米国のCLIA法
米国では,医療検査の精度については,CLIA法があります.
CLIAは、1960年代後半に、子宮頸癌の細胞検診で,検査機関の劣悪な労働条件のために,誤判定(癌なのに見落とし,又はその逆)が多発した事件を受けて制定されたものです.
1967年、臨床検査室改善法案が可決され、最初の検査室規則 CLIA ’67が制定されました。 ただ CLIA ’67 は主に独立した病院のラボだけが対象でした.
その後1988年に、病院・ラボだけでなく、すべての検査施設に適用拡大され(CLIA ’88),現在ではさらに すべての病院,すべての診療所、老人ホーム、さらには健康フェア会場での検査までもこの法律の規制を受けます.
CLIA ’88が検査施設に要求する水準は非常に高く,検査室の構造・設備,検査の標準作業書,異常判定のフローなど詳細であり,もちろん検査の精度管理も義務付けられています.
この基準に満たないとみなされると,是正命令が出され,しかも違反状態が続く限り1日あたり最大$10,000の罰金,さらには業務停止命令などを課せられます.
また検査機関の責任者の法的責任も重く,故意に違反した場合は,罰金だけでなく懲役1年(初犯の場合)又は懲役3年(再犯以上)となります.
当然,2017~2018年に厚労省で行われた『検体検査の精度管理等に関する検討会議』 に参加していた委員も,この米国での法規制はよく知っています.議事録を見ると,こういう発言があります.
国際水準を考えますと、アメリカにおいてはCLIA ’67というものが最初にあります。検査の精度・品質に関して、50年前に既に法律ができているのです。今回の医療法等の改正において、医師がいる医療機関において患者に結果を返す検査に関して、精度管理に関する法律ができて、日本はおくれること50年です。
『検体検査の精度管理等に関する検討会議』第1回 議事録
米国で50年前から行われている,医療検査の厳格な精度管理がどうして日本でできないのかという問題提起です.
ただこれに対する医師会・検査機関からの意見を見ると,直ちにCLIA法並の規制を日本で行うと,『検査業務そのものが行えなくなる』ところが発生し,それは現実社会への影響が大きすぎるということでした.
日本では 結局こうなりました
厚労省の検討会での議論は 最終とりまとめ で報告されていますが,それを受けて厚労省が省令を出しました.
実際の運用についての解説も厚労省から発表されています.
検査について,精度管理の必要性や,精度管理を行った場合の記録の保存は義務づけられたが,たとえば『少なくともN年に1回は精度検定を行うこと』などといった法的義務付けは見送られて,上記の通り『努力義務のみ 』 となりました.
したがって,日本では 実態としては 一応精度の高い医療検査は行われているものの,現時点ではそれは必ずしも保証されたものではないということを心に留めておいたほうがいいでしょう.
あとがき
いやあ,長かったです. 最初は この米国のCLIA法を紹介するつもりだけでした. なので最初に書いたのはこの記事だったのです.ところが,それをまとめてみると 「あれ? これの日本版は何だっけ?」となり,さんざん厚労省のHPで医療法条文を探したのですが,結局日本には法整備がないことに気づき,厚労省の検討会を探し当てました.
【8完】
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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