子どもの事故に対応する「小児救急医」と中央集約型の小児救急モデル。

君たちは滅びゆく種族なんだよ。
これまでにも多くの生き物が絶滅してきた。
僕も本でしか見たことないけど美しい種族が地球の環境の変化に対応できなくて滅んでいった。
残酷だけど君たちもそういう運命なんだ。

借りぐらしのアリエッティ

ジブリ作品で始まりましたが、2018年8月11日第2回北近畿小児救急研究会に行ってきました。
私は小児救急でやってくるアナフィラキシーの特徴を伝えました。
自身の経験を共有できるのはとても良いことだと思っています。

そこで、私は「小児救急の新しいモデル」について勉強しましたので、今回はその内容を備忘録として残します。

子どもの死因

厚生労働省が年齢別の死因を報告しています。

1歳から14歳の子ども全体でみると、1位は不慮の事故です。
不幸なことに亡くなってしまう子どもの多くが、事故死であることが分かります。

小児科医と救急医

小児科医は子どもの扱いに慣れています。
熱性けいれんや熱中症を始めとした、小児の緊急事態にある程度対応できます。

しかし、一般的に小児科医は外傷が苦手です。
交通事故や転落、やけどなどの不慮の事故に対して、すべての小児科医が対応できるわけではありません。

その点、救急医は事故に慣れています。
ですが、救急医は子どもをあまり診ませんので、子どもに点滴したり、子どものバイタルサインを正しく評価したりすることが苦手です。
要するに、救急医は子どもの扱いが苦手です。

子どもの死因で最も多い「事故」は小児科医にとっても救急医にとっても不慣れな「隙間」といえます。

そんな「隙間」を埋めるのが小児救急医です。
小児救急医は小児科医としてのマインドを持ちつつ、救急医療を得意とします。

小児救急医療の問題点

質の高い診療を行うためには、該当する症例をたくさん経験する必要があります。
事故にあった子どもをたくさん治療し、回復させたという経験が、医療の質を向上させます。

しかし、小児の事故死は、死因の中で大きな割合を占めるものの、その絶対数は多くありません。

絶対数が少ないため、「子どもの事故をあまり診たことがない」という病院が多いです。
その結果、子どもに事故が発生したとき、子どもの事故をあまり診たことがないという病院が対応し、十分な質が保たれず、救える可能性が低下するという問題点があります。

中央集約とヘリコプター搬送

小児の事故症例をたくさん経験するためには、工夫が必要です。

つまり子どもに事故が発生した場合、各地に存在する「子どもの事故をあまり診たことがない」という施設で対応するのではなく、患者さんを1か所にまとめます。
集められた病院は、たくさんの事故症例を経験し、医療の質が上がります。

1か所に集めるとなると、かなり広域の搬送が必要になります。
そこでヘリコプター搬送です。
ヘリコプターは時速220kmで医者を現場に運び、さらに患者の搬送にも使えます。

「発生数が少ないために医療の質を保てない」という小児救急の問題点にとって、中央集約とヘリコプター搬送は解決策の一つになりえます。

小児救急の医療資源を維持するために

中央集約とヘリコプター搬送は、たくさんの小児事故症例を経験させ、医療の質を向上させるでしょう。
しかし、どれだけ広域搬送をし、中央集約したとしても、やはり小児の事故症例はそれほど多くありません。

多くない患者さんのために、看護師・装置などの医療資源を割くことは難しいです。

そのため、小児救急医は成人の救急現場でも積極的に活躍することが求められます。
小児救急に必要な医療資源を「成人救急」から借りることになります。

小児救急医は成人救急にも対応し、そのリソースをうまく小児救急に取り入れるように努めなければなりません。

感想

私は小児科医であり、子どもに関することであれば何でも診なければいけないと思っています。

いっぽうで、中央集約とヘリコプター搬送が可能になれば、私が子どもの救急(特に外傷)を見る頻度は大きく下がるでしょう。
それはもちろん子どもたちにとって良いことなのですが、中央集約型医療によって地方分散型の地域医療は(部分的に)滅びていくことになるのだろうと思いました。

そんなことを考えていたら、アリエッティのことを思い出しましたので、冒頭に書いた次第です。

まとめ

  • 1-14歳の小児の死因は不慮の事故が多い。
  • 小児の事故に対応できる病院は少ない。
  • 中央集約とヘリコプター搬送は解決策の一つ。
  • 成人救急の医療資源をうまく使って、小児救急を維持する。
  • 中央集約型の医療は、地域医療のありかたにも影響を与えるだろう。

Source: 笑顔が好き。

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