【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
前回の糖尿病投薬アルゴリズムの記事では,日本糖尿病学会は,投薬を開始する際には,まず患者が肥満かそうでないかを見極めたうえで,すなわちインスリン抵抗性の糖尿病か,あるいはインスリン分泌不全の糖尿病かを仮定して行うよう推奨したことを紹介しました.
このことは,学会が 日本の糖尿病には少なくとも2パターンがあることを公式に認めたことになります.つまり;
痩せ型の糖尿病と肥満型の糖尿病の2種類がある
これは,スウエーデンの Ahlqvist博士が提唱した糖尿病の新分類を,部分的にせよ受け入れたことを意味すると思います.
実際,今回の学会でも Ahlqvist博士の新分類に言及した講演が2本ありました.
シンポジウム36 より良い糖尿病治療アルゴリズムを目指して
S36-5 心血管疾患
東京慈恵会医科大学 西村理明 先生の講演です.西村先生はCGMの第一人者です.講演のテーマは血糖コントロールと心疾患との関係でしたが,講演の最後にPrecision Medicine,すなわち 患者一人一人に合わせた精密な(Precision)治療の必要性を指摘しました.
そしてその根拠としたのが,
Alqvist博士の新分類は,単に従来の1型,2型糖尿病を分類し直したというだけでなく,
糖尿病のタイプによって特定の合併症の起こりやすさが異なるので,早期に手が打てることを意味しており,正にPrecision Medicineの一例であると紹介していました.
そして,もう一本の講演では
シンポジウム4 糖尿病の予防と制御へのアプローチ
S4-3 医療ビッグデータが教える日本人糖尿病の予防エビデンス
新潟大学 曽根 博仁 先生の講演です. 曽根先生もやはり,本ブログのこの記事で紹介した,糖尿病予備軍をクラスター解析した Wagner論文を引用して;
日本人に特徴的な糖尿病発症パターンがよく説明できると解説していました.
糖尿病診療ガイドライン 2024
2019年に続いて,来年には糖尿病診療ガイドラインの改訂が予定されています.前回まではほぼ3年ごとに改訂されてきたのですが,今回はかなり間があいてしまいました.前回の2019年版までは,『2型糖尿病は1つの病気である』というのが日本糖尿病学会のスタンスでしたが,投薬アルゴリズムの発表に見られるように,2型糖尿病をひとくくりにする考えはもはや破綻しつつあります.
たしかに 2型糖尿病が一つではなく,複数の異なる病気であるのなら,投薬方法をそれぞれに最適化することは妥当でしょう. さらに言えば 2型糖尿病で肥満型/非肥満型という2つのパターンの投薬アルゴリズムがあるのであれば,食事療法もそれぞれによって2つあってもおかしくないということになります.果たして この考えを次回の診療ガイドラインに盛り込めるでしょうか.
ここまで,第66回 日本糖尿病学会 年次学術集会に参加した感想をまとめてきましたが,しめくくりとして 最後に食事療法に関わる講演・シンポジウムを聴いた感想を次回に述べてみます.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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