『母語録』

母は、若干、“天然”なところがあった

昔は感じたことがなかったが、
歳をとると、人間、
そうなっていくものなのだろうか...

以下は、
そんな『母語録』のほんの一部である――

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  閑散とした街の中

  見渡す限り、
  ほかに歩いている人はいない

  その時、母が発した言葉は...

  「あら、一人っ子ひとりいないわ」

  かあちゃん...

  それを言うなら、

  「人っ子ひとり」だよ...

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  私が子どもの頃、食卓にのぼる“鮭”と言えば、
  “紅鮭”か“新巻”だった

  “紅鮭”は、さすがに高級

  北海道に住む私たちには、
  “新巻”が主流だったような記憶がある

  その後、“トラウトサーモン”なる代物が、
  鮭界を占拠しはじめる

  その脂の乗りとやわらかな肉質...

  「こんなに美味しいシャケが、この世にあるのか...」

  と、驚いたものである

  そして母が言った

  「このウルトラサーモン、美味しいね」

  まぁ、確かに、
  “ウルトラ級”の旨さではあったが...

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  それは、母が甲状腺がんの手術を受けた、
  数か月後のことだった

  “神の手”と呼ばれている、
  ある“スーパードクター”を特集した、
  ドキュメンタリー番組をテレビで観ていた

  「あら、いいわね。

   私も魔の手に手術してもらいたかったわ」

     “魔”かよ......

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...と、

まぁ、こんな母であった

あっちの世界でもそんな“天然”で、
周りを笑わせているのだろうか

そして私は、年々、
そんな母に似ていくような気がするのである――

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Source: りかこの乳がん体験記

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