薬の無駄

病院で処方してもらった薬、
飲み切らずに
残ったことありますか?――

もう10年以上前のこと

産婦人科の内診台で、
大股開いて診察を待っているとき、
隣の診察室から
医師と患者の会話が聞こえてきた

一応壁で仕切ってはいるものの、
隣の声が
丸聞こえになる医療機関がほとんど

造りによっては
待合室に漏れることもある

まぁ、仕方がないのだろうけど

どうもこの患者、
性病にかかったらしい

  このような会話が外に漏れるのは
  どうなのだろう

  私も乳がん告知を受けたとき、
  「絶対周囲に聞かれているな」と、
  本当に嫌だったものだ

そして医師の言葉に私は驚いた

なぜなら医師は、

「薬出しておくけど、
 合わなかったからって
 返品は勘弁してね」

そう言ったからだ

『え?
 薬って、返品する人いるの!?』

そういえば私も
この婦人科で出してもらった漢方が
合わなかったことがある

が、さすがに「返品しよう」とは
思いつきもしない

そもそも口にするものは、
返品できないものだと思っている

それが“薬”となれば、なおさらだ

少し前も、こんなことがあった

それは、
耳鼻科で処方してもらった薬を
薬局に取りに行ったときのこと

70代くらいだろうか、
女性の患者が
薬剤師さんの説明を受けていた

「お薬、ちゃんと飲んでいますか?」

と、確認する薬剤師さんに、女性は、

「いいえ、飲んでません」

と、はっきり言い放った

その会話を聞いていた私は驚いた

『じゃあ、なんのために
 病院に通ってるの?
 なんのために、
 薬もらいに来たの?』

薬剤師さんも固まっていた

全く謎の女性だ...

私が乳がんで5年間飲んでいたホルモン剤

今思えば、これも自己判断で
飲むのをやめてしまう人もいるのだろうか

日本では、
“処方された薬の約20%が残薬になる”
というデータがあるらしい

  ※残薬・・・使われずに余る薬

金額にすると、なんと、
年間約3,300億円の医療費が
無駄になっているとか

  がん患者には
  少し身近に感じる“医療麻薬”

  どうしても
  廃棄は避けられない薬ではあるが、
  これだけでも年間6~7億円が
  廃棄されているそうだ

前出の、
「処方された薬を飲んでいない」女性

このような人は、一定数いるのも事実

これは国も問題視しているところで、
医療費の削減には
残薬を減らすことを推進している

では、どのように削減するのか――

 【国や薬剤師がとっている対策】

  ○節約バッグ運動
   家の残薬を薬局に持ってきてもらい、
   処方を調整する
      ⇩
   これで約20%の医療費を削減できる

  ○処方日数の見直し
   初回は短めに出す
      ⇩
   合わなければすぐ変更できる

  ○薬剤師による服薬状況の確認
   まさに、先ほどの女性だ

ではいつごろから『残薬対策』が
本格的に制度として動きはじめたのか――

  ◎2000年代後半~2010年頃
   問題として認識されはじめる

   ○高齢化により多剤服薬が増える
   ○飲み忘れ、飲み残しが社会問題化
   ○薬剤師会が個別に調整をはじめる
    (滋賀県、福岡県、鹿児島県など)

   ※この頃はまだ地域の薬剤師会が
    自主的にやっていた段階

  ◎2011~2014年
   国が本格的に動きはじめる

   ○日本薬剤師会が、
    在宅療養推進アクションプランを開始
       ⇩
    在宅で残薬をみつけて
    整理する取り組みが広がる

   ○高齢者の服薬支援や
    残薬整理の研究が増える

   ※この頃から
    “残薬は医療費の無駄”という意識が
    国レベルで広がる

  ◎2015~2016年
   制度化が一気に進む

   ○厚生労働省が
    残薬対策の研究事業を開始(2015年)
       ⇩
    ・残薬の量、額を全国で調査
    ・対策の必要性を中医協*で正式に議論

     *)中医協とは――
       中央社会保険医療協議会。
       公的医療保険における医療サービスや
       医薬品の公的価格(診療報酬や薬価)を
       2年ごとに見直しながら審議し
       厚生労働大臣に答申する、
       厚生労働省の諮問機関。
       医療の配分や新しい治療の保険適用など
       日本の医療制度の根幹を担う、
       非常に重要な役割を果たしている。

      ≪委員構成≫
       ・支払側委員 7名
         ⇨保険者、被保険者の代表
       ・診療側委員 7名
         ⇨医師、歯科医師、
          薬剤師の代表
       ・公益委員 6名
         ⇨国会同意人事

       ※この三社構成で、
        医療の値段をめぐる利害を
        調整する仕組みになっている

   ○処方箋様式が改定され、
    残薬調整がしやすくなる(2016年)
       ⇩
    医師と薬剤師が連携して、
    “残薬確認→日数調整”が制度化

   ○かかりつけ薬局制度が本格始動
       ⇩
    ・服薬状況の継続管理が義務化
    ・残薬確認が薬剤師の正式な業務になる

   ※“残薬対策は国の政策”として位置づけられ、
    大きな転換点となる

  ◎2017年以降
   ブラウンバッグ運動、
   在宅支援が全国に広がる

   ○患者が家の薬を袋に入れて
    薬局へ持参する“ブラウンバッグ運動”が
    全国展開

   ○在宅訪問での残薬整理が一般化

  ◎2020年代~現在
   電子処方箋、医療DXでさらに強化

    ・電子処方箋
    ・オンライン資格確認
    ・ポリファーマシー*対策の強化

    ※残薬対策は
     “医療DXの柱”のひとつとして
     扱われている

    *)ポリファーマシーとは――
      薬をたくさん飲みすぎて
      かえって健康に悪影響が出ること
       ・5種類以上の薬を飲んでいる
       ・成分が重複している
       ・飲み合わせが悪く、副作用が増える
       ・飲み忘れ、飲み残しが増える
       ・本来の治療効果が出ない

“残りやすい薬”と言えば、
内科で処方される風邪薬だろうか

以前は、

「5日分処方されたら
 たとえ症状が収まっても
 すべて飲み切ってください」

というのが常識だった

理由は、

 ○医師がこの症状には、
  5日分の薬が必要と
  判断していたから

 ○途中でやめてしまうと
  再び症状が出てきてしまう可能性が
  あるから

が、今は、

“風邪は自然に治る病気のため、
 症状が収まれば
 無理に飲み続けなくてもいい”

という考え方になっている

飲み続けたときの副作用のリスクを
回避するためでもあるようだ

まさに、

『昔の常識は、今の非常識』――

...である

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Source: りかこの乳がん体験記

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