明日からの診療に役立つ血液学その6(鉄欠乏性貧血Vol.1)

内科医

明日からの診療に役立つ血液学その6(鉄欠乏性貧血Vol.1)

 貧血を見れば、多くは鉄欠乏性貧血です。あまりに鉄欠乏性貧血については、誰でも知っている、誰でも診断治療出来ますので、あえて述べる必要はないかも知れません。Hbの低下、MCVの低下、Fe低下, TIBC増加, Ferritinの低下で容易に診断出来ます。インターネットで検索すれば情報は溢れ返っています。しかし、いまだに臨床的疑問も残されています。

常識的記載は、他のサイトに譲るとして、臨床的疑問を考えて行きましょう。

※「これからの医療のあり方」福田光之医師の鉄欠乏性貧血のブログは大変参考になりました。ほとんどの考え方に同意致しました。

疑問1

鉄欠乏性貧血になる人で圧倒的に多い群は?

答え

10代の青少年と、閉経までの女性です。

この群でほぼ鉄欠乏性貧血の90%以上はカバーしていると思います。

青少年は、成長期で鉄を必要とするのと、活動が大き過ぎて消耗が早いことが上げられます。消費に供給が追いつかない状態です。

閉経までの女性も、月経によって常に血液を喪失しており、鉄が欠乏しやすい状態にあります。子宮筋腫などがあると月経の量が増加して貧血が進む原因になります。

成人男性で、貧血をみた場合、「これは病気である」と思わなければなりません。特に消化管の検査は必須となります。

疑問2

鉄欠乏はなぜ起きるのでしょうか。

答え

食事による摂取は10mg-20mg/日であり、そのうち吸収されるのが、10%の1mg程度です。何もしなくても鉄を毎日1mg程度喪失しており、女性は1.5mgとも言われます。激しい運動をすると汗などで鉄を喪失します。摂取が少なめであったり、吸収が悪かったり、喪失が大きければ、自然に鉄が不足してきます。

疑問3

どのような治療をすればよいのでしょうか。経口鉄剤が第一選択とは知っていますが、あまり貧血が強い場合は、静注が必要ではないでしょうか。また静注剤は計算式で計算して投与する必要があるのでしょうか。

答え

それはある程度正しいですが、多くの場合は経口剤で十分です。中高生の中には、Hb 3という数字で、検査技師が驚いて報告する場合がありますが、本人はけろっとしています。この場合は徐々に進行した貧血ですので、経口剤も十分対応出来ます。

早く改善させたいという場合は、フェジンの静注40mg+5%ブドウ糖20ml静注が確実です。一日1Aで2日毎にとする必要はありません。添付文書上は2Aまでになっていますが、医学的には3Aでも5Aでも問題ありません。フェジン40mg 2A+5%ブドウ糖20mlゆっくり静注で問題ないでしょう。それ以上なら5%ブドウ糖100mlに入れて点滴がよいです。(保険で査定されるかどうかは分かりません。多分大丈夫ではないでしょう。)

静注の計算式を用いて、何mg単位で計算する意味はないと思います。一般的鉄欠乏性貧血になっている場合は、2000mgほど欠乏していると考えられます。フェジンであれば50Aほど投与となります。大変ですので、出来るだけ経口がよいでしょう。

疑問4

よく経口剤が、消化器症状で内服出来ないことがあるのですが。

答え

通常、鉄剤は1錠から開始します。嘔気があらわれるので、眠前に内服がよいでしょう。2錠投与すると更に嘔気の危険が増えます。また例え最初に嘔気があっても、「2-3日で慣れますよ。」と説明しておきますと飲めるようになられます。

普通は、フェロミアの方が消化器症状は少ないのですが、中にはフェロミアがダメで、フェログラデュメットやフェルムなら可能という人もあります。それでもダメな人でも小児用のインクレミンなら大丈夫という人もあります。

ビタミンCの併用は副作用を増悪させますので、行っていません。便秘になる場合はマグミット、嘔気がひどければナウゼリンなど併用すればおおむね内服可能と思います。

疑問5

いつまで投与すればよいのでしょうか。一応正常化した後、一年後に健診でまた貧血を指摘されて来る人が多いです。

答え

貧血が改善して、フェリチン値が50ngほどに充足してくるまで、通常6ヶ月ほどかかります。その後については、いろいろな考え方があります。一度中止して経過をみる。そうすると概ね、翌年には同じことになります。一説によると貧血がなくとも潜在的鉄欠乏になると、倦怠感や何となく元気がない状態の人も多いということです。それなら現状維持ということで、2-3錠/週、投与ということがいいのではないかと勧めています。それでも翌年には、貧血になっている人もあれば、そうでもない場合もあります。

疑問6

鉄剤を投与しても反応しない場合は、どのようなことが考えられますか。

答え

まず、当たり前ですが、鉄欠乏性貧血でない場合です。小球性低色素性貧血の中に、鉄欠乏性貧血でない場合があります。鉄代謝を検査すれば、鉄欠乏のパターンでないので容易に診断がつきますが。サラセミアβがそうです。極端な小球性貧血(MCV60くらい)を示します。

吸収が極端に悪い場合もあります。胃切除をしていれば、当然ですが、なぜか理由は分かりませんが吸収が悪く、全く改善しないケースがあります。ヘリコバクターピロリ感染のために吸収が悪くなっている場合もあります。その場合は除菌によって改善します。

非常に稀なケースに、鉄剤不応性鉄欠乏性貧血というものがあります。これは滅多にありません。(私は診たことありません。)


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Source: 真生会富山病院 血液内科医の「明日から役立つ血液学」

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