ひと夜の夢。

その他

「がん」――

やはりそれは、衝撃的な言葉だ

一晩中、涙に暮れ、
ほとんど眠れぬまま朝を迎えた

どれほど、
『夢であってくれたら...』と、
願ったことか...

朝6時

腫れた目のま居間へ下りてゆくと、
居間には灯りがついている

11月の末のこの時間はまだ暗い

母がすでに起きていた

私は腫れあがった顔を見られないよう、
居間を抜けて洗面台へ向かう

「大丈夫かい?」

母の優しい声

『こんな言葉、
 これまで一度もかけられたことなんて
 なかったな...』

「...うん」

振り絞るようにやっと返事をするが、
大丈夫なわけがない

「どうしたの? こんなに早く...」

と、母

「病院、一緒に行く」

母が数日前に受けた、甲状腺がんの告知

この日は紹介状を持って、
私がこれから検査・手術をする病院と同じ病院に
行くことになっていた

「いいよ。
 あんただって、自分のことで大変でしょ」

私は前日、ひとりで病院に行って心細かった

だからきっと、母も心細いはず

だから一緒にいてあげたかった

それに、
ひとりで家にいる気にはなれなかった

不安と悲しみと恐怖に潰されそうだったから

病院の待合室で、母と少し話をした

「私の命はどうでもいいけど、
 あんたが...」

母がそんな言葉を漏らした

驚いた

母は私のことで、
一晩中、泣き明かしてくれていたらしい

やはり“親”とは、そういうものなのか――

昨夜、湯船に浸かりながら、
当時のことを遡っていた

15年も経てば、薄れゆく記憶

が、あのときの感情は、
忘れられるものではない

忘れたい思い

忘れたくない思い

そしてそこには、
決して忘れてはいけない思いがある

それは、伝えてゆくために

同じ病と闘っているひひとたちに、
寄り添ってゆくために――

  今日の午後

  彩雲が観られた

2021/11/29 彩雲 ①

  「なに、この空!!」と、
  思わず口にしてしまうほど美しい

2021/11/29 彩雲 ②

  こんな空を観るのは初めてだ

2021/11/29 彩雲 ③

  今日は朝から
  たくさんの空からの贈り物

  “感動”って、素晴らしい

  “生きてる”って素敵なこと――

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Source: りかこの乳がん体験記

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