前回までの記事で,
『マクガバン・レポートが日本の,特に江戸時代・元禄期の日本食を理想的と評価した』というのはデマである
と書きましたが,これについて
マクガバン・レポートでは,日本の食事が心疾患の低い原因だと評価しています
というご指摘が届いております.それでは;
レポート原文を見てみましょう
おそらく上記の指摘をされた方は,マクガバン特別調査委員会報告・補足文書;
を指しておられるのだと思います.この文書にはたしかに日本に言及した箇所があります[後述]. しかし,その前にマクガバン・レポートが『食事の脂質を減らすべきだ』をどういうロジックで展開し,そして公聴会に出席した証人から論破されてしまったのかを見てましょう.
マクガバン・レポートの論理
マクガバン・レポートでは,膨大な「エビデンス」が挙げられています. しかし,それらは 『委員会のスタッフが世界各国を調査して回った』のではなくて,当時の 医学・栄養学文献からの引用がほとんどでした. それ以外には 専門家にヒアリングした記録,それでほぼすべてです.
まず 米国人の脂質摂取が増えているというデータは,この通りです.
そして,脂質摂取比率と心疾患発症率が相関する一例として,米国とスウェーデンの病院で 入院患者中に占める心疾患患者の割合と,その患者から聞き取った普段の食事の脂質割合とを比較した論文を引用しています.マクガバン・レポートではこれと同じような内容の文献を多数引用していますが,これはその代表例の一つです.
つまり,食事に占める脂質の割合が高いと心疾患(この場合は冠動脈疾患)が高くなる傾向が見られたとしています.
以上の相関関係から,1900年以降の米国での心疾患死亡者のこの増加は,脂質摂取増加が原因であると結論づけたのです.
相関関係だけが示されている
統計に強い方なら,もうおわかりのことと思いますが,上の3つのグラフを結びつけても,それらは相関関係であって,因果関係の立証にはなっていません.
現在の日本でもこういう文章は よくみられますが;
- 静岡県の一人あたりのお茶の消費量は日本一である.
- 静岡県の XXX癌の発生率は,日本で一番低い.
- よってお茶のカテキンには,癌を予防する効果がある,
マクガバン委員会が力説したことは,本質的にはこれと同じ三段論法にすぎなかったのです. だからこそ,医学者・科学者がこぞって『疫学データは科学的証明にはならない』と衝いたのですが,統計の専門家ではないマクガバン議員からすれば「これほど完璧に証明されていることが なぜ否定されてしまうのか?」と さぞ不思議だったでしょう.
[15]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
コメント