医療のターニングポイント

内科医

 歴史を俯瞰するに大きな戦争や感染症はしばしば世界規模での大変革をもたらすきっかけとなってきましたが,今回のコロナ禍も例外ではなく,世界中の人々の生活をかつてないほど一変させてしまったといっても過言ではないでしょう.

 また個人レベルでも,この見えない敵との戦いの中で制約された生活を強いられる中,人生観,仕事,社会との関わり方など,様々な面で改めて深く洞察し自分を見直す機会となっているようです.

 先日の日曜日の午後,母校の六甲学院の同窓会がありました.
 優秀な幹事団のお陰でほぼ毎年,しかも卒後40年以上経ても同級生約180人のうち毎回40人前後もの参加者で開催,私も毎年のように参加しています.
 ただ今年はこんな時期ですのでZoomを使った初のリモート同窓会となりました.いつもと勝手が違い一抹の不安もありましたが,少人数のグループに分けて各テーブル毎の歓談のような雰囲気を醸し出すブレイクアウトセッション機能も駆使して,多いに楽しめました.

 さて,我々も齢六十をとうに超え,それぞれの道を歩んでいるようです.子会社に出向したり転職したり定年退職した者もいましたが,私のように専門職の人間は,まだまだ大半が現役で仕事を続行しているようです.
 
 最近は書店に行くと,高齢化社会を反映してか,定年後の生き方,人生論,健康法などに関する本が所狭しと並べられており,自分には定年はないものの,今後残された数十年をどのように過ごすのがいいのか,興味をもってついつい手にとって立ち読みしてしまいます.
 私の場合は,収入を得るために仕事をしているのはもちろんですが,人々に可能な限りの良い医療を施せれば感謝の言葉をいただき,また診療を通じて様々な人たちと知り合い,教えられることも多く,やり甲斐も楽しみも感じていますし,また忙中閑ありだからこそ趣味や医師会活動,海外旅行なども出来ようというもので,身体の続く限りは働きたいと思っています.
 
 ただ今回のコロナ禍は医療機関にも大変な負担をもたらし,院内感染や医療従事者の感染,いわれのない誹謗中傷,病床の逼迫による通常診療への圧迫や経営悪化,と由々しき事態さえ起こっています.
 またプライマリアケアを担う当院のような開業医の多くは,幸か不幸かマスクや手洗いの普及や自粛の影響でインフルエンザや風邪の患者さんが激減し,また受診控えで長期処方を希望する方が増えることにより,収入が減っているとのこと,当院も程度は軽いですが例外ではありません.
 
 しかし,別の見方をすれば,基本的な予防策が感染症対策に極めて有効なこと,風邪などは軽ければ市販薬でも対処できること,慢性疾患でも安定していれば状況によっては頻繁な通院は不要なことを奇しくもこのコロナ禍が証明したわけで,公衆衛生学的にも,そして膨れ上がる医療費を削減するためにも良いことなのかもしれません.

 もちろん医療機関が経営難で潰れてしまっては本末転倒ですが,日本の社会保障費が国家財政を圧迫するほど膨れ上がっている昨今,私たちも初心に帰り,本当に患者さんにとって必要な医療は何なのか,通院回数や治療や処方の内容は適切かどうか,最適な医療を施せているかどうか,真の意味で選ばれる医療機関にするためにはどうすればいいか,などいちど原点に立ち直って見直すべき時に来ているのではないでしょうか.

 私たちの仕事は,どんな時代になっても,全く必要とされなくなるようなことは当面ないとは思います.けれども他の職種同様,現場にあぐらをかくことなく,軸はぶれないようにしつつも,変化に対応していかなくてはならないと思います.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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