前回の記事では,AIに出した質問のレベルが低いと,それに相応したレベルの回答しか返ってこない実例を経験しました. あまりにも初歩的なことを訊ねると,AIだって『おや,これは初心者なのだな』と判断するからです.初心者に難しい回答をしても,かえって混乱するだろうというわけです.人間同士の会話だってそうですよね. 「あ,この人はわかってないな?」という質問には,それに応じた答えかたをしますから.
そこで 糖尿病についても,実にアバウトな質問を AIに投げてみました.
【質問】糖尿病とは?
AIの回答は 予想通りです.
糖尿病は、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンの働きが悪くなり、慢性的に高血糖状態が続く病気です。放置すると血管が傷つき、失明や腎不全、心臓病などの重篤な合併症を招くリスクがあります。主に2型糖尿病(生活習慣関連)が多く、食事療法や運動療法が治療の基本となります。
◇ 糖尿病の主な種類
2型糖尿病: 糖尿病の9割以上を占める。遺伝的要因に、生活習慣(過食、運動不足、肥満など)が重なって発症する。
1型糖尿病: 膵臓の細胞が破壊され、インスリンがほとんど出なくなる。
その他: 妊娠中に見つかる「妊娠糖尿病」や、他の病気が原因の二次性糖尿病。
◇ 原因と症状
(以下 略)
たしかに『糖尿病とは何かを知らない人』には,ここから説明しなければいけませんからね. これは 前回の『カメラの初心者』向けの回答と同じです. 基本知識だけを手短にまとめてくれたのです.ただこれでは AIを使う意味がありません.どこにでも書いてある一般的なことなら,何もAIを使う必要はありませんから.
それでは 詳細な質問をすると 回答はどうなるのでしょうか. かねてから疑問に思っていた こういう質問をAIにぶつけてみました.
【質問】
2018年にスウェーデンの Ahlqvist博士は,糖尿病のサブタイプには5種類あること,そしてその内の4種類は従来2型糖尿病とまとめて呼ばれていたにすぎないと主張しました.
Ahlqvist博士が この説を提唱したのは,単に糖尿病の新分類を提案することだけではなくて,サブタイプの1つの SIRD=Severe Insulin-Resistant Diabetesは,さほどHbA1cが悪化していない頃に,つまり まだ糖尿病が軽症と思われているときに,急速に腎機能が悪化して透析に陥るリスクが高いからでした.
しかも,SIRDは それ以外の糖尿病とはまったく異なる遺伝的素因を持っているとも報告されています.
これらの知見から 欧州糖尿病学会のRhapsody Projectは,Ahlqvist博士の分類にしたがって,サブタイプごとに個別化された治療法を確立しようとしています.
日本糖尿病学会も,このAhlqvist説に立脚した糖尿病の個別化治療に目を向け始めました.
以上の通り,欧州 および 日本の糖尿病医学界では,Ahlqvist博士のサブグループ説に取り組んでいるようですが,米国糖尿病学会(ADA)は まったく正反対です.
最近発表されたガイドラインでも,Ahlqvist博士の文献や新説は 一切無視しています.
日米欧の医学界のこの違いの理由は何なのでしょうか?
この長い質問に,AIも長い回答を返してきました.
【要点】 欧州・日本は「糖尿病の異質性を考慮した個別化医療」を積極的に模索しているのに対し、米国は「臨床的に確立されたエビデンスと標準化治療」を優先しているため、Ahlqvist博士の新分類を公式ガイドラインに取り入れていません。
【欧州・日本がAhlqvist説を重視する理由】
◇ 臨床的意義の強調: Ahlqvist博士らの研究は、特にSIRD(Severe Insulin-Resistant Diabetes)が早期から腎症リスクを高めることを示し、従来の「一括りの2型糖尿病」では見逃される危険性を指摘しました。
◇ 個別化医療の流れ: 欧州糖尿病学会(EASD)は「Rhapsodyプロジェクト」などを通じて、サブタイプごとの治療戦略を模索しています。日本糖尿病学会も同様に、患者ごとのリスク層別化を重視し始めています。
◇ 遺伝的背景の違い: SIRDなど一部のサブタイプは、他の糖尿病群とは異なる遺伝的素因を持つことが報告されており、分子医学的な研究が進む欧州では特に注目されています。
【米国糖尿病学会(ADA)が慎重な理由】
◇ ガイドラインの性格: ADAのガイドラインは「臨床現場で即座に使える標準化治療」を重視しており、まだ大規模臨床試験で確立されていない分類は採用しません。
◇ エビデンスの段階差: Ahlqvist分類は観察研究やコホート解析に基づくもので、薬剤選択やアウトカム改善に直結する介入試験は十分ではありません。米国は「RCT(ランダム化比較試験)での裏付け」がない限り、ガイドラインに組み込むことを避けます。
◇ 医療制度の違い: 米国は保険制度や診療報酬の枠組みが「標準化治療」に強く依存しており、細分化された分類を導入すると診療の複雑化やコスト増につながる懸念があります。
◇ 研究文化の違い: 欧州は「病態の多様性を探る基礎研究」に厚く投資する傾向があり、日本もそれを取り入れつつあるのに対し、米国は「治療効果を示す臨床試験」に重点を置くため、まだ応用段階に至っていない分類は脇に置かれがちです。
【まとめ】
◇ 欧州・日本: サブタイプ分類を「個別化医療の未来」として積極的に研究・導入。
◇米国: ガイドラインは「確立された治療エビデンス」に限定し、Ahlqvist分類はまだ研究段階と位置づけ。
つまり、研究文化・医療制度・ガイドラインの性格の違いが、日米欧での姿勢の差を生んでいます。
この違いは「どちらが正しいか」ではなく、エビデンスの成熟度と医療システムの優先順位の違いに基づくものです。
米国と欧州の糖尿病医療のスタンスの違いがあることには,私も意識しておりませんでした.たしかに訴訟社会である米国では,めったなことはガイドラインに書けない,という事情が大きいのでしょうね.ヘタなことを書いたら,生命保険会社から巨額の賠償訴訟を起こされてしまいますからね.

AIに回答を求めるのであれば,質問する方も それなりの工夫が必要なのです.
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ


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