コロナウイルス騒ぎで このシリーズが長らく宙ぶらりんになっておりました.ここまでの記事の内容は;
一般には,筋肉量 特に骨格筋が多いほうが,また 同じ筋肉量ならよく動いた方が,糖尿病リスクは低い.しかし;
筋肉量を本当に正確に測定する方法は,MRIやCTで筋肉の大きさを実測する以外には存在せず,精度が高いとされる DXA( 二重エネルギーX線吸収測定法 ) や BIA( 生体電気インピーダンス分析法 )であっても,推定法にすぎないというところまで 話を進めてきました.
よくスポーツジムで見かける体組成計は,体重だけでなく. 上記のBIA法で 被測定者の脂肪・筋肉量を測定しています. しかしこの方法はあくまでも,MRI・CTなどで実測した筋肉量に対して高い相関性があるというだけで,精度はかなり高いものの 単なる推定であることに変わりはありません.
筋肉に比例する指標があるじゃないですか
糖尿病患者たるもの,定期健康診断を受ければ,真っ先に空腹時血糖値とHbA1cをチェックするのが習い性になっておりますが,血液検査の項目にある「クレアチニン」にも注目しましょう.
クレアチニンとは
筋肉代謝の老廃物です.人体に不要なものなので,最後は腎臓から排泄されていきます.したがって,腎臓機能が正常であれば,血液中のクレアチニンの濃度はそれほど高くなりません. もしも基準値(男性では 1.0 mg/dl,女性では 0.7mg/dl)を大きく上回っていれば,それは腎臓が正常な排泄機能を果たしていないことを意味するので,健康診断では腎症有無の判断基準として使われています.
ところで,この基準値が男性と女性とで違うことからわかるように,クレアチニンは筋肉の老廃物なのですから,筋肉が多ければそれだけクレアチニンも血中に多く出てくるはずです. しかも 筋肉1kgあたりのクレアチニン生成量はほとんどの人で一定です. とすれば,そうです,
クレアチニンは その人の筋肉量の多さを反映しているのです
O-042 クレアチニン/体重比は2型糖尿病発症のリスクとなる [京都府立医大/朝日大学病院]
2004~2014年に健康診断を受診した腎機能を含め健常な成人(男性9,659人;女性 7,417人)を追跡して,体重当たりの血中クレアチニン比と,糖尿病発症率に相関があるかを観測した報告です. 観察期間が5.6年(男性)~5.4年(女性)と短いので,明確な結果まではまとまっていないのですが,特殊な測定を行わなくても,自分の筋肉量 及び 糖尿病リスクがある程度判断できるので,簡便で有用だと思います.
体重当たりのクレアチニン比( = Cre/BW)が高ければ,その人は体格の割には筋肉量が多いことを示しています. もちろん,筋肉量は 一般に女性より男性の方が多いですから,性別で調べた結果が以下の通りです(*).
(*)なお,この報告は 同じ内容が,別途 学術論文として専門誌にも投稿されています.
男性の場合は,クレアチニン/体重 比が低い,すなわち相対的に筋肉の少ない人は,BMIや腹囲が高く,メタボ傾向にあることがわかります. また追跡期間が5年ほどと短いにもかかわらず,クレアチニン/体重比が高い人に比べて 明らかに糖尿病発症率が高くなっています.
一方 女性の場合は,もともとクレアチニンが男性よりも少なく,しかも その最大/最小幅が狭い範囲なので,男性ほど明確な傾向は出ていませんが,やはり似た傾向です.
この指標は,間接的な方法であること,また 腎機能が完全に正常である[★]ことを前提としているので, 筋肉量の推定法としては絶対ではありませんが,それでも自分の長期的傾向の把握には使えるでしょう.何より,単純に健康診断の結果さえあればいいので,簡便です.
[★] クレアチニンが基準値を越えたら,『筋肉が増えた 』 と喜ばないように. 腎機能が悪化したのかもしれません,
次回は 今回の学会参加のまとめを報告します.
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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