日本の保険医療を守るために

内科医

 医療従事者が行う保険診療の行為は,薬の処方や検査や手術や処置の手技など,あらゆる項目に細かく費用(診療報酬)が決められていますが,医療情勢や財政により適宜改訂され,今年度は2年毎に定期的に行われる大幅な診療報酬改定の年でした.

 今回の改訂で我々プライマリーケアを担う開業医にとってもっとも衝撃的だったのは,生活習慣病管理料(II)の導入です.
 高血圧,糖尿病,高脂血症という三大生活習慣病を主病(通院の主な目的としている疾病)とする患者さんに対しては,投薬や食事運動療法の指導などを行った報酬として,今までは特定疾患管理料というものを月2回まで算定できたのですが,これが廃止され,生活習慣病管理料(II)(Iもありますが話が複雑なのでここでは省略します)というものを算定するように変更されました.
 しかも報酬的にはやや減少,またこれがいちばん大事なのですが,月に1回しか算定できなくなりました.
 さらに面倒なのは,患者さんごとに,概ね4カ月ごとに,療養計画書(食事や運動などの指導結果を記載した文書)を渡してそこにサインをもらわなければならないということで,ただでさえ忙しい診療に面倒な作業が加わりました.

 この改訂によって最も影響を受けるのは,いうまでもなくこれらの疾病で患者さんが月2回定期通院をしていた場合です.
 当院ではこれらの疾病の治療だけで月2回定期的に来院されているような患者さんはほとんどいないので,影響はそれほどないのですが,この改定の重要な狙いは何よりも,無駄な通院による医療費の増大を抑制するということではないかと思います.

 医療において,どのような治療や検査をするか,どれくらいの通院間隔とするかは,かなりの部分が医師の裁量に委ねられています.
 状態の不安定な場合などは月2回でも3回でも経過を見る必要のある場合もありますし,高齢者の中には2週間毎に通院して聴診器を当ててもらったり話を聞いてもらうだけで安心,それが一種の見守りにつながっているという考えもあるでしょう.
 しかし,若い人たちや仕事を持っている人たちは毎月1回の通院でさえ難しいのが現実ではないかと思います.

 ですから当院では,状態が安定していれば,1回の処方日数の最長許容範囲である3ヶ月処方も多くしています.そうすると来院時たとえ混んでいて長時間待たされたとしても,それほど不満は起きませんし,何より無理なく通院していただけます.

 日本は先進国の中でも,患者さん一人当たりの年間通院回数が驚くほど多いというデータが出ています.またかかりつけ医の有無に関わらず,基本的にはどの医療機関にもフリーアクセスです.
 そのことが疾病の早期発見につながり世界随一の長寿国家を作ったという意見も否定はできませんが,だからといって無駄な通院が許容される理由にはなりません.
 医療機関の中には,ただ経営のためだけに誰でも2週間毎に通院させ,1時間以上待たせて3分診療,そのわりには患者さんの話もろくに聞かず,はい薬だけ,というようなケースも多いのでないでしようか?

 今や我が国は世界に類を見ないほどの少子高齢化に加え,医療の進歩により高価な薬剤や治療方法が次々と現れて国民総医療費の高騰はとどまるところを知らず,今や国家財政を危うくするほどの状態になっていますし,当然のその結果として,日本が世界に誇る国民皆保険制度の破綻さえ危惧されています.
 いまから30〜40年くらい前は,高齢者医療はなんと全て無料で,診療報酬制度も今ほど厳しくなく,開業医は儲け放題,大邸宅やクルーザーまで容易に所有することができたような時代でしたが,それも今は遠い過去の話となりました.
 裏返せば,その当時は現在のような状況を予見できなかった,あるいは予見できてもなんら対策を打てなかったことが,今のような厳しい状況を招いてしまったと言っても過言ではないのではないかと思います.

 限られた医療資源を大切にするためにも,医療を受ける側も大切な薬を簡単に無駄にしてしまったり,意味のない通院やドクターショッピングを繰り返さないようにしていただくことはもちろんですが,我々医療を提供する側も,私たちの収入は,考えてみればその7割近くが国民の納めた大事な保険料や血税に支えられていることを改めて認識して,無駄な薬や検査,そして,何よりも無駄な通院をさせないこと,これを肝に銘じる必要がありますし,今回の診療報酬改訂はそのことを再認識させることになったとも思います.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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