おはようございます。
本日は、最近読んだ本の中で圧倒的に面白かった『猫が30歳まで生きる日』という本の書評です。
『猫が30歳まで生きる日』というタイトルだけ見ても、どのような内容の本か全く意味が分かりませんが、
Apoptosis Inhibitor of Macrophage (AIM) という「体内のゴミ掃除」に関わるタンパク質の発見から、ネコの腎臓病とAIMとの深い関連、ネコの腎臓病を治す創薬に至るまでのドラマが詰まった一冊です。
タイトルだけみると猫の飼い主でなければ関係がなさそうに聞こえますが、AIMはヒトの難治性疾患の治療にも今後深く関わりうるタンパク質です。
普段医学研究のフィールドに触れる機会がない方にこそぜひ読んでほしい一冊です!
【猫が30歳まで生きる日】猫の腎臓病を治す可能性を秘めたAIMを巡る物語
本日の記事の要点は以下の通りです。
1. 体の中のゴミ掃除に深く関わるタンパク質「AIM」
2. ネコ科の動物の死因の大半がAIM機能不全による腎臓病
3. ヒトの腎臓病やアルツハイマー型認知症への応用も
以下1つ1つ掘り下げてみていきます。
1. 体の中のゴミ掃除に深く関わるタンパク質「AIM」
「AIM」とは「Apoptosis inhibitor of Macrophage」の略で、マクロファージの細胞死を抑制するタンパク質ということになります。
マクロファージというのは体内に存在する「貪食細胞」の一種で、「不要な物を食べて体内のゴミを掃除する役割」を持つ細胞です。
代表的な例としては、細菌など外的から身を守るための免疫システムの一部としてマクロファージが活躍しています。
著者が研究対象としている「慢性腎臓病」では、長年の経過で尿細管にデブリ(ゴミ)が溜まることで尿細管の周辺に慢性炎症が発生します。
この炎症が持続するとネフロン(腎臓の最小単位のこと)がどんどん死んでいき、一度死んだネフロンは再生しないため腎不全が年々進行していきます。
AIMはデブリ(ゴミ)を認識して自らが目印になることで、マクロファージなどの貪食細胞によるゴミ掃除を促し、腎機能を改善させる可能性があることが分かってきました。
本書では、「AIM」発見に至るまでの研究エピソードや、AIMの投与によって末期腎不全の症状が劇的に改善した猫の症例が紹介されており、そのあまりの効果に驚きを隠せません。
2. ネコ科の動物の死因の大半がAIM機能不全による腎臓病
本書を読むまで私も全く知らなかったのですが、ネコだけでなく、ライオンやトラ、ヒョウやチーターなど、ネコ科の動物の大半でAIMの機能不全が起きています。
それが原因で腎臓の「ゴミ掃除」がうまくいかなくなるため、ネコ科の動物の死因は圧倒的に「腎臓病」が多いのです。
要するに、我々ヒトにとっての腎臓病は遺伝だけでなく様々なライフスタイルの結果と言えますが、ネコ科の動物にとっては「腎臓病は遺伝病に近い」と言えます。
著者らは、末期腎不全の猫にAIMを投与することにより、一時的ではあるにせよ猫の全身状態が劇的に回復するケースをいくつも経験してきました。
末期腎不全に至った腎臓自体が回復することは考えにくく、腎不全によって血液中に貯まった老廃物(尿毒素)がAIMの注射によって掃除された可能性が示唆されました。
これらの結果をもとに、著者らはネコの腎臓病を治す創薬(AIM薬)に結びつける活動を続けています。
残念ながら、2020年のCOVID-19の大流行によって様々な問題が発生しているようですが、大変面白い試みであり個人的にも応援したいです。
3. ヒトの腎臓病やアルツハイマー型認知症への応用も
さて、AIMが体内の「ゴミ掃除」に寄与するのであれば、腎臓病以外にも、老化とともにゴミが溜まることによって発症する様々な病気に応用できる可能性があります。
私自身が神経内科医だからという理由もありますが、超高齢化社会で急激に増え続けている「アルツハイマー型認知症」への応用が可能か注目しています。
アルツハイマー型認知症では、認知症状が出現する20年〜30年前から神経細胞内にアミロイドβという異常タンパク質が蓄積することが知られています。
加齢とともにアミロイドβの蓄積が進むと、神経細胞の機能低下を引き起こし、最終的には神経細胞死に至ります。
AIMの「ゴミ掃除」機能を応用して、神経細胞内のアミロイドβを除去することができればアルツハイマー型認知症の予防や治療につながる可能性があります。
著者もアルツハイマー型認知症へのAIMの応用を検討されているようですので、今後神経内科分野でのご活躍も期待しています。
まとめ
『猫が30歳まで生きる日』はめちゃくちゃ面白いので、騙されたと思って読んでみてください!
【おすすめのサイエンスノンフィクション2選】
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最近読んだサイエンスノンフィクションの中では、下山先生の『アルツハイマー征服』が圧倒的な面白さでした。
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2. がん 4000年の歴史(シッダールタ・ムカジー著)
シッダールタ・ムカジー氏のピュリッツァー賞受賞作。
古代〜現代に至るまでの人類とがんとの戦いが鮮明に描かれています。
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Source: 神経内科医ちゅり男のブログ
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