食事療法の迷走[51] ガイドラインは改訂するものの

健康法

食品交換表による食事療法の根幹である,「炭水化物 50-60%」そして「糖尿病患者の食事カロリーは低くてもよい」は,間違いであったことが明らかになりました.

そしてもう一つ

食品交換表の現時点の最新版である第7版では,糖尿病患者の食事療法において,その『設定カロリー』は次の式で定めるとしています.

設定カロリー(kcal) = 標準体重(kg) × 身体活動量

ここで「標準体重」とは,患者の身長とBMI=22から逆算した体重です.BMIは

ですから,たとえば ここに40歳で2型糖尿病のAさん(職業はサラリーマン)がいて,その身長が170cmなら,

63.6kgが標準体重,つまり『そうあるべき体重』となります.

「身体活動量」とはこの標準体重に掛け算する係数で,食品交換表では

とあるので,誰がどう読んでも,事務系サラリーマンはすべて『軽い労作』であり,1日中 ハンバーガーショップでアルバイト勤務すれば『普通の労作』,そして道路工事や建築業は『重い労作』と解釈できるでしょう.実際 全国の病院でもほとんどそう解釈されてきました.

したがってAさんはサラリーマンなので;

  • 標準体重は 63.6kg
  • 身体活動量は 25~30

よって,Aさんに 病院で出される食事のカロリーは

ということになります.したがって,Aさんの『理想的な摂取カロリー』は 1600~1900kcalということになります.

実際 食品交換表第7版では,献立メニュー例が紹介されていますが(p.22~25),すべて 1600kcalの例だけです.
全国のほぼすべての病院で,よほど体格の小さい人でない限り,男性の糖尿病患者には 判で押したように,この『炭水化物60%,1,600kcal』の『糖尿病食』が今も出されており,それで何の問題もないとされてきました.【糖尿病患者の基礎代謝や消費カロリーは正常人より少ない】と信じられてきたからです.

ところが

前の記事の通り,糖尿病でも正常人でも, 同じような体格・同じような日常生活であれば,(当たり前ですが)消費カロリーは何も変わらなかったのです.
さらに『デスクワーク主体のサラリーマンなら活動度は 25~30』というのも間違っていることがわかりました.サラリーマン程度の動きでも活動量は 平均36.5±5 くらいでした.
つまり食品交換表のカロリー設定は二重に間違えていたのです.

前記のAさんの場合,真の消費カロリー,したがって毎日摂取しなければならない必要カロリーは2700kcalだったのです(日本人の食事摂取基準 2020年版).

病院で出される糖尿病食では 実に800~1100kcalも不足していたのです.しかも 食事の内容は60%が炭水化物です.

さらに

更に 食品交換表による食事療法にはまだ問題があること指摘されました.それは,

蛋白質の摂取量は食事全カロリーの20%以下

と定めている点です.年齢を一切考慮せずに『蛋白質は20%以下』なのです.

ところが年齢が高くなるほど,蛋白質の吸収効率は低下するので,つまり体重が等しい若者と高齢者とが,同じ量の蛋白質を摂取しても,高齢者は筋肉・組織合成に十分な蛋白質=アミノ酸を吸収できないので,筋肉が衰えていくという問題です.

近年,高齢者のサルコペニアが増加していますが,

その原因を作っているのは『食品交換表』だ

と指弾されても仕方がないでしょう.『食品交換表は理想の健康食』を標ぼうしてきましたし,高齢者ほど『食事と健康』にはひときわ関心が高いので 「理想の健康食」を人一倍忠実に実行しようとするからです.

ガイドラインの改訂

これだけのデータを突き付けられたので,昨年5月に仙台で行われた 第62回日本糖尿病学会において,『糖尿病診療ガイドライン2019』(=「ガイドライン2019」)を発行し,そこでは 特に食事療法の章(第3章)を従来から全面改訂すると発表しました.

2019年 仙台の学会記事をもう一度読み返してください.

【Featured Symposium 5】『ガイドラインからみた食事療法の課題と展望』というシンポジウムで,新「ガイドライン2019」の改訂概要を解説しています.見出しのみを再掲すると

  • [食事療法を糖尿病患者一律に規定するのはもはや不可能である]
  • [食事療法は個別化する]
  • [いわゆる標準体重は見直す]
  • [従来の設定カロリーは過少すぎた]

であり,つまり これは 従来の食品交換表のすべてを改訂するということです.

事前にアナウンスされたこの学会のプログラムをみる限り,「ガイドライン2019」改訂を正式に発表し,その改訂内容を説明することが最大のテーマとなる予定でした.多数のシンポジウムや講演,そして最終日午後に大ホールで行われた上記の FSは,すべてその目的のために計画されたものだったからです.

発表はドタキャン

ところが,これだけの準備にもかかわらず,この学会の場では,「ガイドライン2019」の正式発表は見送られました.学会の直前になって,なんらかの事情により ガイドライン2019が発表できなくなったようです.

にもかかわらず 『改訂予定内容』は上記講演の通り 淡々と説明されています.

『改訂内容はこうなのだが,改訂版はまだ発行しない』という,いかにも奇妙な学会でした.

結果的には 「ガイドライン2019」は 9月末になって突如発表されたのですが,

なぜ5月の時点で発表できなかったのでしょうか?この背景事情は今も不明です. また5月に発表する予定であった もともとの『糖尿病診療ガイドライン 2019』と,9月に発表された『糖尿病診療ガイドライン 2019』とは,同じものなのか,それともかなり変更があったのかも不明です.

[52]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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