第57回 【糖尿病学の進歩】の感想-8 一粒で二度おいしい

健康法

【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

第57回【糖尿病学の進歩】では,糖尿病の薬について最新の情報を紹介するシンポジウム『2型糖尿病の薬物療法のUPDATE』が行われました.

実際のシンポジウムの順番とは異なりますが,話がつながりやすいので シンポジウム6番目のこの講演を取り上げます.

2SY-5-6 GIP/GLP-1受容体作動薬の可能性

GIP/GLP-1受容体作動薬は,デュアルアゴニスト(Dual Agonist;二重作動薬)とも呼ばれます.2つのインクレチン(=GIPとGLP-1)の受容体をどちらも同時に活性化できるからです.つまり『1粒で2度おいしい』のです.

(C) 江崎グリコ株式会社

ここまで長々と GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の話を続けたのは,このデュアルアゴニストの意義を示すためでした. したがってGLP-1受容体作動薬の記事をお読みいただいた方には.デュアルアゴニストの説明は この一言だけで十分でしょう.

Dual Agonistとは GIPとGLP-1,どちらの受容体にも作用する薬です.
 

以 上

これだけですと石を投げられるでしょうから,図で示すとこういうことです.

この記事の最後の図と見比べていただくと,これが強力な薬であることは 納得できるでしょう.

どうしてこんなことができるのか?

おそらく4月中には販売が承認されるデュアルアゴニストチルゼパチド Tirzepatide(商品名は『マンジャロ』 何じゃろ?)のアミノ酸配列を,GIP,GLP-1と比べるとこうなります.

ウグイス色はチルゼパチドが,GIP,GLP-1のどちらも真似している部分,薄青は GIPを真似ている部分,そして薄緑がGLP-1を真似ている部分です.全体としてはGIPにもGLP-1にも見えるように真似ています.ですからGIP受容体もGLP-1受容体もどちらも騙されてしまうようです.

私は 最初デュアルアゴニストの話を聞いた時,GIPによく似た化合物とGLP-1によく似た化合物とをくっつけたものだろうと思っていたのですが,

そんな単純なものではなかったのですね.どちらの受容体から見ても騙されてしまうのですから,ものまねの天才が,郷ひろみと桑田佳祐のものまねを同時にやっているようなものです.

日本でも近々登場しますが,海外ではすでに昨年5月に発売されており,その効果を見ると非常に強力な血糖値低下効果及び体重減量効果が確認されているようです.

チルゼパチドの効果

チルゼパチドの効果を報告した論文です.

Frias NEJM 2021

この報告は,デュアルアゴニストチルゼパチドと,GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(商品名:オゼンピック)との効果を比較したものです.
どちらも18歳以上で肥満の2型糖尿病の人に,週1回の投与で,40週までの経過を観察しました.

  • セマグルチドの投与量は 0.25mgから始めて,4週ごとに 0.5mg→1mgと増量しました.
  • チルゼパチドの投与量は 2.5mgから始めて,やはり4週ごとに2.5mgを増量し,最終的に5mg/10mg/15mgとした3種類です.

各投与群はそれぞれ約500人と規模が大きいので,偶然によるバラツキは少ないものと思われます.

Frias 2021 Fig.1Bを訳

チルゼパチドの最大投与量(15mg)では,HbA1cは 40週で 8%以上から5.82%にまで下がっています. 最小投与量(5mg)でもセマググルチドよりも低い6.19%でした.

Frias 2021 Fig.1Dを訳

空腹時血糖値でもチルゼパチドは投与量依存的にセマググルチドよりも強力な低下効果を示しました.

そして すごいのはこの体重変化です.

Frias 2021 Fig.2Bを訳

体重もチルゼパチドの投与量に依存して 40週で最大-12.4kg減とすさまじいですが(しかもまだまだ減りそう),これはベースライン(初期状態)で BMI=33~34,体重で92~94kgの人を対象としていたからです.それにしても13.1%の減量率はすごい値です.

ただし 以上の結果はほとんどが欧米人のデータです.この試験の総人数は,対照群であるセマグルチドを含めて合計1878人ですが,その内アジア人は25名しかいませんでした.

もともと 欧米の糖尿病患者は,インスリン分泌能力に不足しているわけではありません.それどころかドバドバとインスリンを出す能力があるのです.ですからGLP-1受容体作動薬やデュアルアゴニストでインスリン分泌を促進してやればいくらでも出てくるのでしょう.これに減量によるインスリン抵抗性解消が加わって強力な血糖値低下になっていると思われます.

欧米人の膵臓はV8 4,000ccエンジンみたいなものです. そのアナロジーでいけば,日本人の膵臓は 50ccの原チャリエンジンです.したがって薬物によって いくら強力な刺激を与えても,そもそもインスリン分泌能力の上限で頭打ちになってしまう,つまり効き目には限界があるかもしれません.

なお,デュアルアゴニストの副作用(吐き気,嘔吐,下痢など)はないわけではありません.投与を中止せざるをえなくなった程ひどい副作用の発生率は6-8.5%にみられました(セマグルチドは 4.1%).この数字は これまでのGLP-1受容体作動薬とほぼ同程度であったと報告されています. ただし まだ日本人への実用投与は始まっていないので,これも何とも言えません.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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