コロナ渦2年にして思う

内科医

 もう2年近くになろうとしているコロナ禍,第5波の収束後の我が国の感染状況は不気味なほど落ち着いていて,経済も活気を取り戻しつつありますが,つい最近南アフリカに端を発したオミクロン株の出現が,世界中に新たな不安をもたらしています.

 しかし,私たちにできることはやはり基本的な感染対策や医療体制の拡充はもちろん,3回目のブースター接種を含めたワクチン接種のさらなる促進,抗体カクテルやようやく世に出たモヌルプラビルのような抗ウイルス薬などの新たな武器を手に,あともう一踏ん張り頑張ることに尽きると思います.

 ところで先日から某民放でドラマ「日本沈没」が放送されており,毎週見ています.いうまでもなく日本の作家,小松左京が1973年に発表したSF小説が原作で,過去にも何度か映画やドラマ化されました.

 日本列島が大地震により海の藻屑と消えてしまう描写は本当にリアルですが,今回は,沈没の場面そのものより,むしろ,国土を失い難民となってしまう運命を背負わされた日本人が世界の中でどうやって生き残っていくのか,そこに至るまでの政府関係者や科学者,市井の人々の様々な葛藤をテーマにしています.
 毎年のように地震や災害が頻発し,さらに近い将来南海トラフ大地震が間違いなく起こるとされる昨今,このドラマが放送されたのは非常に意義深いことだと感じます.

 さて,このコロナ禍は,今まで当たり前だった,そして無条件に永遠に続くと思っていた日常が,実はそうではなく,かくも簡単に崩れ去ってしまうのだということを,私たちに嫌と言うほど知らしめることとなりました.

 2年前の今頃,いったい誰がその後に起こるこの悲惨な出来事を想像出来たでしょうか?

 たとえ病気になっても救急車さえ呼べば病院に入院できることを当然のこととしていた私たちには,感染者の激増で医療崩壊が起こり,重症になっても入院はおろかまともな治療さえ受けられず,命を落とす人が続出する事態など,衝撃以外の何物でもありませんでした.

 これは何もコロナのような感染症に限ったことではありません.

 私たち戦後世代は,日本人が飢餓で餓死したり,国土を失って流浪の民となることなど,つい遠い異国のことと考えがちで,まさか自分たちがそうなることなどあり得ないと心のどこかで思っています.
 しかし,世界を見渡せば,国民の大半が飢餓状態で生死の縁にいるような国はいくらでもありますし,ミャンマー,アフガニスタン,シリアなどの例を挙げるまでもなく国土を追われて難民となり過酷な運命を背負わされる人々は数えきれないほどいます.
 最近の国際情勢も不安定で,米中対立がエスカレートして戦争にでもなれば対岸の火事では済まされず,日本人にも多くの犠牲者が出るかもしれない.
 そして,なんと言っても地震や自然災害.地震大国としての宿命は変えようがないとはいえ,流石に日本沈没にまでは至らないにせよ,南海トラフ大地震が起こって壊滅的な打撃を受けた後の日本を想像すると,絶望的な気持ちにさえなります.

 つまり,我が国とて,この先今のような平和と繁栄が続く保障など全くないわけです.

 バブル崩壊後の30年の間に社会のあらゆる部分に軋みが出てきている今の日本,いまだ世界第三位の経済大国とはいえ,その実態はもう満身創痍の状態ですし,国民の多くは日々の生活におわれ,未来を見据えたグローバルな視点など持てない人も多いでしょう.
 けれども,格差や貧困の拡大など多くの問題を抱えながらも,少なくとも平和国家として世界に信頼されている日本という国が存在し,民主的な政治が機能し,法と秩序に守られ,他国に蹂躙されることもなく,戦後75年以上も平和で文化的な生活を送れている私たち日本人は幸せだと思います.
 私たちには,どんなに疲れていても,どんなに辛い目にあっても,帰って来れる母国があるからです.

 海外から帰ってくる時に日本の空港に降り立つと,なぜかいつもホッとします.それは,飛行機が無事着陸できたという単純なものだけではなく,やはり自分の母国に帰れたという,なんとも言えない安堵感です.

 そしてそれは決して未来永劫続くのが当然というわけではなく,わたしたち自身が誇りを持って守り抜いていかねばならないのだと,最近とみに強く感じます.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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