和という選択

内科医

 季節が巡るのは早いもので,もう3月も終盤,あちこちで桜の開花が見られるようになりました.

 先日は土日を利用して博多と太宰府に行ってきました.
 学会その他で何度か訪れたことのある博多ですが,今回は久しぶりの訪問でした.日本の西の玄関口としての発展ぶりは目を見張るものがあり,インバウンドの増加もあってか(やはり地理的に近いからか韓国からの観光客が多い!),博多駅は驚くほど多くの人でごった返していました.
 
 気候もすこぶる良く,夜は夜景が煌びやかな中洲の屋台で地元のグルメに舌鼓を打ち,翌日は太宰府へ参拝に向かいました.
 平安時代,類まれな才能によって立身出世を遂げながらも,周囲の妬みを受けこの地に配流された菅原道真公.その道真公を祀る太宰府天満宮の参道は多くの観光客で賑わっていましたが,私自身は静かに手を合わせ,心を整えるような気持ちで参拝してきました.

 さて,1カ月ほど前に始まったイスラエルとアメリカによるイランへの軍事侵攻は,当初の想定とは裏腹に長期化の様相を呈しています.最高指導者が倒れれば体制転換が起こるといった楽観的な見通しは現実とはかけ離れ,攻撃と報復の応酬はむしろ泥沼化し,長期化の懸念さえあります.
 この戦争に対してはイランのみならず同盟国であるNATO諸国,さらにはアメリカ国内,しかも共和党やトランプの岩盤支持層MAGAからでさえも非難の声が上がっていて,国際社会の分断は一層深まっています.
 ホルムズ海峡の封鎖は今や石油をはじめとした世界の物流に大きな影響をもたらし始め,日本にもじわじわと影響が出始めています.
 現時点では医療に欠かせない注射器やプラスチックボトル等の供給がすぐにストップしてしまう状態ではなさそうですが,戦争がこのまま続けば早晩出荷規制がかかるでしょう.そうなれば数多の人命が危険に晒される可能性さえ現実味を帯びてきます.

 こうした状況を見ていると,「自国の安全を守る」という大義のもとに行われる軍事行動が,結果としてさらなる不安定を招くことになつてしまうという構図は,過去の歴史とも重なって見えます.

 アメリカはベトナム戦争やイラク戦争など多くの凄惨で苦い経験を経てきたはずなのに,またもや同じような構図が繰り返されていることに,複雑な思いを抱かざるを得ません.
 イスラエルに関しても,かつて自らが受けた歴史的悲劇を想起するならば,現在の状況が周囲にどのように映っているのか?そのことに対して,ある種の歴史の皮肉を感じずにはいられません.
 米国の主張する「力による平和」,これは人類の歴史を振り返ればある意味必然的なところもありますが,それは同時に決して長くは続かないということも証明されています.力による平和は一時的には可能かもしれませんが,支配された側の民族にはいつまでも憎悪と復讐への思いが残るからです.

 そして,現代の紛争の多くにおいて,宗教や民族の違いが政治的に利用されている現実も見過ごせません.
 宗教とは本来は人を救い,心の拠り所となるべきものなのに,それを極端に解釈した指導者たちが,自分たちにとって敵か味方か,善か悪か,そういった単純な旗印のみを掲げて無益な争いを引き起こして無辜の人民を殺害し,そして挙げ句の果てには世界中を混乱に陥入れているのです.

 神社仏閣で手を合わせると,いつも心が洗われるような感覚になります.家族が,社会が,そして世界が穏やかであるように——そう願う素朴な気持ちこそ,本来の祈りの姿であるはずです.

 日本人は,長い歴史の中で,自然や祖先,あらゆるものに神を見出し,感謝とともに「和」を重んじて生きてきました.島国という環境の中で育まれたその感性は,ともすれば自己主張の弱さや曖昧さとして捉えられることもありますが,見方を変えれば,他者との軋轢を避け,共存を重んじる姿勢とも言えます.

 世界は今,力と力がぶつかり合う不安定な時代にあります.
 理想論過ぎると揶揄されるかもしれませんが,その中で,日本人が長い歴史の中で培ってきた「和を尊ぶ精神」は,決して万能の解ではないにせよ,対立を和らげるための重要な視点の一つになり得るのではないでしょうか.

 私の長年やっている合気道は,相手を制して身を守る武道ではありますが,自分から攻撃を仕掛けることはなく,「和」の武道と言われます.
 養神館合気道の創始者である不世出の達人,塩田剛三が語った「最強の技は相手と仲良くなること」という言葉は,単なる理想論ではなく,むしろこれからの時代にこそ必要とされる現実的な指針なのかもしれません.
 合気道の極意が「相手を打ち負かすこと」ではなく,「相手と調和すること」にあるように,本来,争いを避けるための知恵は,すでに人類の中に存在しているはずです.

 グローバル化が進み,誰もが無関係ではいられないこの世界において,対立ではなく共存を模索する姿勢を,私たち一人ひとりが改めて問い直す時に来ている——そんなことを,今回の旅と世界情勢を重ねながら考えさせられました.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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