インスリン分泌の『なぜ?』を考える16完

健康法

納先生のHPに掲載されている26人の5時間 糖負荷試験結果に基づいて,インスリン分泌を考えてきました.

私がこのデータに注目した最大の理由は,

  • 糖負荷試験では 通常の2時間までしか測定しないが,30分おきに5時間も測定していること.
  • 通常の糖負荷試験では,0分,30分,120分のインスリン値しかみないが,これも30分おきに5時間までみていること.そして;
  • 一部 境界型の人もいるが,ほとんどは現在の診断基準では『正常』とされている健康な人

であることです.

納先生も述べておられるように,26人のデータは,ひとりひとり まったく異なっています.しかもこれは糖尿病の患者を測定したというのではなく,健康な人なのです.

横軸:血糖値/ 縦軸:インスリン値で描いてみたループ図の多様性を見れば,普通に暮らしている健康で正常な日本人は実はみんなこうではないのか,ということです.

たまたま糖尿病を発症した人の糖負荷試験ばかりを見るから 『糖尿病=インスリン分泌の遅れ』と見えるのでしょう. しかしその人が正常な時からそうであったのなら (つまり糖尿病になったからインスリン分泌遅れが始まったのではなくて),もともとインスリン分泌のおっとりした人が糖尿病になった例をみているに過ぎないと思います.

この事を間接的に裏付けているのは,今年の日本糖尿病学会でのこの報告です.

肥満のない2型糖尿病の頻度と特徴

第63回日本糖尿病学会年次学術集会 III P-102-3

人間ドックを受診した BMIが20未満,つまり痩せている人 475人を,その後10年間追跡調査したところ,43人(9.1%)が糖尿病を発症していました.

この43人は,たしかに最初の受診時点で,耐糖能障害(境界型)・高血圧を有している人が有意に多かったようです.また糖尿病を発症しなかった人に比べて平均年齢も有意に高かったです.

しかし,注目すべきはそこではなくて,糖尿病を発症した人としなかった人とでは,どちらも脂肪肝や脂質異常,及び体重変化に差はなかったのです.

つまり『痩せていても内臓脂肪の多い人はインスリン抵抗性があり,糖尿病に至る』などというもっともらしい説は,このデータをみる限りは 支持されません.

そうではなくて,痩せている人に75gものブドウ糖を飲ませて,その2時間後血糖値が高かった人はもともとインスリン分泌が弱い人だったのでしょう.それが加齢により耐糖能障害が進んで 糖尿病と判定されるレベルに上がったとみる方が自然です.

糖負荷試験とは,体重・体格差を一切無視して 75gのブドウ糖を飲ませる試験であり,それでもって痩せている人を『耐糖能障害』と判定することは合理的とは思えません.

男性イラスト (C) でお さん
女性イラスト (C) ゆりころまさん

また,データには示されていませんでしたが,最初の受診時点で耐糖能障害ありと判定された人でも,10年後に糖尿病になっていなかった人もいたわけです.つまり耐糖能障害は,将来の糖尿病発症のリスクではありますが,十分条件ではないでしょう.

ほとんどの日本人が『痩せて貧相な体格』であった昔のライフスタイルでは,インスリン分泌が速かろうと遅かろうと,実生活上の影響はなかったのでしょう.

とすれば,日本人の糖尿病とは,最近米国型が増えつつあるようですが,純『国産』タイプもあるのではないか,そして

実は『2型糖尿病』と言われているものは,相互にまるで異なる病気がまとめてそう呼ばれているにすぎない

というAhlqvist博士の説にたちのぼって考える必要がありそうです.

インスリン分泌の『なぜ?』を考える【16完】

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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