臨床をやっていると必ず向き合わないといけないのが誤診。
そのまま何となくうまくいくこともあるし、トラブルになることもある。
しかし誤診について語ることはタブー視されている面もある気がする。
今回は誤診について考えてみた。
誤診率はどれくらいなのか
医者の誤診率はどれくらいなのかは気になるところ。
論文を探してみると、誤診率を調べたいくつかの報告がある。
皮膚科の誤診率
皮膚科医の誤診率は6.8%であるという。
皮膚科初診患者500名のうち、再診時に診断が変更になった患者は34名だった(誤診率6.8%)。
日本臨床皮膚科医会雑誌 25(1) 6-8, 2008.
自分の誤診率を調べるのはかなり勇気がいる試みである。誤診率6.8%はかなり優秀な成績なんじゃないかと思う。
一般皮膚科医は10%前後になるのかもしれない。
総合内科の誤診率
総合内科外来での誤診率は24%だったそうだ。(しかしup to dateを使って診療を行った医師の誤診率は2%まで下がったという)
Int J Med Inform. 2018 Jan;109:1-4.
>>日本人医師チームの研究がUpToDateの使用による誤診の大幅な減少を顕在化
総合内科は数多くの疾患を扱うので初診時に診断を確定するのは難しいのだろう。誤診率は高めである。
剖検症例の誤診率
東大の内科名誉教授、沖中重雄先生が自分の誤診率を発表されたというのは有名な話だ。
沖中教授の誤診率は14.2%だったらしい。
「私の教授在任中の誤診率は14.2%である」と発表したことが社会全般にも一般の医師の方々にも大きな波紋となって広がった。
臨床診断と剖検結果を比較して出した数字らしいので信憑性のあるデータである。
ただこれは亡くなってしまった患者のデータなので日常的には違ってくるのかもしれない。
これらのデータを見ると、日常での誤診率は10~20%程度と考えたらよいかもしれない。
誤診をしないための最善の方法
それでは誤診についてどう考えたらよいのか。
放射線科の教科書に「誤診をしない最善の方法」が書いてあった。
誤診をしない最善の方法は診断を下さないことである。あなたがもし誤診をしたとしても、それは単にあなたがたくさんの読影をしたことを意味するだけかもしれない。
ノープレーノーエラーということである。
野球では守備が上手くて守備範囲が広い選手の方が、エラーが多くなる場合がある。
広い守備範囲を持ち、多くの打球に対して積極的に捕球を試みる選手はたとえ守備の技術に優れていたとしても失策が増える可能性がある。
逆に守備の技術が劣っていても、きわどい打球の捕球を積極的に試みない守備範囲の狭い選手は失策数が伸びない可能性もあり、失策数の多少のみを基準にして守備の巧さを測ることはできない。
臨床も同様で、誤診がないという状態の方が危険ということらしい。
まじめに臨床を行って報告書を書けば書くほど「診断間違い」の事実を突きつけられる。
それに比べるとカンファレンスで専門家よろしくちょこっと発言、という方がはるかに気楽である。
放射線科診断医にとっては、誤診がないという状態が最も危険であると考える。
誤診がないということは臨床をしていないということ。
確かに「カンファレンスで専門家よろしくちょこっと発言」っていう先生はいる。自分もそうならないように注意しないといけない。
診断をする限り誤診はなくならない。それならば誤診をしたときにどうするかの方が重要な課題である。
誤診したときにどうするか?
medtoolz先生(>>臨床で必要なことはすべてmedtoolz先生から学んだ)が以前、誤診について書かれている。
柔道では最初に習うのが受け身の取り方。スキーでは転び方。
しかし医療では正しい転び方は習わない。
高校の体育の授業では、柔道とラグビー、スキーについては、それぞれ受け身のやりかたや、タックルをもらったときの転びかた、スキーを履いた状態での転びかたを、まず真っ先に習った記憶がある。
医療では「間違いはあってはならない」というのが大前提なので、大切なことを学ぶ機会を逸している気がする。
誤診したときに、どうリカバーするかも医師の大切な能力である。
もしも身体所見をとったときに特定の所見を見落としていたら、その患者さんの症状はどうなっていたのか。
見逃して患者さんの具合が悪くなったとして、どういうことを行えば、そこから再び、患者さんを治癒の流れに乗せられるのか。
真の専門家になるためには、教科書には書いていない「正しい転び方」を、意識して身につけていく必要があるんだと思う。
専門家というのは、その分野を深く勉強した人でなくて、その分野でたくさんの間違えを経験して、それを乗り越えてきた人にこそ、与えられる言葉なのだと思う。
正しいやりかたしか知らない「偽のプロ」は、状況が悪くなったときにどう対処していいのかわからない。
しかし多くの間違いを経験したいと思っても、命に関わる場合もあるため、なかなかそういうわけにもいかないのが難しいところである。
Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア
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