.08

ロタウイルスワクチンはすべき?現状と正しい知識。

2017.01.25

無償で接種できるようになった点は素直に嬉しいです。

さて、定期接種化されることで、ロタウイルスワクチンへの関心はますます高まると考えられます。
「ロタウイルスワクチンはどれくらい有効ですか?」という質問や、「ロタリックスとロタテック、どちらがいいですか?」という質問は十分に予想されるでしょう。

今回は、日本におけるロタウイルスワクチンの有効性がワクチンの種類によって変わるかについて書きます。

ロタウイルスワクチンの種類

ロタウイルスは現在でも年間45万人を死亡させる脅威のウイルスです。
日本でも年間26500-78000人が入院し、年間20人の脳症が発生し、その38%が後遺症をのこします。
感染力は非常に高く、便1g中に100億個のウイルスが排出されますが、10個程度の感染粒子で感染が成立します。
アルコール消毒は効き目があまりなく、衛生状態の良い先進国でも感染を予防することは事実上不可能です。

そのような背景の中、1998年8月にロタシールドという4価ワクチンが米国で発売されました。
しかし、接種を受けた乳児の1万分の1-2の割合で腸重積が発症し、1998年10月にロタシールドは回収されました。

その後、2011年11月にロタリックスが、2012年7月にロタテックが発売されました。
腸重積のリスクは2万-10万分の1とされています。
(以上、出典は小児内科 2018年 8号 p1242-1245)

ロタリックスとロタテックは現在の世界的にも広く使われ、日本でも使用できます。

日本におけるロタウイルスワクチンの効果

ロタリックスとロタテックで効果に差があるのでしょうか。

海外ではすでに評価されていて、たとえばアメリカでは「ロタリックスとロタテックはともに有用である」と報告されています。
Effectiveness of monovalent and pentavalent rotavirus vaccine.(Pediatrics. 2013 ;132 :e25-33.)

しかし、ロタウイルスといっても様々な種類(ジェノタイプ)があります。
さきほどのアメリカの論文で報告されたロタウイルスの種類は、G1P[8]が52%、G2P[4]が30%、G12P[8]が5%、G3P[8]が4%、G4P[8]が2%でした。
ですが、この割合はあくまでアメリカ内のデータであり、日本では異なる種類のロタウイルスが流行しているかもしれません。
そのためロタウイルスワクチンはアメリカでは有効でも、日本ではあまり有効ではないという可能性はあるかもしれません。

そこで、本日は日本の論文を紹介します。

Effectiveness of monovalent and pentavalent rotavirus vaccines in Japanese children.(Vaccine. 2018; 36 :5187-5193.)

「日本の子どもにおけるロタリックスとロタテックの効果」というタイトルです。
佐賀大学の報告です。
さっそく読んでいきましょう。

背景

日本におけるロタウイルスワクチンは、5歳以下のロタウイルス関連入院を70.4%減少させることが2017年に報告されました。
Effectiveness of rotavirus vaccines against hospitalisations in Japan(BMC Pediatr. 2017; 17: 156.)

しかし、日本におけるロタウイルスワクチンの効果が、胃腸炎の重症度、ロタウイルスの種類(ジェノタイプ)、ワクチンの種類、接種からの期間の影響を受けるかどうかについては完全には評価されませんでした。

今回の研究目的は、日本のロタウイルワクチンの効果が、以下の要因によって影響されるかを評価します。

  • ロタウイルス感染症の重症度
  • ワクチンの種類
  • 接種からどれくらい経っているか
  • ウイルスの種類(ジェノタイプ)

方法

ワクチンの効果は、「診断陰性例コントロール試験(test-negative法)」という方法で評価します。
(これについては、最後に少し解説します)

生後2か月から3歳までの小児で、急性胃腸炎で医療機関を受診した患者が登録されました。
急性胃腸炎の定義は、1日に2回以上の下痢または嘔吐(咳き込み嘔吐を除く)をしたときとしました。

調査期間は2014年1月~5月と2015年1月~5月で、佐賀県と福岡県の14施設で行われました。

すべての児の便サンプルを直腸スワブで採取し、イムノカードSD ロタ・アデノという迅速キットで検査しました。
検査陽性であれば、検体は札幌医科大学に送られ、ロタウイルスの種類(ジェノタイプ)を調べました。

重症度評価は修正ベシカリスコアの一部を使いました。

  • 24時間以内の最大下痢回数:0回0点、1-3回1点、4-5回2点、6回以上3点
  • 24時間以内の最大嘔吐回数:0回0点、1回1点、2-4回2点、5回以上3点
  • 発熱:37℃未満0点、37.1-38.4℃1点、38.5-38.9℃2点、39℃以上3点
  • 軽症1-4点、中等症5-6点、重症7-9点

結果

急性胃腸炎と診断し、本研究に適したのは1412人でした。
ロタウイルス陽性は487人、陰性は925人でした。
診断陰性例コントロール試験ですから、ロタウイルス陰性だった925人はコントロール群となります。

ロタリックスであれば2回接種、ロタテックであれば3回接種すると、そのワクチン効果はそれぞれ80.6%、80.4%でした(table 2)。

接種からの期間によって効果は低下する傾向がみられましたが、それでも接種から2年たっても70%以上の高いワクチン効果を認めました(table 3)。

重症例ではワクチン効果を91.4%認めました(table 4)。
これにより、ロタウイルスワクチンは重症化を防ぐ効果があると考えられました。

日本において、ロタウイルスのジェノタイプはG1P[8]が48.2%、G9P[8]が35.9%、G2P[4]が7.2%でした。
ロタリックスの効果率はG1P[8]に89.8%、G9P[8]に67.8%、G2P[4]に78.3%でした。
ロタテックの効果率はG1P[8]に85.8%、G9P[8]に67.5%、G2P[4]に88.1%でした(table 5)。
この結果はそれぞれ有意差はありませんが、論文中ではG2P[4]についてはわずかにロタリックスの効果率が低い可能性があると書かれています。

ちなみにこのtable 5、casesのパーセンテージが何を分母にしているのかが分かりません。
ORやVEの計算には不要なので、どうでもいいとも言えますが、ちょっと気になります。

結論

  • ロタリックスの効果率は80.6%、ロタテックの効果率は80.4%で、いずれのワクチンも効果を示しました。
  • ロタウイルスの種類はどれであっても有効でした。
  • より重症なロタウイルス腸炎を予防する可能性がありました。
  • ワクチン接種から2年以上たっても、70%以上の効果がありました。

私の感想

診断陰性例コントロール試験という手法について、私はつい最近知りました。
医中誌で検索すると2015年からHITします。

医事新報に、インフルエンザワクチンにおける診断陰性例コントロール試験の紹介がありましたので、引用します。

ワクチン効果は従来、「ワクチン接種群」と非接種の「コントロール群」にわけて,インフルエンザ流行期間に両群の中でインフルエンザに罹患した比率を比較して発病防止効果を解析していた。ワクチンに効果があれば「ワクチン接種群」でのインフルエンザ罹患率は低くなる。インフルエンザ罹患の判定には、インフルエンザ様疾患を発症した際のウイルス培養検査や抗原検査が必要となる。しかしながら、数カ月の長期にわたり、個々人のインフルエンザ感染の有無を正確に判定するのは困難であった。

(中略)

test-negative法は、インフルエンザを疑って抗原検査〔わが国においては迅速診断,海外においてはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)〕を実施した症例を対象に、陰性例をコントロール群として陽性例との間でワクチン接種率を比較し、ワクチンの有効性を計算する方法である。この方法は、今やインフルエンザワクチン効果判定のスタンダードとなっている。

たとえばインフルエンザ流行期間に、ある医療機関にインフルエンザを疑う患者が800例受診したとする。そして、わが国の医療機関ではすべての患者に迅速診断を実施するので、その結果「診断陽性群」500例と「診断陰性群」300例にわかれたとする。その両群中でのワクチン接種歴を確認し、「診断陽性群」と「診断陰性群」でのワクチン接種例数と非接種例数を比較検定すれば、ワクチン効果が算出される。コントロール群である「診断陰性群」でのワクチン接種者が150例とすると(接種率50%)、ワクチンに発病防止効果があれば、「診断陽性群」におけるワクチン接種者はたとえば100例に減る(接種率20%)。ワクチンの発病防止効果により、「診断陽性群」でのワクチン接種率は「診断陰性群」に比べて低下するというのが基本的な考えとなる(オッズ比0.25,ワクチン効果75%)。

インフルエンザワクチンの発病防止効果ー診断陰性例コントロール試験  No.4879 (2017年10月28日発行) P.36

確かに、診断陰性例コントロール試験であれば、容易にワクチン奏効率を求められます。
特にインフルエンザは毎年毎年「今年のワクチンは効いた」とか「効かなかった」とか話題に上ります。
診断陰性例コントロール試験であればすぐにワクチン効果率を求められますので、便利な手法だなと素直に感心しました。

ジェノタイプについてはどうでしょう。
この記事の最初に紹介したpediatrics誌2013年のデータでは、アメリカはG1P[8]が52%、G2P[4]が30%、G12P[8]が5%、G3P[8]が4%、G4P[8]が2%でした。
この中で、私が注目しているのはG2P[4]です。
というのはロタリックスはG1P[8]に対するワクチンであり、G2P[4]とはGタイプ(外殻糖蛋白質VP7)もPタイプ(プロテアーゼ感受性蛋白質VP4)も一致しません。
(ちなみにロタテックはG1-4とp[8]を含みます)

同論文にも以下の記載があります。

The effectiveness of RV1 against G2P[4] disease has been a concern given that all 11 genes and protein antigens of G2P[4] are typically distinct from those of G1P[8] strains, such as the RV1 strain, and the other most common circulating strains.

In the first large RV1 clinical trial, conducted in Latin America, the efficacy to age 1 year against severe rotavirus gastroenteritis (a clinical definition) caused by genotype G2P[4] was 41% (95% CI –79 to 82) (the clinical definition was diarrhea [3 or more loose or watery stools within 24 hours], with or without vomiting, that required overnight hospitalization or rehydration equivalent to World Health Organization plan B [oral rehydration] or plan C [intravenous rehydration] in a medical facility).

Although based on small numbers, this fueled concerns about the vaccine’s ability to protect against this genotype.

Effectiveness of monovalent and pentavalent rotavirus vaccine.(Pediatrics. 2013 ;132 :e25-33.)

ロタリックスとG2P[4]は遺伝子型が全く異なる点や、ラテンアメリカの報告でロタリックスがG2P[4]の重症例で効果を見出せなかったことが懸念材料として書かれています。

ですが、以降の論文でロタリックスがG2P[4]に対しても有効であることは明確ですし、今回の佐賀大学の論文でも有効でした。
さらに今回の佐賀大学の
報告では、ロタウイルスのジェノタイプはG1P[8]が48.2%、G9P[8]が35.9%、G2P[4]が7.2%で、アメリカに比べてG2P[4]の割合がずいぶん低いことが明らかになりました。
ロタリックスであってもロタテックであっても問題なく有効だと思える理由の一つになるでしょう。

日本においてもロタリックスもロタテックも有用です。
ぜひお薦めしたいワクチンの一つです。

Source: 笑顔が好き。

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