感謝の気持ちを示してもらうだけで、医者として仕事をしていて良かったと思うわけです。
その中でも、患者さんに声をかけてもらえてうれしかった言葉を書き出してみたいと思います。
「先生のおかげで気が楽になりました」
これは患者さんのお話を聞いてあげた後によく言われる言葉でしょうか。
特に病気の診断を的確にしたとか、患者さんの症状を和らげた、というわけではなく、ただお話を聞いたということなのです。
患者さんの中には、医療者に話を聞いてもらうだけで、また大丈夫ですよ、と声をかけてもらうだけで安心する方もおられ、上記のような発言に繋がっているのだと思います。
こちら側としては特になにもしていないですから、どちらかと言うと少し申し訳なく思ってしまいますね。
「お世話になりました」
これは入院していて治療をしていた患者さんが、退院されるときによくおっしゃる言葉ですね。
医者としてはもちろん必要な薬を出したり、点滴をオーダーしたり、そして治療していたわけですが、実際の入院生活における細々した仕事は看護師さんがやってくれていることが多いかと思います。
患者さんも入院生活の間、医師よりも看護師と話す機会の方が圧倒的に多いでしょうから、医者側としてもなかなか大きな態度ではいられないものです。
私自身は入院患者さんのケアについては、看護師さんの方がかなり色々と大変な仕事をしてくれていると考えています。
時折、患者さんに退院時に菓子折りなどをもらうことがありますが、その場合にはもらったお菓子の大部分は看護師さんを含めた病棟に渡すようにしています
こうすることで看護師からの評判が上がり、さらに病棟で仕事をしやすくするという好循環が生まれるものと信じています。
「わかりやすい説明でした」
これは初診の患者さんなどに、検査結果とか治療の方針とか、今後の見通しについて話した場合にたまにかけられる言葉ですね。
普段使っている医療用語を頭の中でわかりやすい言葉に置き換えながら話すのは結構な訓練がいるもので、医療者では当然の言葉であっても、患者さんに対して安易に使ってしまう場合は多々あります。
医師である以上患者さんにはなるべくわかりやすく説明するようにしていますから、本当のところはどうであれ、わかりやすい説明でしたよ、と言っていただけると、ああよかった、と思うわけです。
わかりやすい説明=コミュニケーション能力に近いものがありますから、やはりうれしいものですね。
「先生に助けていただきました」
これは患者さんの治療がうまくいった場合に、聞かれる言葉です。
患者さんからすれば、最も感謝の強い言葉なのでしょうけれど、医者としては最大限に嬉しいというわけではありません。
交通事故で瀕死の状態から急死に一生を得た、という場合には文字通り助けたといって良いのでしょうけれど、このような例はごく一部でしょうか。
怪我や事故の治療は結果がある程度すぐ分かるものなのですが、病気の治療が果たしてうまくいったどうかは、すぐ分かるものではありません。
特にがん治療の場合には、治療が終わってから数ヶ月や数年かけて経過を見ていく必要があり、簡単に治ったかどうかは判断できないことがほとんどです。
がんがうまくコントロールされている場合には、医者と患者の関係も良好なわけでが、一度再発してしまうとなると、本質はどうであれ簡単にいうと「病気を治せなかった」と言われてしまうかもしれません。
ですから、どちらかというとある程度大きな視点で病気と向き合っている患者さんの方が、医師と患者関係という点では関係を構築しやすいかもしれませんね。
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Source: 医者夫婦が語る日々のこと、医療のこと
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