おはようございます。
『スマホ脳』で一躍有名になったアンデシュ・ハンセン氏の最新本『ストレス脳』を読みましたので、本日はその書評です。
現代社会はこれまでの人類史上もっとも安全で豊かであることは間違いなく、昔の人からすれば「誰もが羨むような理想的な生活」を手に入れたかのように見えます。
ところが、実際にはメンタルの不調から精神科を受診する人の数は増加しており、必ずしも物質的な豊かさが精神的な豊かさには直結していないようです。
本書はこの問題点を脳科学の観点から明らかにし、現代人はストレスとどう向き合って対処すべきかを明らかにしてくれます。
【書評・ストレス脳】運動習慣と孤独を避けることで健康なメンタルを保つ
『ストレス脳』の要点は以下の通りです。
1. 不安や恐怖は人間本来の「防御機構」であり、生存のために必要なもの
2. 幸福感や満足感はすぐに消失するものであり、幸福を追い求めすぎるのをやめる
3. 長時間の座位、ストレス、睡眠不足、加工食品、肥満、喫煙は「慢性炎症」のもと
4. 運動習慣と孤独を避けることが健康なメンタルを保つ秘訣
以下詳細を見ていきます。
1. 不安や恐怖は人間本来の「防御機構」であり、生存のために必要なもの
まず初めに重要なことは、昔から不安や恐怖といった感情は人間の「防御メカニズム」であり、生存のために必須であったということです。
今でこそ朝から晩まで一日中だらだらと寝て過ごしていても危険に曝されることはありませんが、数千年前までは少し油断すれば死と向かいあわせというのが常識でした。
「数千年前も昔の話を持ち出してきてどうするんだ?」と思われるかもしれませんが、人類(猿人)が誕生したのが約500万年前ですから、人類史の99%以上は常に死と隣り合わせな状況だったわけです。
そのような世の中において、「不安」「恐怖」といった感情が正常に機能しなければ、身の回りの危険を回避することができず死に直結することになります。
先進諸国において多くの方が衣食住の心配から解放されたのはほんの数十年程度のことですから、人間が本来持つ脳や感情の仕組みが急激に変わるはずがありません。
よって、不安や恐怖を感じるということは脳が正常に機能していることの裏返しでもあります。
2. 幸福感や満足感はすぐに消失するものであり、幸福を追い求めすぎるのをやめる
一方、「幸福感」や「満足感」といったポジティブな感情に関しては、多くが一過性のものですぐに消失することが知られています。
農耕社会が到来するより以前の狩猟採集生活においては、毎日どの程度の食料が確保できるは一定しませんでした。
仮にある一日の狩りが非常にうまくいき大量の食物が確保できたとしても、食物を長期間保存する技術がありませんので、その場でごちそうをたらふく味わって満足するしかありません。
その時は非常な「幸福感」「満足感」を感じるでしょうが、数日たってもずっと幸福感や満足感がピークのままだったらどうなるでしょうか?
次の獲物を探しに行く意欲がなくなり、周辺環境の変化に対する感受性が低下するため死に直結したことでしょう。
よって、「幸福感」「満足感」といった感情が長続きしすぎることも死に結びつくことになり、生存し続けて遺伝子を残すという目的にはそぐわないことになります。
3. 長時間の座位、ストレス、睡眠不足、加工食品、肥満、喫煙は「慢性炎症」のもと
以上のことから、
・不安や恐怖といったネガティブな感情がいつまでたってもなくならないのは当たり前
・どんなに良いことがあっても幸福感や満足感が長続きしないのは当たり前
といった事実をまずは自分がしっかり受け入れることが重要と言えます。
不安や恐怖といったストレス反応は生存のために必要とはいえ、昔のように命に直結する危険性がなくなってきている現代社会において、これらの防御機構が過剰に反応しすぎると「うつ」などの精神疾患につながってしまいます。
これまでのうつ病の研究結果から、患者さんの脳の中では各種サイトカインによる「慢性炎症」が発生していることが明らかになっており、この「脳の炎症」を増やさないための工夫が必要です。
これまでの研究成果から、
1) 長時間の座位
2) 長期間持続するストレス
3) 睡眠不足
4) 加工食品の過剰摂取
5) 肥満
6) 喫煙
などが慢性炎症を増悪させる因子として知られています。
昔は炎症と言えば「感染症」が中心でしたが、現代では医療技術や公衆衛生の発達により感染症の脅威が低くなった分、ライフスタイルの乱れによる慢性炎症が主体になっています。
4. 運動習慣と孤独を避けることが健康なメンタルを保つ秘訣
うつなどの精神疾患を予防するために重要な生活習慣として、『ストレス脳』では以下の2点が挙げられています。
1) 運動習慣
2) 孤独を避ける
運動習慣に関しては、もし可能であれば「心拍数の上昇を伴う運動」を取り入れた方が抗うつ効果は高まります。
しかし、息が上がらない程度のゆっくりとしたペースの散歩でも十分に効果があることが知られていますので、まずは「とにかく歩く」ことが重要です。
昔と比べてデジタル化が高度に進んだ現代社会においては、自ら足を動かさなくても済ませられる用事がどんどん増えています。
テクノロジーの進化により利便性が増したのは喜ばしいことですが、それがかえって運動不足をまねき人間のメンタルを悪化させている可能性があるのは皮肉な結果です。
次に、「孤独」が人間のメンタルに大きな悪影響を与えることがわかっています。
これも昔の人間社会を考えてみれば当然のことで、昔は人間は他者とつながっていなければ生き抜くことができなかったのです。
ただし、この孤独というのは非常に主体的なもので個人差が大きく、ほんの少しの時間でも他人とつながっていないと孤独を感じる人もいれば、一人でいることが好きで全く孤独を感じない方もいます。
問題になるのは、自分が本来求めている人間関係と現実の人間関係の乖離が大きいケースで、理想と現実のミスマッチが大きなストレスを生んでしまいます。
また、SNSを通じた不特定多数の見知らぬ人との付き合いよりも、少数でよいので対面で会うことのできる親しい知人がいた方がストレス耐性は増すようです。
まとめ
アンデシュ・ハンセン氏の最新刊『ストレス脳』の書評でした。
「慢性炎症」の原因となりうる生活習慣を避け、逆にうつなどの精神疾患に対抗すべく運動と孤独を避けることを心がけましょう。
【アンデシュ・ハンセン氏のおすすめ本2選】
1. スマホ脳
初めの1冊におすすめなのが『スマホ脳』です。
スマホ中毒は薬物中毒と同じで脳を破壊しうる恐ろしい病気だと認識させられます。
2. 最強脳
運動が脳に与える好影響について解説された好著。
スマホの使用時間を削り、浮いた時間を運動と睡眠にあてればかなり健康状態が改善すると思います。
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『スマホ脳』の書評です。
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Source: 神経内科医ちゅり男のブログ
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