鼻プロテーゼのトラブルを自己組織移植で修正する手術は、口唇裂や小耳症などの先天奇形を治す形成外科の高度な技術が応用されています

形成外科と整形外科はどう違うの?

私は平成元年に医学部を卒業し、医師となってから、はやいもので、今年でもう30年になります。  

私の専門は形成外科(けいせいげか)という外科系の一分野なのですが、一般にあまりなじみがなく、よく整形外科(せいけいげか)と間違われます。  

整形外科は骨や関節、筋肉などの運動に関わる部位のケガや病気を治療する外科です。これに対し形成外科は、生まれながらの異常や、病気やケガなどによってできた身体の表面上の見栄えのよくない状態を改善する外科なのです。  

例えば、生まれつき上くちびるが裂けている口唇裂(こうしんれつ)、生まれつき上あごが裂けている口蓋裂(こうがいれつ)、生まれつき耳が小さい(小耳症)、生まれつきまぶたが開きにくい先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)、生まれつき指がくっついていたり、指の数が多い(合指症、多指症)など、顔や手指の生まれつきの異常に対する形成手術、やけどの後のケロイドやひきつれの治療、ケガの後の顔の変形や傷跡の治療、乳がんで切除された乳房の再建など、形成外科の守備範囲はとても広いのです。

口唇裂

(出典:http://weillcornellbrainandspine.org/condition/cleft-lip-cleft-palate

 

自己組織移植法は形成外科の基本中の基本

これらの治療をする場合に、自分自身の組織を用いて修復する自己組織移植法という方法がよく用いられます。

例えば、小耳症では胸の軟骨を取ってきて細工し、耳の形をつくります。また、先天性眼瞼下垂では、太ももから筋膜を採取し、それを使ってまぶたを吊り上げます。事故などで顔の骨が欠けてしまったら、腰骨の一部を取ってきて移植します。

小耳症

(出典:https://www.atlantaear.com/before-after/microtia-ear-reconstruction/microtia-22-before/

このように、自己組織移植は、形成外科の基本中の基本となる治療法で、私は京都大学病院やその関連病院で、この方法をみっちり叩き込みました。

さらに、口唇裂の患者さんは、鼻の穴の底の部分も割れていて、鼻の形も大きく変形しているので、割れたくちびるを治すだけでなく、鼻の形成手術も必要になります。鼻の変形は骨組みとなる軟骨自体も大きくくずれていますので、鼻中隔軟骨や耳の軟骨を使って、骨組みからきれいに作り直す手術も数多く経験しました。

現在、私はプロテーゼによる鼻トラブルを自己組織移植で修正する手術をライフワークとしていますが、大学病院など、大きな病院の形成外科で経験した多くの症例がその糧となっているわけです。

 

重度の口唇裂・口蓋裂であることを公表し、前向きに活動する小林えみかさん

今回のブログを書くきっかけとなったのが、小林えみかさんのブログです。

「私、重度の口唇口蓋裂です」(http://blog.livedoor.jp/emmy119/)

「口唇口蓋裂サイト「LIPS」」(https://nishiokatenko.wixsite.com/lips)

重度の口唇裂・口蓋裂であることを実名で公表し、この疾患について情報発信をしています。

また、口唇口蓋裂の患者さんや、そのご家族が集まる患者会「笑みだち会」を立ち上げ、同じ疾患で悩む方々をサポートし勇気づける行動はほんとうに頭が下がりますね。

 

私が以前に勤務していた京都大学病院は特に口唇裂・口蓋裂が専門だったこともあり、多くの患者さんの治療にたずさわり、その時に修得した技術を応用して、鼻のプロテーゼで困っている方の治療ができていることに感慨深い気持ちになりました。

Source: Dr松下ブログ

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