最期の喧嘩

喧嘩するほど仲が良い。

退院された日、彼は心の内を話された。

今は病院では誰にも逢えず、

妻にちょっとした用事すら、

伝えることができなかった。

それがどうだろう。今は、それができる。

こうして、ちょっとした口喧嘩もできる。

それが嬉しくて、嬉しくて。

涙が出てしまうくらい嬉しくて。

さっきまで限度額認定証のことで

口喧嘩したばっかりの奥さんは

そう話す夫の顔を、優しい涙目で見ていた。

そんな彼は、診察毎に

娘さんの結婚式の話で盛り上がる。

旅立たれる前日も大切な娘と自慢の息子の

スマホの中の写真を一生懸命に僕に見せてくれた。

その写真を見せながらまた涙を流された。

傍にいる奥さんも、また泣いて、そして、笑ってだった。

そんな彼が今朝旅立たれた。

奥さんの第一声が、

先生、ワタシ昨夜、

主人と大喧嘩しちゃったの、、、

それがすごく後悔で、、、

すごく穏やかに眠る彼は、

その喧嘩の後、奥さんが用意したハンバーグを

食べるのもままならない呼吸状態だったにもかかわらず、

一口召し上がられたそうだ。

「ごめんね、全部食べられなくて。」と、

昨夜、喧嘩の後、寝る前におしゃられたとのこと。

パパ、きっと私に気を使ったのかしら、、、

愛する夫の安らかに眠る顔を

奥さんは見つめながら、また涙でした。

「ごめんね、全部食べられなくて。」

きっと、仲直りの言葉だったんだ。と僕も思いました。

ザイタクは今日も素敵でした。ありがとうございます。

今日は、何となくこんな曲です。

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Source: 兵庫県三田市の在宅療養支援診療所「たなかホームケアクリニック」