【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
糖尿病と診断された人には.二つの経路があります.
一つは 本人又は 周囲が何らかの異常・症状を感じて 病院に行ったら 既に高血糖状態であり,その場で糖尿病と診断された場合.
もう一つは 自覚・他覚症状はまったくないのだが,職場の健康診断などで,空腹時血糖値やHbA1cが高いことを指摘されて,病院を訪れた場合です. 後者の場合は,特に症状がないのですから,糖負荷試験を受けても まだ糖尿病とまでは確定診断できず『境界型糖尿病ですから注意してください』となることも多いです.
そこで,一度 『境界型』と判定された人が,その後 糖尿病予備軍から 本格的に糖尿病正規軍に『昇格』するのは,どれくらいの割合で,どれくらいの期間でそうなるのかを調べた報告がありました.
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当院を受診した境界型患者の診断後5年間の実態調査;進展状況別臨床像比較
茨城県つくば市 つくば糖尿病センター 川井クリニックからの報告です.健康診断での指摘などで 同クリニックを受診し,『境界型糖尿病』と診断され,追跡可能であった228名の5年後の状態を解析したものです.
この228人のデータは,最初の時点で HbA1c=6.0%,空腹時血糖値=104.9(いずれも平均値),平均年齢は 55.6歳で,内 65歳以上の人が50名でした.なお,228人の内,98人が糖負荷試験を受けています.
そして5年後の状態は
- 糖尿病に進展(HbA1c≧6.5%が2回以上): 44名
- 境界型のまま(HbA1c= 5.6~6.4%を維持): 158名
- 正常型に改善(HbA1c≦5.5%):13名
5年前に境界型だった人の2割が糖尿病になっていたわけです.
では,境界型ではあるものの それを5年間維持できた人と,維持できずに糖尿病に進展してしまった人との差は何だったのでしょうか?
発表者はそれをこう分析しています.
境界型を維持できた人は:
・健康診断で指摘された人が多かった
・最初の時点でのHbA1c・空腹時血糖値が低く,食後の血清CPRは低値だが,インスリン分泌指数が0.4を下回る人は少なかった
・その後の体重増加がなく,むしろ 平均0.9kgほど体重が減っていた
・スタチン服用者は少なかった
という妥当な結論です.要するに まだ膵臓が 相対的に健全であったということなのでしょう. またスタチンの服用者が少なかったということは,医師からスタチンの服用を勧められるような高脂血症はなかったということだろうと思います.
つまりは,『境界型でも軽度の時点で発見できれば,その状態を維持することは可能だった』というわけです.
なお,この つくば糖尿病センター 川井クリニックでは,境界型糖尿病と判定された人には,同クリニック独自の『糖尿病 個別教育プログラム』を行っており,
この教育も境界型でくい止めるのに寄与したものと思います.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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