明日からの診療に役立つ血液学その7(多発性骨髄腫Vol.1)

内科医

明日からの診療に役立つ血液学その7(多発性骨髄腫Vol.1)

 残暑が厳しいこの頃です。私の夏休みは終り(勝手に休みました)、明日からの診療に役立つ血液学の続きを書こうと思います。これまで、主に血液検査データから、どのような疾患を考えられるかを中心に書いてきました。まだ、解説不十分のところはありますが、血液悪性疾患に入って行きたいと思います。この10年で最も治療が変わったホットな疾患が、多発性骨髄腫(multiple myeloma; MM)です。血液内科では、以前は何をしても治らない病気から、延命出来る、さらに完全寛解がえれるようになってきました。そこは専門医の仕事ですので、まかせておきましょう。

 一般内科医の診療では、日常見る可能性がある疾患であり、結構、見逃されてやすい疾患と思います。人口10万人あたり、年間5.4人と以外と多いです。5年生存率は3割です。予後不良の疾患に変わりありません。

白血病は、絶対に見逃す訳がありません。採血すれば誰でも異常に気がつきます。ところが、MMは、症状は明らかでなく静かに進行して行きます。初診で診断出来るのは、進行した症例です。多くは振り返って、種々の兆候があったことが知らされます。

症候性骨髄腫の診断

診断には、M蛋白から骨髄穿刺にて10%以上の形質細胞の増加と、C 高カルシウム血症 R 腎障害 A 貧血 B 骨病変を1つ有することで診断が出来ます。

(それに満たない場合は、くすぶり型(smoldering)もしくは、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)として、無治療経過観察が勧められています。)

症例1

58歳、男性

糖尿病で通院中。腰痛が出現して改善せずに、整形外科でリハビリを受けていた。

たまたま診察した別の医師が採血をすると、貧血と総蛋白が高値で、多発性骨髄腫が疑われて、血液内科に紹介になった。

検査結果

WBC 4600, Hb 10,2, plt 16

TP 9.2, alb 2.8, UA 7.8, BUN 38, Cr 1.0

IgG 5600, IgA 52, IgM 20 蛋白電気泳動によってM-proteinが認められた。

DMだとつい血糖しか注目せず、他の疾患を見逃してしまいがちです。振り返るとこの方は、腰痛が起きた半年前より徐々に総蛋白が増加していたのですが、担当医は気がついていませんでした。DM診療では、他疾患の早期発見に努めるのは一般内科医にとって大切なことです。腰痛が継続し、なかなかコントロール出来ないこともMMの骨病変と気がつくべきでした。

この方は、65歳以下の若年者であり、自家骨髄移植を行いましたが、再発しましたが、現在新規治療薬で継続中です。

症例2

65歳、男性

心房細動で外来管理されていた。一週間の食欲不振で来院。補液治療を受けた。生化学検査にて、腎機能障害と高カルシウム血症を指摘された。実は、二週間前にカルシウム上昇が見られ、腎機能が悪化して来ていたが、経過観察とされていた。

検査結果

WBC 21,000, Hb 11.6, plt 9.8万

TP 10.4, LDH 640, UA 11.6, BUN 42, Cr 4.6, Ca 16.0

IgG 6000, M-protein

著明な高カルシウム血症、腎障害、高度脱水に陥っていました。自尿はありましたので、輸液、高カルシウム血症に対しては、生食輸液とステロイド投与によって、徐々に改善しました。新規治療薬のボルテゾミブによって速やかに改善して、腎機能は正常化しました。

MMによる腎障害は、骨髄腫腎と呼ばれ、急性腎障害で発症します。light chainが円柱を形成して尿細管を閉塞することによって起こると言われます。いづれも速やかに治療によって改善します。ボルテゾミブは腎機能に影響されず使用可能であり、特に骨髄腫腎になった症例でも治療が容易になったと感じます。

この症例は、白血球数増加は、形質細胞白血病となっていました。完全寛解に入ったので、年齢的にはぎりぎりでしたが、自家移植を行おうとした矢先に再発して、腫瘍の勢いが強く腫瘍死してしまいました。




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Source: 真生会富山病院 血液内科医の「明日から役立つ血液学」

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