最新の糖尿病薬:イメグリミン[2]

健康法

イメグリミンとは

2年前のこの記事でもご紹介しましたように;

イメグリミンとは ビグアナイド薬=メトホルミンの流れをくむ,強い還元性の糖尿病薬です.

メトホルミン
イメグリミン

基本作用

最初に注目を浴びたのは,この動物実験の結果です.2010年の欧州糖尿病学会で発表され,翌年にこの文献で詳細に報告されました.

この報文では以下のように 淡々と事実だけを報告しています.すべて動物実験(ラット)の結果です.

血糖値

薬物(=ストレプトゾトシン Streptozotocin:STZ)によって,膵臓β細胞を一部破壊して人為的に糖尿病を発症させた STZラットに,35日間にわたって イメグリミンを 25~100mg/kg/日投与した結果です.
無投与のSTZラットでは 空腹時血糖値が 200→240mg/dlと悪化しましたが,イメグリミン投与された STZラットは,イメグリミンの投与量に依存して空腹時血糖値が低下しました.

またHbA1cも,無投与の10%に対して,やはりイメグリミンの投与量に依存して 8~6%程度にまで低下しています.

これらの効果は,50mg/kg/日のメトホルミン投与とほぼ同じでした.

糖負荷試験

この実験は,遺伝的に糖尿病を自然発症するGKラットを用いています. GKラットは日本で開発されたので 交配開発者の名前(後藤 Goto – 柿崎 Kakizaki )が付いており,世界中で使われています.
GKラットに 8週間にわたりイメグリミンを 25~100mg/kg/日投与した後,糖負荷試験(OGTT)を行っています.ブドウ糖の量は 2g/kg体重ですから,人間の糖負荷試験の2倍くらいになります[★].
やはりイメグリミンの投与量に依存して 耐糖能が改善していることがわかります.

[★] このように 動物実験での糖負荷試験は,その体重に応じて ブドウ糖負荷量を設定します.それなのに 人間の糖負荷試験は 体重が40kgでも 80kgも 120kgでも同じブドウ糖量(=75g)というのは変ですね.

インスリン分泌指数

糖負荷試験の結果から,インスリン分泌指数を算出しています.
イメグリミンの投与量に応じて インスリン分泌指数が上昇していることがわかります.

糖産生

遺伝的に肥満型糖尿病を発症するZDFラットを48時間絶食させて,肝臓のグリコーゲンを枯渇させた実験です. 当然 肝臓はグリコーゲンを増加(=糖産生)させようとします(上図の『無投与』).そこにイメグリミンを投与したところ,その投与量に依存して肝臓の糖産生が抑制されました.

筋肉の糖取り込み

ヒラメ筋,腓腹筋は 人間と同じで 「ふくらはぎ」 の筋肉です.

STZ糖尿病ラットでは,正常ラット(上図の『黒』)に比べて,筋肉の糖取り込み量が低下しています(上図の『灰色』)が,イメグリミンの 25~100mg/kg 投与により,その投与量が多くなるにつれて 糖取り込み量が増えたというデータです.どの投与量でも ほぼ正常ラットと遜色のない取り込み量になっていることがわかります.

高血糖状態でのインスリン分泌促進

STZ糖尿病ラットにクランプ試験を行った結果です.静脈からブドウ糖を点滴して人為的に高血糖状態にすると,人体はインスリン分泌を増加させてなんとか血糖値を下げようとします. イメグリミンを投与したラットでは,そのインスリン分泌量は 無投与のラットに比べて60%以上多いものでした. これは他の糖尿病薬(レパグリニドやシタグリプチン)の投与効果を上回っています.

ただし動物実験です

以上の結果は すべてラットを用いた動物実験です. したがって この効果がそのまま人間で見られるとは限りません.

たとえば上記の投与量を見ればおわかりの通り,100mg/kgというのは 体重60kgの人間であれば,6,000mgというとんでもない大量投与ですから,こんなことは不可能です.

また 未承認薬を投与してクランプ試験を行うなどということは,人間には行えるものではありません. こういうことも行えるのは,動物実験ならではの強みです.

したがって動物実験というものは その化合物にどのような効果が期待されるのかをみる定性実験にすぎないのです.可能性を判定するのが動物実験です.

効果がてんこ盛り

しかしながら動物実験とはいえ,これだけの効果の詰め合わせは驚くべきことです.

  • 血糖値・HbA1cが低下
  • 耐糖能が改善
  • インスリン分泌能が増大
  • 肝臓での糖産生を抑制
  • 筋肉の糖取り込み量増加
  • 高血糖下でインスリン分泌増加

およそ糖尿病治療薬に求められる効果を.1つの化合物で全部 取り揃えているのです.

現在使われている糖尿病薬には,インスリン抵抗性を改善するものもあるし,インスリン分泌を促進するものもあります.しかし両者の特性を同時に兼ね備えたものはありません. したがって,インスリン抵抗性改善性のためならメトホルミンを,そしてインスリン分泌改善のためならDPP-4阻害剤を組み合わせて(あるいはそれらの配合錠[ex.エクメット]を)同時に併用するしかありません.

ところが,イメグリミンは,一つでその両方の作用をやってのけたのです. さらに付け加えて 肝臓での過剰な糖産生も抑制するという,まるで三拍子そろった どこかの牛丼のようなものが登場したのです.

(C) 吉野家

この報告が世界の注目を浴びたのは当然でした.

メトホルミンとよく似た構造だが,しかしメトホルミンの効能を一段と強化したような,いわば スーパーメトホルミンのようなイメグリミンは,いったいどんな動作をしているのでしょうか.

[3]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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