日本病態栄養学会や日本糖尿病学会など医学系の学会では,ランチョンセミナー(Lucheon Seminar)というものがあります. 早い話,学会に協賛する企業が出席者に提供する無料の昼飯です. しかし『タダ飯 食べませんか?』では露骨なので,
『ただいまから当社(医学系学会では製薬会社や医療機器メーカー)が高名なXX先生をお呼びして昼休みに講演会を開きます.せっかくの昼休み時間を潰すことになって申し訳ないので【かんたんな】昼食も御用意してございます』
という建前です.もちろん,会場入り口で渡される弁当は「かんたんな」ものではありません.
ボリュームは軽めですが,内容はご当地 選りすぐりの食材を使った豪華な幕の内弁当です.このランチョンセミナーについては,「企業と医者の癒着だ」「利益供与して便宜を図ってもらうのだろう」と実に評判が悪いです.実際そうだろうと思います. ただ今回の第23回日本病態栄養学会の開催会場である,この京都国際会館の周りには周囲数100m,飲食店など本当に何にもないのです.
一番近いのはグランドプリンスホテル京都で直線約200m. ここの日本料理店で 一度知り合いの医師とランチを食べたら一人 3,000円でした.いや おいしかったですが,これって私の1週間分の昼飯代ですよ.でそれ以外となると一番近いコンビニが約400m.
いずれにせよ数千人の学会参加者が一斉に押しかけて昼飯を食える場所などないのですから,会場での昼食提供は必須なのですね. まあクリーンに運営するなら,たとえ1,000円でも代金徴収すればいいだろうとは思うのですけど.
で,今回は そのランチョンセミナーで,上品な幕の内弁当をいただきながら聞いた話題です.
LS1-7 糖尿病食事療法を再考する-個別化治療の実践に向けて [岐阜大医 矢部大介教授]
講演の内容自体は,昨年9月に公開された『糖尿病診療ガイドライン2019』の概略説明であり,それはこの記事に書いた,宇都宮先生の講演とほぼ同じでした.
ところが,それに付け加えて,高齢者の蛋白質摂取と筋肉の増減の解説がありました.
高齢者は若者よりも2倍の蛋白質摂取が必要
昨年5月の日本糖尿病学会[仙台]でも報告された通り, 高齢者は若い人と同量の蛋白質を摂取しても,吸収・利用効率が悪いので,
若者なら 1.0-1.2g/kgの蛋白質摂取で十分でも,高齢者はその程度では 筋肉合成原料であるアミノ酸が不足するので,徐々に筋肉が減っていきます. 高齢者こそたくさん蛋白質を摂らねばならないのです.もちろん それに応じた運動も必要です.
では,若者の2倍くらい蛋白質を摂って,十分運動すれば それで万全でしょうか? 実はそうではないというのがこの講演でした.
筋肉は三度ベルを鳴らす
高齢者の骨格筋増強には,十分な蛋白質摂取,そしてレジスタンス運動[★]が必須ですが,それだけでは十分な効果が出ないことがあります. この論文の著者はその原因として 筋蛋白合成と同蛋白分解のサイクルに注目すべきとしています.
[★]レジスタンス運動
なお,この論文の著者は,高齢者の場合は高強度の運動を短時間行うよりも,低強度を長く行う方が望ましいとしています. 変形性膝関節炎のリスクをおかしてまで,高強度の運動をする必要はないし,高齢者の『遅くて小幅な』筋蛋白合成速度には,その方がマッチしているからだ,という主張です.詳しくは原文をお読みください.
食事から摂った蛋白質が分解・吸収されて,血中アミノ酸濃度の一時的な上昇 and/or 運動が刺激となって,筋肉を構成する蛋白質の合成(Muscle Protein Synthesis :MPS)が始まりますが,これは2時間ほどで収まり,次の刺激までの期間は,MPSとは反対の方向,つまり古くなった筋蛋白分解(Muscle Protein Breakdown :MPB)が起こります. 若い人の場合,このリズムの交替は 速やかにかつ大きくスイングするのですが,加齢によりだんだん遅れ気味に・かつ幅が小さくなります.つまり,高齢者は十分な蛋白質(アミノ酸)補給があっても,筋蛋白合成効率はよくないのです.
そこで体重60kgの高齢者が毎日しっかり100gの蛋白質(1.6g/kg)を食べていると自慢していても,その三食配分がこうだったらどうでしょうか?
朝食と昼食後の筋蛋白合成時間帯には,アミノ酸原料不足で筋肉が作られなかったのです. 夕食は アミノ酸が十分なので筋蛋白合成ができましたが,摂取量が過剰なので 余ったアミノ酸は 単に燃料として(カロリー源として)使われるだけになっています. 一方 古い筋肉細胞分解の方は,1日三回 きっちり行われています. したがって この例では,「蛋白質を十分とっているのに筋肉が減少していく」ということになります.
一日の蛋白質摂取総量が同じでも,夕食にまとめて摂るのではなく,三食均等に摂ったほうが効果的であるという話でした.
(C) ワーナー・ブラザース
[学会報告の紹介が続きます]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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