Ahlqvist博士はスウェーデン/Scania県の全住民の糖尿病登録データを解析して,2型糖尿病というものは存在せず,実は 以下のように相互に異なる4つの病気(★)に分かれることを示しました.
- SIDD:重度インスリン分泌不全糖尿病
- SIRD:重度インスリン抵抗性糖尿病
- MOD:軽度肥満性糖尿病
- MARD:軽度加齢性糖尿病
(★)これ以外に従来の[1型糖尿病+SPIDD]に相当する SAID:重度自己免疫型糖尿病も提案されています.
これについては,糖尿病臨床医から『そんなに明確に分かれるものだろうか』という疑問が出されました.しかし多くの人がAhlqvist博士とはまったく別のデータを用いて同じように解析してみると,やはり博士と同じ結果が得られました. このことから,どうやら2型糖尿病とは,1つの病気ではないという認識が広がりつつあります. ただし,そこでこういう疑問が出されています.
2型糖尿病を 4つに分類することに意味があるのか.
ただ糖尿病の進行の度合いによって,あたかも別の病態があるかのようにみえているだけにすぎないのではないか.4つの糖尿病タイプのどれか1つに分類された患者が,時間がたてば 別のタイプに変わってしまうことはないのか?
つまり,血糖値が高いので,ある時点で糖尿病と診断された患者が,Ahlqvist博士の分類で『SIRD=重度インスリン抵抗性糖尿病』であったとしても,それはずっとそのままなのか,それとも 何年か経過を観察していたら別のタイプになってしまった,ということはないのか?という疑問です.
もしもそういうケースが多いようであれば,Ahlqvist博士の分類は意味をなしません.単に糖尿病の進行ステージの都度で,違う病気にみえていただけに過ぎない,ということになるからです.
そこで『分類の安定性』を調べたら
この論文では,まさにその疑問を検討しています.
ドイツの多施設共同研究=『ドイツ糖尿病研究:German Diabetes Study(GDS)』[注]において,この共同研究に登録された糖尿病患者の,登録時点と5年後,それぞれのデータに対してAhlqvist分類を行ったものです.
[注]GDSは登録ベースなので,地域の全住民のデータではありません.ただし,特定の条件に適合する患者だけを選別する臨床試験でもありません.
その結果がこれです.左側が GDSに最初に登録された時点,そして右側が5年後に同じ人達を再分類したもの(Sankey図)です.
図の通り,各グループに属する大半の人は,5年後でもやはりそのグループに属していました. つまりAhlqvist博士の糖尿病新分類は 『安定的である』ことが示されたのです.
ただし,少数ながら,たしかに 初期のグループから離脱して別のグループに『移籍した』人もいます.
しかし,これは当然起こり得ることです. Data-driven Cluster分析とは,『データ同志が自分に近いものを呼び集めてグループを作らせる』手法ですが,分類の最終段階では,どうしても どのグループに属するのかはっきりしないデータ(下図)が出てきます.
Ahlqvist博士は このようなデータを,『各色がまじりあっている』という意味で『Brown Data』と呼んでいますが,こういうデータはわずかでも数値指標が動けば,所属グループが青や緑になったりするからです.Zaharia博士の分析で,5年間にグループを『移籍』した人は,どのグループの特徴も典型的には示さなかった例であると述べています.
以上の結果からZaharia博士は,
Ahlqvist分類は『安定しており,普遍性がある』
と結論しています.そして『この分類に基づいて,各グループに最適の治療を行うべきだ』と述べています.
Zaharia博士の 論文の意義は,しかし これだけではありません. もっと重大なことがわかりました.Zaharia博士は,Ahlqvist分類による各グループの糖尿病患者がどのような合併症を起こしやすいのか調べたのです.
[13]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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