医者はどんな薬でも処方できるのでしょうか。
これは「YES」と答えることができますが、やはりいろいろと制限があると考えるべきです。
たとえば、私がよく処方するエピペンや、ミティキュア、シダキュアのような薬は講習会を受けなければ処方できません。
そして、保険適用を守ることも大切です。
今回は、保険適用について考えてみます。
適応外処方と保険適用
このような質問を頂きました。
ファロー四徴症の新生児にβ遮断薬が処方されていた症例についての質問です。薬剤の継続処方を希望されましたが、明らかな適応外使用なので保険診療上、対応に苦慮しました。このような専門外で詳細が不明な適応外処方をせざるを得なくなった場合、どのように対応されているのかご意見をお聞かせください。
ファロー四徴症に対するプロプラノロールは2014年11月から保険適用となっていると認識しています。
そのため、2014年以前に質問のような状況になったのでしょう。
それでも、適応外使用について考えておくことは大切なことです。
医薬品は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と薬事食品衛生審議会と厚生労働省とが、複雑な(私にはそう見えます)プロセスを経て、承認されます。
承認された医薬品は薬価収載され、健康保険適用されます。
ただし、どんな使い方をしても、保険適用されるわけではありません。
薬には使い方があります。
たとえば、気管支喘息に対してダニの舌下免疫療法薬(たとえばミティキュア)を処方するのは、適応外使用です。
適応外使用では保険適用されません。
さらっと言いましたが、2つ注意点があります。
1つは、適応外使用でも保険適用される例外があります。
そしてもう1つは、適応外使用は「適応」と書きますが、保険適用は「適用」と書きます。
この間違いは何度も何度も小児科ファーストタッチの編集者に直されましたが、未だに私の中でよく分かっていない謎です。
適応外なのか、適応内なのかは、添付文書で確認します。
効能効果、用法用量が守られていない場合、適応外使用になります。
たとえば、さきほどのミティキュアの添付文書をみると、ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する減感作療法が効能効果です。
気管支喘息にも有効だったという論文がいくらあろうとも、アレルギー性鼻炎のない気管支喘息には適応外です。
適応外処方の問題点4つ
効能効果、用法用量を守らない適応外使用には、問題点が4つあります。
医薬品副作用被害救済制度の対象から外れる
適正に使用された医薬品によって副作用が生じたとき、医薬品副作用被害救済制度が適用されることがあります。
これは「適正に使用された」かどうか議論となりますので、適応外使用は救済されない可能性があります・
医師の責任が増す
もし医療事故が発生し、重篤な健康被害が発生したとき、裁判になるかもしれません。
この裁判で、適応外使用だったという事実は医師を不利とするでしょう。
保険請求できない
当然というべきですが、適応外使用は保険適用されませんので、保険請求できません。
もちろん例外はあるんです。
でも、普通は保険適用されません。
「保険適用されなくても、自費ならいいんだよね」
と簡単に考える人は多くないでしょう。
というのは、自費と保険診療をミックスすることができないからです。
自費で診療する場合、すべての診療が自費です。
喘息にミティキュアを出すなら、診察料、検査、ミティキュア以外の飲み薬や吸入薬、そのすべてが自費になります。
薬剤師のチェックが難しくなる
薬剤師法第24条で、薬剤師は処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめなければならないとされています。
適応外処方は疑わしい点となりますから、基本的には疑義紹介の対象です。
たとえば、胃腸炎関連けいれん(ウイルス性胃腸炎に伴う無熱性けいれん)に対してカルバマゼピンが処方されたとします。
カルバマゼピンの効能効果は、「精神運動発作、てんかん性格及びてんかんに伴う精神障害、てんかんの痙攣発作:強直間代発作(全般痙攣発作、大発作)、躁病、躁うつ病の躁状態、統合失調症の興奮状態、三叉神経痛」です。
そして用法用量については、「小児に対しては、年齢、症状に応じて、通常1日100〜600mgを分割経口投与する」とあります。
胃腸炎関連けいれんも一種のけいれん発作ではありますが、効果効能は満たしているかは議論があるでしょう。
用法用量についても幅が広いです。
したがって、本当に正しい処方なのか、薬剤師の先生には判断ができないと考えられます。
したがって胃腸炎関連けいれんにカルバマゼピンを処方すると、ほぼ必ず疑義紹介が来ます。
そのため、処方した医師は「ああ、またか」と考えがちです。
この「ああ、またか」がチェック機能の低下につながります。
そもそも、疑義紹介が来やすい薬というのはある程度決まっていますから、処方箋と併せて根拠となった論文なりガイドラインなりを患者さんに持たせるのもいいでしょう。
(この行為が、薬剤師の先生にとって意味があるかは分かりませんが、少なくても処方医の意図は伝えられるはずです)
これなんて、日本語ですし、5mg/kgの単回投与ですし、いいと思います。
これを添付したうえで疑義紹介が来たのなら、あなたの処方ミスです。
量や回数を必ず確認しましょう。
適応外処方は、処方意図が分からないと「ミスなのか、意図的なのか」が薬剤師側からチェックできません。
せっかくのチェック機構が働かないのは、患者さんにとってリスクとなります。
適応外使用でも保険適用できる場合
以上の問題点から、適応外処方はやはり慎むべきです。
いっぽうで、適応外使用であっても「副作用報告義務期間又は再審査の終了した医薬品は、学術上誤りがなければ、添付文書で認められていない使用も保険診療となりうる」というルールがあります。
昭和55年9月3日付保発第51号厚生省保険局長通知の「保険診療における医薬品の取扱いについて」です。
これは、「審査情報提供事例」にてまとめられています。
詳しくはこの記事に書きました。
これにより、クループ症候群に対してデキサメタゾンを使うことができます。
(デキサメタゾンの効能効果の中に、クループはありません)
適応にあっても保険適用されない場合
逆に、効果効能に含まれても、保険適用できないケースがあります。
オセルタミビル(タミフル)の予防投与については、添付文書に記載があるものの、保険適用されません。
シルデナフィル(バイアグラ)も効果効能は勃起不全ですが、その効果効能を目的で処方しても保険適用されません。
最近では、アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬も保険適用を続けるべきか議論になりました。
まとめ
適用外使用は、医薬品副作用被害救済制度の対象から外れ、医師の責任が増し、保険請求できず、薬剤師のチェックが難しくなり、処方ミスのリスクが上がります。
冒頭の質問のケースに関してですが、「前医ではそうしていた」という理由だけで、処方を継続するのは好ましいと思えません。
継続する処方医の先生も、また処方に携わる薬剤師の先生も、どちらもが納得できるだけの根拠が必要です。
私は適用外使用薬をあえて処方する根拠となるガイドラインや論文などを添付することがあります。
また、プライマリ・ケア医に引き継ぐ際にも、紹介状に処方根拠を添付するようにしています。
なお、診療報酬明細書の審査に関してはアドバイスできません。
(これは出してみないと分からないので)
Source: 笑顔が好き。
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