認知症利用者の苦情は聴くべきか!?

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どうも、ヨウ-P(@s_y_prince)ことYO-PRINCEです!
いろんな切り口からカイゴのヒントをお届けしています!

今日は相談員としての視点で記事を書きたいと思います。

相談員としての私の醍醐味は苦情処理でした。

通常は誰しも嫌がる仕事だと思います(^_^;)

苦情処理というのは、利用者を守りつつ職員も守らなければいけない高度な思考とテクニックが必要なんですよね。

利用者にとっても職員にとっても最善の導きができたときに介護には味わえなかった達成感があるんです。

今回書きたいのが、認知症の方からの苦情です。

皆さんの施設では、認知症の利用者から苦情があった場合、どのようにされていますか?

認知症の方からの苦情は受け付けない?

アンタ!
ちょっと言いたいことがあるんや!
こないだメガネかけとる職員から頭を叩かれたんや!

認知症の方からこんな苦情があったら、どう対応すべきだと思いますか?

え?
それって俺のことですやん!?
ま、まさか…認知症の人の言うことなんて真に受けないですよね…??

これが、認知症の方からの苦情処理の実態です。

認知症の利用者を信じるか、職員を信じるか…。

苦情として受け付けた以上は、その職員への確認作業をすることになります。

認知症の利用者からの苦情を受け付けて確認作業をしていくと、職員の不信感を募らせてしまうことになってしまうんですよね…。

え?
ヨウ-Pさん、Aさんの言うこと真に受けてはんの!?

周囲からはそんな声が聞こえてくることになり、認知症利用者の苦情を受け付けることがタブーのような雰囲気が作りあげられていきます。

おそらく、多くの施設では、認知症の利用者の苦情は聞き入れてもらえない、あるいは聞き流されてしまう傾向が多いのではないでしょうか??

虐待の可能性も否定できないケースもある?

一方で、施設では高齢者虐待の問題がありますよね。

施設においては高齢者虐待の可能性は否定できず、その対象となりやすいのが認知症の方だと言われています。

そして、そうした虐待は表面化しにくいものです。

なぜなら、介護は他人から見えないところで行われることが多いからです。

それに加えて、多くの認知症利用者が虐待を受けたことを訴えることができないというのも理由の一つです。

ところが、認知症の方は「感情の記憶」が残りやすいと言われていて、叩かれたことは憶えていなくとも叩かれたときの“怖さ”という感情は残っていることがあります。

実際、認知症の利用者が特定の職員をひどく怖がっていたりすることはよくあることです。

だからと言って、それは虐待の決め手となるわけではありません。

それは、利用者を叩いていなくとも、言葉が荒かったりするだけでも“怖い”という感情が残ることがあるからです。

そうした「感情の記憶」が、認知症利用者の「妄想」につながることもあるんですよね。

叩かれていないのに、「叩かれた」となってしまう…。

仮にさっきの認知症利用者が「妄想」だとしたら、叩いてないんだから苦情なんて聞く必要ないってことですよね??

さて、それでおしまいでよいんでしょうか??

※「感情の記憶」についてはこちらの記事で触れていますのでご覧になってください。

客観的事実で対応すれば認知症利用者の苦情も受け付けることができる!

結論から言いますと、「妄想」であっても認知症利用者の苦情は受け付けます!

ただし、ひと工夫することが必要です。

まずは、主観的事実と客観的事実とを分けて考えることが必要です。

主観的事実とは、その人にしか分からない事実

客観的事実とは、誰から見ても事実というものです。

苦情処理は、「真実」をもとに対応していくことになるので、誰から見ても事実である「客観的事実」が重要となってきます。

何が「客観的事実」かを見極めていく作業が大切なんです。

※主観的事実と客観的事実について、はこちらの記事をご覧になってください↓

客観的事実を整理する

では、認知症利用者の「職員に叩かれた」という苦情についての「客観的事実」を考えてみたいと思います。

この苦情で誰がどう見ても事実なのは何か…です。

「職員に叩かれた」ということは、この苦情だけでは事実かどうか分かりませんよね?

この苦情での明らかな事実は「利用者が職員に叩かれたと言われている」ということのみです。

当たり前のことなんですけど、ここで先入観が入ることって多いんですよね…。

あの職員やったら叩くのもありえるな…。

あの利用者さんいっつも嘘つくからな…。

これではダメですよね…(-_-;)

どれだけ真実味のある先入観も一切取っ払って客観的事実のみを見るべきですよね!

苦情は「真実」か「嘘」か「妄想」か!?

次に、「その認知症の利用者が言われていること」が事実かどうかを分析していきます。

まずは「真実」「嘘」かですが、それはその認知症の利用者とその職員にしか分かりません。

ですが、その利用者には認知症があることから、職員の言い分を信じることになると思います。

そりゃあ、そうでしょ!
認知症のある利用者のほうが「嘘」となるのは仕方ないことです!

比較で言えば、認知症の方が「嘘」をついている可能性が高くなるかもしれませんが、そんな比較は不毛でしかありません。

だって、そんな比較をしても「真実」が見えてくるわけないですからね…。

なので、苦情が「真実」「嘘」かは考えないほうがいいです。

いっそ、「妄想」と捉えてしまいましょう!

「妄想」とは、それを「真実」と思い込んでいる状態です。

実際、認知症の方の場合、意図的に「嘘」をつかれることは少なく、「妄想」であることが多いです。

「嘘」「妄想」かの見極めが難しいケースもあるかもしれませんが、「妄想」の可能性があるのなら「妄想」と捉えたほうが後の対応がしやすくなるんです。

なぜなら、「職員に叩かれた」という「妄想」に至った要因を考えるというステップに移ることができるからです。

「妄想」は認知症のBPSDの一つであり、BPSDは何らかの環境が影響していると言われているので、環境による影響を考えていけばいいのです。

※BPSD:認知症の行動・心理症状。徘徊、暴力等。

 そうすると、「真実」「嘘」かという不毛な比較から抜け出すことができますよね。

「妄想」に至った環境因子とは?

「妄想」に至る環境因子にはどんなものがあるでしょうか?

まず、利用者の健康状態が影響することがあります。

緩下剤を服用しお腹が痛くなることが、認知症の利用者にとっては得体の知れない不快感となってBPSDが出現することがよくあることです。

熱さ、寒さ、音、明るさ等の環境が、認知症の利用者に不快感を与えているとしたら、そこからBPSDにつながることもあります。

こうした環境が起因していることは大いに考えられますが、職員の対応のなかにも「叩かれた」と思わせてしまう何かがなかったかも確認していきます。

実は、この「利用者に“叩かれた”と思わせてしまう対応がなかったか」を確認する作業が一番大切なのです。

なぜなら、苦情処理というのは利用者を守りつつ職員も守るものだからです。

認知症の利用者に「叩かれた」と思わせてしまうようなことはどの職員でも十分にありうることなので、職員への確認作業はしやすくなります。

このようにして、苦情の対象となった職員への配慮をしながらも、利用者の苦情を真摯に受け止めているこの確認作業は、まさに苦情処理の理想形ではないでしょうか?

苦情の対応例

ここで、実際にその職員への確認作業の一例を見てみたいと思います。

Aさんが「叩かれた」と言われてるんやけど、そう思わせてしまうような場面ってありました??

え?
そんなこと言ってはるんですか!?
そんな風に思わせてしまうようなことはないと思いますけど…。
ヨウ-Pさんは僕が叩いたと思っているんですか??

いや、そうやなくて、利用者さんが言われている以上はちゃんとB君とも共有しておいたほうがええし、B君がAさんに誤解させてしまっていることがあったら修正しておきたいなと思ってるんや。

それならいいんですけど…。

Aさんって認知症やから、ちょっと嫌やと思ったことが「叩かれた」になることってあるやんか?
もしかしたら、「叩かれた」と思われるような嫌な気持ちになってしまうことってなかったかなぁと思って。

ないですけどね~…。

例えば、腕が頭に当たってしまったとか…。
あと、忙しいときって、どうしても言い方はきつくなったりすることって誰でもあると思うし…。

それはあるとは思います…。
夕食後なんてバタバタですし…。

そうやんね…。
ちょっと夕食後の業務は考えてみないとアカンかもしれんなぁ…。

初動としては、こんな確認作業をします。

まずは、職員も利用者も疑わず、「客観的事実」をもとに確認作業をするわけです。

もちろん、これはスタートにすぎません。

ここから、業務改善につなげたり、認知症ケアの質を高めていくような取り組みにつなげていくことが大切で、場合によっては職員の個別指導をしなければいけない場合もあるわけです。

職員の個別指導が必要な場合はスーパービジョンを取り入れる

このようにして、苦情処理が動き始めていくと、職員の対応のなかに「不適切ケア」が見えてくる場合があります。

「不適切ケア」というのは、「虐待の芽」とも言われていて、虐待には至っていないけど放っておくと虐待につながりかねない不適切な対応のことです。

ちょっと重い記事なので、このへんでこちらの記事を読んで一息入れてください(^_^;)
不適切ケアについて書いています↓

さて、一息ついていただいたところで本題に戻ります。

苦情処理に当たっては、その苦情に至った原因をさまざまな角度で情報収集していきます。

その利用者・職員からの話のなかで見えてくることもあれば、周囲の職員の話から見えてくることもあります。

実際にその職員の対応やその利用者の過ごし方を見ることで分かることもあります。

そうした情報収集のなかで、虐待が疑われるケースもあるわけです。

それが「不適切ケア」です。

その職員が大声を出していたり、イライラしていることがあると、周囲の職員はこう思います。

これは、「叩かれた」と言われても仕方がないな…(-_-;)

そうなってくると、それは「不適切ケア」として、その職員の個別指導が必要となる場合があります。

スーパービジョンの出番ですね。

スーパービジョンというのは、対人援助者(スーパーバイジー)が指導者(スーパーバイザー)から教育を受ける過程のことです。

簡単に言えば、その職員と面談をしてスキルアップにつなげていくわけですけど、その方法は個別の面談だけではありません。

集団スーパービジョン、ピアスーパービジョン、ライブスーパービジョン…。

その方法は様々です。

個別に指導していくことが難しければ、集団スーパービジョンの手法で、会議等を用いて「不適切ケア」について考える場を設けるという方法をとってもいいと思います。

同じぐらいの立場の職員同士で話をしてもらうピアスーパービジョンでもいいかもしれません。

業務中にOJTで指導をしていくライブスーパービジョンが効果的な場合もあると思います。

その職員の性格等を踏まえて、どの方法をとるのが最善かを考えながら、その職員のスキルアップにつなげていくわけです。

認知症の方からの苦情も受け付けるべき!

以上のように、苦情処理する仕組みが整っていれば認知症の方からの苦情も受け付けることができます。

こうした仕組みが整っていなければ、認知症の方からの苦情は受け付けないほうがいいかもしれません。

職員の施設への不信感が膨れ上がるだけです…。

とはいえ、認知症があろうがなかろうが苦情は苦情なので、受け付けないわけにはいかないのです。

そうした苦情からいきなり職員の責任として片づけようとすることが問題なだけで、ちゃんと苦情処理をすれば認知症の方からの苦情はさほど難しいことではありません。

実際に、認知症の方であっても真摯に苦情を受け止めることで、真実が見えてきて業務改善につなげることができたり、メンタルヘルスにつなげたりできるものです。

職員の介護スキルの向上につなげることだってできます。

さらには、施設に紛れ込んでいる犯罪者に早期にアプローチすることにつながるかもしれません。

2016年の神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」の事件のように、犯罪者が施設に紛れ込んでいることだってあるわけですから…。

認知症の方の「妄想」によって職員が濡れ衣を着せられることはあってはいけないものの、それを恐れて認知症の方からの苦情をちゃんと受け止めないということもまたあってはいけないものです。

利用者、職員ともに守られる施設でありたいものです!

まとめ

認知症の方は何も分かっていない…という言葉を見聞きすることがあります。

施設で働く職員の人権も守られなければいけないことは言うまでもないことですが、だからと言って職員を守ることに偏りすぎることは結果として職員を守れないことにつながることがあります。

職員がスキルアップできる機会を奪うことにもなりかねません。

大切なことは、利用者も職員も守られるということをブレずに取り組むことです。

難しいことだとは思いますが、そこをやるしかない仕事だと思っています。

この記事に書いたような一連の流れを取り入れること自体は簡単なことかもしれませんが、結局求められるのは高度なコミュニケーション技術です。

認知症の方からの苦情の聴き方、職員への確認の仕方、チームからの情報収集の仕方、スーパービジョンにおけるスーパーバイザーとしてのスキル…。

利用者も職員も守るという難しい課題に取り組み続けるという施設の覚悟のなかで、経験を積み重ねていくしかないと思います。

やってみるなかで失敗もあるとは思いますが、何とかなるものですし、必ず成果があります。

何もしないことが一番最悪です…。

結局何が一番大事かというと、施設のトップの覚悟

それがこの記事で一番訴えたい結論です。

Source: すべての道は介護に通ず【暮らしかるモダンなブログ】

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