『米国人の食事は脂質過剰であり,それが心疾患増加の原因になっている』と訴えて マクガバン上院議員は特別調査委員会報告書(=マクガバン・レポート)を議会に提出しました.マクガバン議員は,これを米国人の食事基準として法案(Act)にまで持っていきたかったのですが,あまりにも反対者が多く その希望はかないませんでした.
しかし,マクガバン・レポートは葬られたのではなく,むしろその逆で その後広い範囲に影響を及ぼしました.
米国農務省の反応
まず,農務省がこのレポートに好意的な反応を寄せました.
マクガバン・レポートの末尾にそれが掲載されています.
National program managers fell that major breakthrough can occur and long term need met by building on research knowledge already known and by concentrating efforts in five major areas of work. Rationale for recommended long-range studies and recurring additional funding requirements are summarized below:
Human requirements for nutrients necessary for optimum growth well-being
$66.6million.我が国のプログラムマネージャーは,すでに知られている研究知識に基づいて,5つの主要な作業分野に力を注ぐことにより,大きな飛躍が起こり,長期的なニーズに対応できると確信しました. 推奨される長期の研究と定期的な追加の資金調達要件の根拠を以下に要約します.
最適な成長の幸福のために必要な栄養素に対する人間の要件
66.6百万ドル.マクガバン・レポート 第2版 付録D
(1977年12月)
ちゃっかりと,『議員のすばらしい提言を実行するには,これだけの予算が必要です』などと農務省予算の増額を要請していますが,食肉業界だけでなく,すべての農産物業界を後ろ盾とする農務省としては,全粒穀物や野菜,果物などの消費を増やすべきだとするマクガバン・レポートの提言は願ったりかなったりだったのでしょう.
マクガバン・レポートから3年後の1980年,米国農務省Agriculture (USDA) と保健福祉省 Health and Human Servicesとは共同で第1版の『米国人のための食事ガイドライン』(Nutrition and Your Health: Dietary Guidelines for Americans)を発行しました.それ以降5年ごとに改訂され 現在まで続いています.
米国 食事ガイドランの内容
このガイドラインは,マクガバン・レポートの内容に沿ったものでした.
ただし,マクガバン・レポートでは,米国人の食事おいて栄養素比率の目標をこのように数値まで指定していましたが;
- 炭水化物の総カロリーに占める割合を55〜60%とすること
- 総脂肪が占める割合を30%以下にすること
- 飽和脂肪は約10%,かつ多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸とを約10%とすること
- コレステロール摂取は1日あたり約300 mgまで
- 砂糖は,総エネルギーに対して約15%とすること.
- 塩の消費量は1日あたり約3グラムとすること.
農務省/保健福祉省が発行した,米国で最初の 食事ガイドラインでは.このような『数値目標』は一切登場しません. ただ「~~を摂りすぎないようにしましょう」という,緩やかな呼びかけだけです.しかも上の図のように,特定の食物だけを推奨又は排除するのではなく,”1. Eat a Variety of Foods”,多種多様な食品を摂って,”2. Maintain Ideal Weight”, 肥満にならないようにすることが重要としています.マクガバン・レポートであれほど強調されていた脂質については,この食事ガイドラインでは,ようやく3番目に登場して こう書かれています.
“Avoid Too Much”とありますが,どれくらいの量が ”Too Much”なのかは示されていません. さらに 小さくて見にくいですが,赤枠で囲ったところに注目してください.こう書いてあります.
このガイドラインではこういう穏やかな「推奨」だけにとどめたのです.それはこの文章にもあるように,依然として科学者の意見は大きく分かれていたので,断定的な表現を避けるしかなかったのでしょう.ただし心疾患リスクの高い人,すなわち高血圧患者・喫煙者に対しては,はっきりと脂質を控えることを薦めています.
そして,もう一つ マクガバン・レポートに大きな影響を受けた機関がありました.
米国糖尿病学会(American Diabetes Association = ADA)です.
[18]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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