痩せ型糖尿病-4【完】

健康法

米国人ならみな同じか

米国にはよく出張しました.先方の会社との社員は 顔なじみになり,自宅に招かれるほど懇意になった人もいます.

会議では,なごやかな商談の時もあれば,時には怒鳴り合いに近い真剣な対決もありました.ただ仕事が終われば ざっくばらんな会話となり,こういう雰囲気の切り替えは米国人はうまいなあと思います.日本ほどではないですが,ノミニュケーションだってやります.

しかし,米国人ならみな同じではありません. 『米国人はいつも陽気で気前がよく,名前は 男ならトム,女ならメアリーに決まってる』 米国人をこんなステレオタイプで見る人はもはやいないでしょう. 米国人だってくそ真面目なのもいれば,ネクラだっているのです.

(C) あめんぼう さん

2型糖尿病ならみな同じか

2型糖尿病患者は食べすぎて運動不足の奴に決まっている

こういう医者はまだまだ多いようです.しかもどう見ても食の細そうな痩せ型の人にまで こんな言葉を投げつけるとは,医学知識以前の常識の問題かもと思うのですが.

これは 他の病気と比較すると明瞭です.

高脂血症や高血圧は,それぞれ 高カロリー・高塩分の食事習慣による部分も大きいと言われています. もちろん,遺伝的素因もあります. しかしそれらは 糖尿病でも同じです.

問題は コレステロールや血圧が高い場合には,患者本人の人格まで侮蔑するようなことは言わないのに,どうして糖尿病患者に対しては あからさまに軽蔑の言葉を平気で投げつけられるのでしょうか?

理由は明らかです.日本糖尿病学会は,1999年以来,肥満だろうが 痩せていようが 2型糖尿病は過食と運動不足だけが原因だ,つまり本人の責任だと全国の内科医にガイドしてきたからです.一般内科医向けの治療マニュアルである『糖尿病治療ガイド』を初版の1999年版から,最新版の2022年版まで調べてみましたが;

糖尿病治療ガイド 1999 – 2022 (C) 日本糖尿病学会

すべてこう書いてありました.

糖尿病治療ガイド 2022 p.14

努力の甲斐あって,これは十分に浸透しました.だから,その医師からすれば,『2型糖尿病は食べすぎと運動不足だという学会のガイドラインに従っただけなのに,私のせいにするのか』と反論するでしょう.

学会が発行する『治療ガイド』は,医師の医療行為を法的に規制するものではありません.ですから 一般の医師は,糖尿病治療にあたりこの『治療ガイド』に従う義務はありません.

しかしながら,最近のこういう記事を読むと;

人気YouTube番組でまさかのトラブル ジャガー横田夫が出演者一喝、途中退席…「医師としてやめてほしい」(J-CASTニュース) – Yahoo!ニュース
2023年10月16日にYouTubeで公開されたリアリティ番組「令和の虎」(Tiger Funding)で、志願者との面接中、ジャガー横田さんの夫で医師の木下博勝さんが途中退席をする騒動があった

ここに登場する医師はこう述べています.

  • 医師としての見解を尋ねられた木下さんは、「僕らが普段している心療、治療の考え方とは全然違うことで。糖尿病の治療っていうのは現在は糖尿病の治療ガイドラインっていうのがありますので、それに基づいて普通医師は行うんですけど……」
  • 「僕が言うとなんか元も子もなくなっちゃうんですけど、基本カロリー制限が糖尿病の治療原則だと思うんですね。なのに糖質だけ制限するって言うのは、エビデンスは僕はないと思うんですけど」
  •  栄養学的な問題などは自身の知識外であり「考え方としては別にいいと思いますよ」とするも、「『これをやると糖尿病が治る』とかね、そう誤解させてはいけない」と強調した。

この医師は,学会が発行するガイドラインにはエビデンスがあると信じているのです.しかし,日本糖尿病学会は『糖尿病診療ガイドライン 2019』にこう書いています.

各栄養素についての推定必要量の規定はあっても,相互の関係に基づく適正比率を定めるための十分なエビデンスには乏しい

糖尿病診療ガイドライン 2019 p.37

もちろん,あらゆる病気を診断・治療しなければならない 町のクリニックでは,医師は 学会のガイドラインがあれば,それに従うだけです. ガイドラインの記述には,本当にエビデンスがあるのかどうか,などと調べたりはしません. ガイドラインは山ほどあるからです.

たしかに過食・運動不足・肥満が明らかな2型糖尿病患者は実在するでしょう. 敢えていえばそれが多数派かもしれません.しかし だからと言って,一人残らず全員がそうだと決めつけることに,そしてそれを日本中の医師が信じ込んでしまうことに,学会は何の問題も感じなかったのでしょうか?

医師ならみな同じか

糖尿病専門医は日本全国に 6,000人ほどしかいないので,実際にはほとんどの糖尿病患者は,非専門医,つまり普通の内科医・クリニックに通っています

糖尿病専門医は,一般には非専門医よりは多数の患者を診ています. したがって 2型糖尿病と 病名は同じであっても, 患者一人一人ごとに随分違うことを身をもって体験しています.

  • Aさんにはよく効いた薬が,Bさんには まるで効かない
  • どうみても食事の細いAさんの方が,ガバガバ食べているBさんよりも HbA1cが高い
  • 検査でインスリン値を測ってみると,測定限界スレスレに少ない人もいれば,むしろ健常人よりも多いインスリンを出している人もいる.

つまり まるで教科書通りではないことは 経験しているでしょう.

そして専門医がもっとも恐れるのは 自分の患者が低血糖で倒れて救急搬送されることです.患者が担ぎ込まれた救急病院からは『いったどんな治療をしているんですかっ?』と怒鳴られてしまいます.ご近所でも『あのクリニックに通っていたら,倒れて救急車で運ばれたんですって』という噂が流れてしまいます.

したがって専門医は,自分の患者のHbA1cを 何が何でも『正常人のHbA1c』にすることが最優先とは思っていません.合併症が出ない,しかし低血糖にもならない,これだけを目指しているのです.

一方 一般の内科医には,糖尿病治療に不慣れな場合,まるで高血圧の治療のように『正常値にする』ことが当然と思っている人もいるかもしれません.

治療とは異常値を正常値にすることである. よく効くはずの薬にもかかわらず,HbA1cがなかなか『正常値』にならない. これは 患者が 薬の効果をチャラにする過食をしているに違いない....

もちろん非専門医のすべてがこうだとは言いませんが,高血圧の治療と糖尿病の治療とでは 治療目標が異なる(=糖尿病では HbA1cだけが目標ではない)ことを認識していない医師もありえるのです.当然 そんな医師なら 『HbA1cが同じでも,平均血糖値は同じとは限らない』ことも知らないでしょう.

2型糖尿病なら治療法はすべて同じか

昨年9月に,日本糖尿病学会は 『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』を発表しました. そこでは 肥満型と非肥満型とでは,投薬選択の手順が違うと述べています.つまり 肥満型と非肥満型では治療法が違うのです.その理由は,痩せ型の場合は インスリン分泌の絶対不足が,そして肥満型の場合はインスリン抵抗性が主体と,病態が正反対だからです.

だとすれば,推奨する食事療法,推奨する運動療法,これらすべてが 肥満型と非肥満型では 異なっているのが自然でしょう. それとも投薬だけは違うが,それ以外はすべて同じ,と考えているのでしょうか?

それでは 『米国人なら みな同じ』と思うのと同じですよね.

痩せ型糖尿病【完】

 

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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